道中:1
歩くのは健康にいいですよね。
ハルトみたいに、命懸けの状況下だと何とも言えませんが。
まあ、旅に徒歩はつきものですし、歩いてもらいましょう\(^言^)/
息と共に拍動数は跳ね上がる。人外女子たちのテンションも上がっているのだが、ハルトのテンションに限っては、それと真逆の放物線を描いて下降の一途を辿っていた。
「なぁ、まだ着かない?」
「何言ってんですか。まだ3キロメートルしか歩いていないのに」
と言ったのは璃瑠で、言下すぐに女子トークに戻った。
空気感は痛いし、とてもいたたまれない。
ふと、桜が咲いていてもおかしくない季節だよな、と思い出した俺は頭上を仰いだ。
しかし、桜どころか梅さえもが、俺に祝福の花をくれる気配すらなかった。
さながら、これでは冬のようである。
「なあ」
「愚痴なら聞いてやらないぞ」
「いや愚痴じゃあなくって。・・・なんかさ、花が咲いてないなんて変じゃないか?咲いてないのを抜きにしても、蕾すらないなんてやっぱり何かあるんじゃないか?」
すると璃瑠は、声を大にして高らかに笑った。
「アッハッハッハハハッ‼・・・フゥ、花が咲いてないなんて変、か。フフッ、この辺に花なんてないぞ?アレは木なんかじゃないさ。ましてや生き物でもない」
「・・・じゃあ、何だよ?」
それはな、と言って璃瑠は言葉を詰まらせた。
え、何かまずい事を聞いてしまったのか?と俺は思ってしまったが、次に璃瑠が言ったことで、俺はもれなく全部の勘違いを撤回することとなった。
「あれはな、・・・・・・ハリボテだ」
それからしばらくの後。
すっかり暗くなってしまった空に光りが点々と輝き始めた頃だ。
鬱蒼とした森の中で、俺たちは野宿をせざるを得なかった。
「野宿なんて久しぶりだなー!」
と絵茉がはしゃいでいる。こうして見ている限りでは、彼女をスケバンだと思う者はいるまい。
歩き疲れたし、今日はもう寝ようか。
「と言おうとハルトが口を開いたその時‼」
「あっつあつに煮えたぎるシチューが!!」
「彼のお口の中に注ぎ込まれたのです!」
ジュウ。
いい具合に煮えた、おいしそうな摂氏100度のアツアツクリームシチューが、女子たちの台詞通り俺のお口の中に注ぎ込まれた。
「@♪’Π^ゐ♪ゞ〇*#▲↓±!!?」
熱さのあまり口から吹き出したシチューが、俺の胸元を襲う。
まずい。火傷なんて軽いもんじゃ済まなくなる。
水。水をくれ。
どのくらい経っただろう。もう日が昇っているところを見ると、最低でも一晩はまたいだのだ。
起き上がれない。と胸元を見てみると、三人が三人とも、俺の胸元に寄り添い寝ていた。
看病してくれたのだろう、不格好ながら包帯が巻かれていた。
「ん・・・」
桜海が眼を覚ます。そして俺の顔を見るなりニコリとほほ笑んで。
「ハルト君・・・おはようごさいます」
と囁いた。
息がくすぐったい。笑顔が眩しい。そして急に訪れた恥ずかしさと照れが、鼓動を早めた。
さあ、今日はきっと、忙しい一日になりそうだ。
遅れを取り戻して、早く手紙を届けなければ。