第4節
クレータム卿は心のどこかで相手を侮っていた、自分でも気が付かないところでアーサーを見下していたのかもしれない。
アーサーの軍と将軍達の軍を比べると、兵力・練度・前線指揮官の数。
どれをとってもアーサーの軍よりも勝っていた、その侮りのせいで優秀な指揮官を失ってしまった、予想外なことに動揺をしてしまった。
あの時将軍の声がなければ、指揮系統は混乱して兵達は無秩序に行動をしてすでに敗退していた。
もしかしたらすでに殺されていたかもしれなかった、その事を考えると背筋に寒気が走った。
こうして考えると将軍は冷静で、この状況を予想していたのかもしれなかった。
今思えば将軍はいかなる時も動ぜず堂々としていた、岩の様にどっしりと構えると何事にも冷静に命令を下していた。
その光景を思い出すと自然に笑みを浮かべていた、自分はこの人に一生ついていくとクレータム卿は改めて心に誓っていた。
しかしそこで疑問が生まれていた、自分が聞いた話だと将軍はベイドン丘の戦いで、敵のあまりの数に動揺して冷静な判断を下せずに、全軍をまとめないうちに本隊のみで撤退を命じたと。
今までではありえない事だった、いつもの将軍なら自ら殿を申し出たり、前線に馬を走らせて、自ら指揮を執って混乱を収拾していた。
あの時はなぜ部下を見捨てて逃げたのか、確かに王子の命を守るのが第一だった。
だがあの場には王子以外にも初陣の者が多く、第1陣2陣共に指揮官は全員初陣の貴族の子息で編成されていた。
自分たちが絶対有利だと考えていた者が、本当は不利な状態だと気が付いた時の喪失感・恐怖・恐れ。
その感情に押しつぶされて、何もできずにただ立ち尽くす事しかできないと容易に想像が出来たのに。
本来の将軍はその者達を見捨てる事が出来る人ではない、それは確信をもっていえた。
それでも、ベイドン丘ではその者達を見捨てた。
疑問が疑念に移り変わっていた、昔から将軍を知っていたクレータム卿だからこそ、そのズレに気が付いてしまった。
(将軍は敢えて、子息を窮地に追い込み適応力を試したのか。人は危険に接した時に、本当の人柄と人物像が見えてくる。もしかしたら王子さえも試していたのか、何かにたる人物かと。そう考えると)
クレータム卿は先ほど感じた別の寒気が背筋を走った、今まで疑問にもならないほどの、小さな違和感が次々とつながって。
1本の線に繋がっていった、最初は違和感だと気が付けなかった事さえも違和感に移り変わっていた。
クレータム卿が考えをまとめようとして、目を瞑った瞬間。
前方の戦場から大きな歓声と怒号が聞こえてきた、対照的な声が混ざっていたが確かに2つの種類の叫び声が聞こえてきた。
瞑りかけた目を開くと、少しでも遠くを見える様に体を前のめりにして、目を細めて叫び声の先を見ようとした。
クレータム卿が状況を理解する前に、1人の伝令が息を切らせながら走ってくると、目の前に跪き地面を見ながら。
「申し上げます。敵部隊が・・・」
伝令が言葉を言い切る前に、再び叫び声が戦場に木霊した。
その時クレータム卿は叫び声の正体と、伝令の伝えたかった事を理解した。
すると今日何度目かわからない、寒気と悪寒を感じた。
自分たちはアーサーの事を、勘違いしていたのではないかと。
理解していたつもりだったが、それは「つもり」であって事実ではないと。




