僕は、耳が聞こえません
友達
周りには桜が咲いており、新しい門をくぐった。
俺─葉山優羽は今日で中学生になった。
入学式前。
門周辺では、記念写真を撮っている人たちや、友達同士で喋っている人たち、自分のクラスを確認している人たちがいた。
「俺も、クラス確認しないとな…」
そう呟くが、人混みがすごすぎて確認ができない。
それなら人が少し減るまで、校舎の周りを歩いてみることにした。
「……い、な…いえ…!!」
校舎裏、どこからか人の怒鳴り声が聞こえてきたので足を止めた。
喧嘩?
こんな時に言い争いはダメだ。
俺は、声がする方に向かってみた…。
その声は、複数人。
怒鳴っているような怒っているような…そんなふうに聞こえた。
耳を澄ませて声を辿る。
「…こっちか?」
─場所は人が通らなそうな倉庫の裏。
「…はっ…!!」
─目の前には、地べたに座り込んでしまっている男の子が1人。
傷だらけだ。
そして、その子を囲むかのように、3人…その子のことを見下ろしていた。
「なんだ、お前…」
1人が機嫌悪そうに言う。
俺は地べたに座り込んでいる男の子1人を放っておくことができなかった。
「…何しているんだ!!」
俺は、男の子と3人の間に入り問い詰めた。
すると、3人のうち背の高い1人が俺の胸ぐらを掴み、持ち上げてきた。
「ははっ、チビの友達はチビか!!……おもんねえやつだな。」
そう言って、俺をそのままぽいっと投げる。
「っ!!」
倉庫に背中が当たってしまいガシャンと大きな音が鳴り、俺は大きく尻もちをついてしまった。
「はあ…もう今日はこのくらいでいいか。」
1人のその言葉に3人はどこかへ行ってしまった。
「………」
去っていく3人のその背中を睨み続けていた俺に、隣にいた男の子が腕を掴んできた。
悲しそうな、辛そうな顔で俺のことを見つめてくる。
喋ってこない。
「あ…その…大丈夫……?」
俺がそう聞くと目の前の男の子は俺から離れ、自分のカバンからメモ帳と筆記用具を出してきて何かを書き始めた。
俺はその行動に頭の中が、はてなになった。
『ありがとう』
書かれたその字を俺に見せてくれる。
そして、悲しそうな辛そうな、そんな笑顔の表情を再び浮かべた。
「…君、名前はなんていうの?見た感じ同級生だよね?」
俺が喋り始めると、彼がメモ帳に文字を書き始める。
俺の質問に声で返事することはなく、ただ文字を書き込み、再び俺にその文字を見せてきた。
『このメモ帳に書いて欲しいです。』
そうして、ペンとメモ帳が渡される。
俺はまだ分かってないままメモ帳に、名前は?と書いた。
それを見せると、彼は戻ってきたメモ帳に自分の名前を書いた。
『樋口紬生』
「……紬生」
つい呟きたくなるほど、なんだかかっこよくて綺麗な名前だなと思った。
そして、君は?とメモ帳に書かれていたので、俺も自分の名前を書いた。
「俺は、葉山優羽。よろしく。紬生。」
俺は声に出しながら紬生に文字を見せた。
そうすると、紬生は、はっとびっくりしたような顔をし、俺からメモ帳を取り、必死に何かを書いた。
そして、緊張するかのように書いた文字を見せてくれた。
『僕は、耳が聞こえません』
─その言葉で全て繋がったような気がした。
そして、紬生は両手を握り、前後に少し揺らした。
「…っゅも、あ…ち」
そして、ちゃんとした笑顔を見せてくる。
……なんだかとても、嬉しかった。
俺はこの子とたくさん話したい、そう思った瞬間だった。
「それって、手話?」
俺は身振り手振りでゆっくりと伝えると紬生は頷いてくれた。
友達。
紬生は、俺のこと友達って言ってくれた。
とっても優しくて…そして、嬉しかった。
だから、俺も、その言葉に返事をしたかった。
自分なりに考え、紬生がしたように自分の両手を握り笑顔で言ってみた。
「友達。」
俺の言葉に紬生はにこっと笑った。
「あ、クラス一緒に見に行こうよ!」
それが樋口紬生との出会いだった。
そして、その日から俺は手話を勉強し始めていった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次回更新11月7日土曜日予定




