3.ひとりで決めたこと
「ぼくが、作るから伊吹はお皿とか出して」
キッチンに入ると玲衣くんは冷蔵庫からうどんを取り出した。
「いぶきが今日当番だからする!玲衣くんがお手伝いして」
「明日伊吹に作ってもらうから今日は交代。伊吹の好きな卵入れる?」
玲衣くんがそうぼくに聞いてくれる。
「うん!入れる。玲衣くんも入れよ?」
「ぼくはいいよ」
静かに答える玲衣くん。
「でも玲衣くんお昼のおうどんだったし、栄養心配になるよ」
「いぶきが元気になるのが1番の栄養。だからこれ食べて元気出して」
玲衣くんは手際よくうどんを作っていく。
ぼくはその間、グラスに飲み物を入れたしどんぶりを出したり、テーブルを拭いたりした。
玲衣くんが出来上がったうどんをテーブルまで持ってきてくれた。
向かい合わせに座って2人で、手を合わせて頂きますをする。
いつもと同じ。
玲衣くんが作ってくれたうどんを啜ってみる。
優しい味がする。
顔をあげたら玲衣くんがぼくのことを見てた。
「美味しい?」
それだけ聞いた。
「うん!玲衣くんが作ってくれた味がして美味しいよ」
笑ってそう答えた。
「何それ。伊吹が食べてくれてよかった」
玲衣くんは笑いながら、でもぽつんとそれだけつぶやいた。
「さっ、ぼくも食べようかな」
お箸を持ってうどんを啜り始める玲衣くん。
「うん。美味しい」
「ね!お出汁が効いてて美味しい」
玲衣くんがお箸を置いた。
「うん。美味しい。伊吹と2人で食べてるからだね」
静かにそう言った。
玲衣くんのぼくをみる目が真剣で、なんとなくここは冗談にしないと。なんて思った。
「そうだね。明日は伊吹が作る!玲衣くんにパワーつけてもらうようにお肉盛り盛りのスタミナご飯にする」
手を挙げてそう宣言してみる。
玲衣くんが笑ってくれた。
「なにそれ。ぼくそんなに食べれないよ」
目を細めて笑う玲衣くん。
明日の話をしながらうどんを食べ進めた。
玲衣くんと一緒だと、美味しくて綺麗に完食した。
「玲衣くん作ってくれたから、ぼくが片付ける」
トレーにどんぶりを入れて立ちあがる。
玲衣くんがその腕を静かに止めた。
「今日はぼくがする。伊吹は座ってて」
「でも……。伊吹が体調悪い時はぼくがすればいい。それだけのことだよ」
そう言って玲衣くんはトレーを持ってキッチンに向かった。
(いぶき……体調悪くなんかないのに……)
少しだけ。ほんの少しだけ、胸がちくっとする。
「いい?何かあればすぐに電話して。夜中でも関係ないから」
ぼくはもうベッドの中にいる。
食器を洗った玲衣くんに、腕を引かれてそのままベッドに連れて行かれ布団をきせられた。
ぼく大丈夫だよ。そう言ったけど……玲衣くんが心配そうな目をしてるから、ぼくもそのままベッドに横になった。
「スマホを枕元に置いておくから。何かあればすぐ連絡して」
そう言って玲衣くんは部屋を出て行った。
遠くで微かに玄関の鍵が閉まる音がする。
玲衣くんが帰ったんだ。
ベッドからそっと起き上がる。
いつも寝てる時に抱きしめてるぬいぐるみをそっと持ち上げる抱きしめる。
(玲衣くん……心配かけてごめんね……)
(でも……いぶき……嬉しかった)
ぬいぐるみに顔を埋める。
玲衣くんがぼくのことを心配してくれた。
気にしてくれた。
それだけでぼくの心は嬉しくなる。
申し訳なさと嬉しさが混じり合ってる。
でも……少しだけ嬉しさが勝ってる。
帰ってきた時は、部屋の静けさが怖かったのに。
今は部屋の静けさが怖くない。
玲衣くんが来てくれたから。
それだけで全然違う。
(いぶき……このままずっと……玲衣くんと一緒にいたい)
顔を埋めたまま、心の中でそっと唱える。
「いまのままじゃ……ともだちって関係……いやだ」
顔をあげた。
「いぶきは……『恋人』になりたい。玲衣くんの1番になりたい」
そっと声に出してみる。
胸を手を当てる。
(いぶきの素直な気持ち……は、これだ)
「いぶきは、ずっと玲衣くんの隣にいられる権利がほしい」
静かな部屋にぼくの声だけが響く。
枕元のスマホを取る。
カレンダーの画面にする。
もうすぐ、玲衣くん誕生日がくる。
(この日だ。この日にいぶき言うことにする)
その日を指でなぞりながら、そう決心した。




