何故かワンコ系後輩が不穏です
更新遅れてしまい、すみません。
新緑の季節。太陽からの光が心地好いものから、鬱陶しいものに変わり始める。
でも只今、そんな日差しよりも鬱陶しい事態に陥っております。
どうも、八重山詩音です。
「詩音ちゃんは、私と一緒にお弁当食べるの! あんたは後輩なんだから、先輩に譲りなさいよ‼」
「先輩こそ、遠慮しろよ‼ ここ最近、毎日詩音先輩と一緒に昼飯食べているじゃないか!」
……何故、ヒロインと攻略対象者が私を挟んで口論しているのでしょうか。
ああもう。何この状況。羞恥プレイですか。そうですか。クラスの皆の視線がいたたまれないわ!
この無意味な口論を繰り広げている片方は、この世界が元になっている乙女ゲームのヒロイン(男)の白石栞奈。変態女装野郎である。以上‼
そして、ヒロイン(男)といがみ合っているのは、年下ワンコ系攻略対象者、甲原陽太くん。
その髪は本当に天然ですかと聞きたくなるキャラメルカラーの髪と瞳を持っていて、私やヒロインの後輩にあたる一年生。
ゲームでは所謂ワンコ系というやつで、最初からヒロインに対して結構フレンドリーに接してきて、好感度を上げていくとベッタリの構ってちゃんになる。ワンコなので、構ってあげると好感度が上がるので攻略難易度は低め。
ちなみに陽太ルートにおいての八重山詩音は、個別ルートに入った直後は他のルートによりも沢山ヒロインに色々な嫌がらせをしていたのに、途中から一切出てこなくなった。ゲーム内で詩音が出てこなくなったことについて、特に何も書かれてなかったので、死んだり退学したりはしてないと思うけど……。
いくら原作通りにすると決意していても、殺されたり退学させられたりしたくない。
陽太ルートは、比較的他のルートより甘々でイチャイチャも多いし、私の不穏な未来のフラグも多分ないから、ヒロインにも私にもオススメな物件なのだけど……。ヒロインが男という時点で詰んでいるよね。いや、もしかしたら、ボーイズラブというジャンルが開拓され――
「ていうか、あんたなんなのよ‼ 私と詩音ちゃんが仲良くなった途端に横からしゃしゃり出て‼」
「それはこっちの台詞だよ‼ ここ暫く忙しくて先輩から離れていたら、いつの間にか纏わり付いていた害虫じゃないか‼」
未だにギャンギャンという擬音を出しながら、私の両脇で口論を繰り広げるヒロインと陽太くん。
……これは、イチャイチャどころではないですねぇ。
というか、ヒロインと私はいつの間に仲良くなったのでしょうか。ここ最近、昼食を一緒にしている事は認めるけど、それは半強制的にさせられているのですけど。
それと、陽太くんは仮にも見た目は美少女のヒロインを害虫呼ばわりは酷いと思う……。
え、陽太くん呼びはなれなれしいって?
仕方ないじゃないですか。私と彼、面識あるんですもの。
これはゲームでも明かされなかったのですが、私と陽太くんは幼少期に一度出会ってるんですよね。そこで仲良くなり、彼が高校入学時に再会。
……正直全く覚えてなかったのですが、彼の方が覚えていたので入学式当日に声をかけられたんですよね。
で、周りの令嬢から距離を置かれているせいもあり、彼と過ごすことがそこそこあったのである。
でも、悪役令嬢になって初めてわかることもあるものだなと思ったものです。正直、ゲーム中はなぜ陽太の攻略を進めると詩音に邪魔されるのか全くもって不明だったのだけど……。友人をとられると思っての行動だと思えば合点がいく。
八重山詩音も可愛いところがあるものですよ。まったく。
……そろそろ、口論終わってないかなー。
「詩音ちゃんはどっちと昼ごはん食べるの!? もちろん、私だよね???」
「詩音先輩! 僕ですよね???」
「間をとって、どちらとも食べないという選択肢を選びますわー」
さっと、二人をかわし教室の扉をくぐる。
一気に廊下の喧騒にまぎれ、二人を撒く。
お、今回は良い調子かもしれない。
久々に一人でゆっくりとお昼ごはんが食べられそうである。
ルンルン気分でお気に入りの屋上に向かう。
乙女ゲームの屋上だなんて、攻略対象者がいてもおかしくない場所ですが、このゲームの攻略対象者は屋上にいないので安心して過ごせる場所の一つなのである。
昼休みの喧騒から離れ、屋上までの階段を上る。
そして、扉に手をかけ――
バンッ。
後ろから突如伸ばされた右腕が私の右頬をかすめ、ドアにつく。
とっさに後ろを向くと、そこには陽太くんの姿が。
「ひ、陽太さん。いきなり、このようなことをされては、危ないですわ」
「詩音先輩が逃げるからじゃないか。僕さー、追いかけるのは得意なんだよね」
にやりと笑う陽太くん。全く、会話が噛み合ってない気がする。
「10年間、追いかけてきたんだ。絶対に逃がさない」
「な、なんの話でしょう?」
か、噛みあってないよ! 陽太くん!!
「僕、詩音先輩くらいの大きさのやつ、飼いたいなって思ってさ。絶対に死ぬまで面倒みるって決めてるんだ」
な、何の話だー???
とりあえず、肯定しておくか。なんか怖いし!
「す、素敵ですわね?」
瞬間、陽太くんの口角が最大限まで上がる。
なぜか背筋に冷や汗が流れる。
なんか、選択肢ミスったっぽい??
え、もうわかんない。
だって、私はこの世界の悪役令嬢じゃなくちゃいけないのだから……。
分かっていたとは、思いますが、この小説、ヤンデレです。
次回は来月中に更新します。