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コスプレ執事

「お義兄様!手塚!私と謙介さんの話はもういいでしょう?三井峰子の話をそろそろしてもいいかしら?」

何処のお嬢様か、わからないようなセリフを、長野謙二と手塚冬彦である私に白いワンピースを着た女、春風美也子が赤い眼鏡をキラリと光らせ後ろに結んだ髪をぶんまわしながら言ってきた。

「危ないです!髪まで回して言わないで下さい!私にあたります!」

三井峰子が殺されていた事などすっかり忘れていた私は、髪と言葉に自分を取り戻す。しかし、春風の言葉は、なんとかならないのだろうか?ここのマスターである父上様と警察官のお義兄様の前では普段のゴリラっぷりは十分には発揮されない。好きな人の前ではというより、好きな人の身内の前では可愛いお嬢様を演じているようだ。がに股も一緒に直せばいいのに!

「何か私に他に言いたい事でもあるのかしら手塚」

心の中を見透かしたようにジロッと春風に睨まれる。へびに睨まれた蛙のようになった私は、肩をすくませた。

「言いたい事はありません」

「そう、だったらいいわ」

春風はそう言って、私の方から謙二の方へ身体ごと顔を向けた。

謙二に緊張が走ったのだろうか、謙二の背筋が伸びている。

春風美也子が話す前に長野謙二が真剣な目で話はじめた。

「美也子さんでも事件の事は教えられないよ。でも、そんなに難しい事件じゃないんだ。すでに犯人の目星はついてるし。漫画やアニメでもあるまいし、探偵に解いてもらわなくても警察は馬鹿じゃないよ」

謙二はそう言って胸ポケットからタバコをとりだすと吸ってもいい?と言う素振りを見せる。

「ダメです!私の前では吸わないで下さいませ!タバコの匂いを嗅ぐと自分を抑えられる自信がありませんわ!!」

春風が首をぶんぶんふる。束ねてある髪が私にあたる。かなり痛い。髪が刺さる。本能でしか生きてない人がこれ以上は!いやー!首ふるの早くやめて!!マスターは知っていたのか最初から微妙に距離がある。

「わかったよ」

謙二が名残り惜しそうにタバコをポケットに戻そうとすると、春風は首振り髪のムチ刑を辞め、席を立ち謙二のタバコを両手でつかんだ。

「お義兄様の健康の為にもよくありません事よ!私が預かっておきますわ!!」

春風がそう言うと私にタバコを投げてきた。慌てて片手でうけとめる。マスターがすくっと立ち上がって私に声をかけてきた。

「手塚君、コーヒーのおかわりを持ってくるよ」

そう言って私からカップを持っていくマスター。ペコリと私は会釈をすると何事もなかったかのようにマスターはカウンターの方へ去っていく。タバコどうしよう。とりあえずここで返すと逆鱗に触れそうなのでスーツの懐に入れておく。後で謙二に返しておくか。春風は謙二に話しかける。

「私は、別に犯人を見つけて警察に恩をうってあわよくば裏取引してグハハハ!と、金儲けしようなんて思ってませんわ!」

…思ってたんだね。

「私は、ただ!警察より先に犯人を見つけて三井さんの支払われなかったお金を私が脅して払ってもらえたら十分ですわ!」

「…美也子さん。それ、脅迫罪…」

「え!!!知りませんでしたわ!!あーん!お金を払って貰う事がこんなに難しいなんて!!」

無知なお嬢様をやたら演じているように見える。春風はやんやん言いながら先ほど座っていた椅子に座りなおしながら話を続ける。

「もしかして、三井峰子は自殺じゃなくて?私にお金を払いたくなくて!あーそうだったら私が犯人なのかもしれない!」

春風じゃないんだから払いたくなくって…。でも、ありえるのか?あの落ち込みようだったし、自殺に見せた他殺?

そんな思いを謙二がぶち破る。

「自殺じゃない。殺害場所は、寝室。凶器はマグカップと鉄パイプ。喧嘩してカッとなって殺したんじゃないかと見てる。まあ、マグカップに指紋がないのが気になるが、鉄パイプに指紋あるし、後頭部が致命傷だしー。推理オタクの君には悪いけど、トリックみたいな仕掛けはなかったぞ、警察なめるなよ!…ってあー!!!今の嘘!いやー!聞かなかった事にして!」

謙二が急にばたつく。そんな謙二を見て春風美也子はニヤリと笑った。

「お義兄様、口が軽いのも時には、長所ですからお気になさらず。コーヒーをもう一杯のんだらおいとましますわ」

ごくごくと飲み干す春風。私のコーヒーを持ってきたマスターは春風の分のコーヒーも持ってきていた。いや、もしかしたらマスターの分だったのかもしれないが。マスターから受けとるとまたもや一気に飲み干した。慌てて私も飲み干す。熱い!!!!

席をたとうとする春風を追いかけるため、あわててお会計をしようと財布に手をあてるとマスターが止めた。

「今日のコーヒーは二人にはおごるよ。でも、事件のことは他言無用で」

「父上様!わかっておりますわ!!私は、お義兄様の邪魔はいたしませんもの!手塚にもよーく言って聞かせますわ。父上様!ご馳走さまでした!また、来ますわね」

「あー、いつでも来てくれ。歓迎するよ」

そう言って、マスターは私達を見送ってくれた。

後から聞いたのだがこの時の会計は謙二が払ったらしい。貸し切り料も。ついでにマスターに説教されて凹んでいたようだ。さすが元エリート警察の商人。お後がよろしいようで。




謙二が長い長~いお説教を聞いていたであろうそのころ。私と春風は、事件現場の家の前に居た。もう、無理矢理家の中に入る事はしなかったが家の周りを気にしていた。先ほど青ざめていた警察官が私達に声をかけてくる。

「あの~先ほどから何をしてらっしゃるのですか?」

警察官は不思議そうに聞いてくる。

「おかしいですわね。無いですわー。どこに落ちてるのかしら。先ほど義兄《あに》が私と会った時にタバコを落としたっていうのよ」警察官は、首を傾げる。

「いや、落ちてたら私が気がつきますし、落ちてませんでしたよ」

そう言いながら警察官もキョロキョロする。

「ですわよねー。一体何処にやったのかしら?ハッ!まさか!事件現場に!!どうしましょう私、先ほど怒られたばかりですし」

警察官が答える。

「私がとってきましょうか?」

「ありがとうございます!でも、落としたのだと思うから探すのに相当時間がかかりますことよ。しかも、ここじゃないかもしれないですし。あれにはここだけの話、義兄のフィアンセのプリクラが貼ってありますの。もし、他の方に見られたら私、また怒られてしまいますわ!困ったわー」

警察官も困った顔して無線で何やら話始めた。

「今、無線で別のかたに確認したところ妹さんなら身分もしっかりしてるし他の物に触らないのであれば検証も終わったので、探し物するくらいなら大丈夫との事です!」

「まあ!ありがとうございます!これで義兄に怒られずにすみますわー。行くわよ手塚!」

「はい!お嬢様!」

私は、ペットから執事に昇格し、春風美也子の後ろについていく。あれ?がに股で歩いてない。春風美也子は、颯爽と歩いて三井峰子の家の中に入って行った。謙二さーん!ごめんなさーい!心の中で叫んでおく。そして、次の瞬間我が目を疑った。室内に入った瞬間に外に出ようかと思った。玄関から奥の寝室まで一直線。1DKの部屋だった。部屋には誰もいなかった。室内は統べてピンクに染め上げられ、右みてもピンク!左見てもピンクだった。一言でいうならキモイ!いや、女性らしいというべきか。とりあえず帰りましょう!と言いたくなるくらいのピンク。可愛いを越えると気持ち悪くなるようだ。

「やっぱり趣味悪いわね」

春風美也子の言葉に思いっきりうなずく。

「さて、捜しましょうか!」

そう言って何処にしまっていたのか白い手袋はめながら、私にも白い手袋をくれる。春風から受け取って私もはめて捜索開始である!建前上タバコであるが、そんなものは、もう私の懐に最初から入っている。美也子さんやりましたね!と言いたい気持ちを抑え、気持ち悪い部屋の捜索にあたった。と言っても狭い部屋。すぐに終わった。

「猫の餌かー。エサはあっても猫居ないわね」

「警察が連れていったのかもしれませんよ」

「え?なんで?第一目撃者としてって事?」

「ちがいますよ!飼い主居なくなったんですから飢えてしまうじゃないですか。保護ですよ保護!」

「警察ってそんなことまでするのかしら?まあ、いいわ。タバコ貸して」

春風の伸ばされた手にタバコをのせると春風はタバコを落として

軽く踏みつけた。そして、手袋を外し私の手袋も回収し、ワンピースにしまいこむ。

「やだ!!あったわ!!これで帰れるわね!」

必要以上の大きな声をあげ、がに股でドスドス歩いて行く。その後に私は続く。

「お嬢様!歩き方!」

「手塚、うるさい!」

私より大きな声で春風美也子が叫ぶ。春風は姿勢を直して優雅にあるきだす。やればできるんじゃないか。

しばらく、執事ごっこを楽しむ事にした。







更新したい気持ちと書くスピードとの狭間で戦っております。

書くのはいいけど、間違いがないかチェックするのがなかなかやっかいな作業で、大変ですね~。

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