四話
ローナは皿を洗い終わった瞬間思い出した。
「…あ、」
現在1時20分。
公爵様が2時に庭で歌えって言っていたっけ…
エリオットによって私の休憩時間は今日…無い…
…歌…歌いたい…じゃなかった…会いたくはないけど行って謝ってこないと…
コンコンッ
ドアをノックする音が聞こえる。
どうせどうでもいいやつだろう。と、ムスクは無視を決め込んだ。
コンコンッ
止めろ。今は誰とも居たくない。2時には出かけなければならないのだからな。
あの美しい声を聞かないと落ち着かないからな。
コンコンッ
しつこい…しつこ過ぎるぞ…
コンコンッ
「五月蝿い!!静かにしろ!!」
しまった!!怒鳴ってしまった!!居ることがバレてしまったじゃないか!!俺の馬鹿!!
「も、申し訳ありませんでした!!応答がありませんでしたので!!出過ぎたマネを致しました!!」
この声は!!
ガチャリッ
ドアをゆっくりと開けるとドアの前でお辞儀をする小さき娘ローナがいた。
「どうかしたのか?」
今もてる威厳を精一杯もって言った。
…何故?何故動悸が激しい?
「はい。大変申し上げにくいのですが、実は、お恥ずかしい話今日から給仕指導が入りまして今日は休憩が無いのです…ですから、今日は歌えな…」
「認めん」
被せるように言ってきた。
「認めない。今、この瞬間。この場所で、今すぐ歌え。」
「……」
「…仕事は、その給仕指導とやらまで無いのだろう?」
「…はぁ。はい。」
「なら、問題ないな。それとも、歌うことは嫌いか?」
なんでそんなに歌わせようとするのかしら…
あと、その高圧的な態度とガタイなんとかならないかしら…
「…歌うことは好きです。大好きです。しかし、ここでは迷惑です。」
「問題ない。昨夜壁を防音仕様にした。ドウだ?歌うだろ?」
…この人…怖いわ…何?私をどうしたいのかがサッパリわからない…怖い…怖すぎる…でも…
やっぱり歌いたかった。だからコクリと頷いた。
--------10分後
「…ふむ。やはりいいものだな。明日からもここで歌え。誰にも迷惑にはならない」
「…公爵様。」
「なんだ?」
「ご無礼を承知で申し上げます。明日からはきっと休憩時間は変わりますがありますので…」
「??」
「まだ何時かは分からないんですけれど‥必ず庭で歌いますからもう部屋で歌わせるのは勘弁してください…お願いします…。」
頭を垂れる小さな娘。
「何故?何故そこまで嫌がる?歌うのが好きなのだろう?」
何故?歌うことに変わりはないはずだ。
「…私は…大きく歌いたいのです…小さな部屋ではなく空の下でどこまでも続く空に向かって大きく歌いたいのです…申し訳ありません‥」
「…君の意見は分かった。そうしよう」
「ありがとうございます。」
ムスクは内心がっかりした。
ん?何故俺はガッカリしている?
ちらと、時計に目をやるローナ。午後1時45分
あ、もうこんな時間。行かなきゃ。
「…公爵様」
「ムスク…様だ。」
「……は?」
しまった!!ついでてしまった!!
片手で口を塞いだが後の祭りだ。
「…なんだその口の利き方は…」
ヤバイ!!殺される!!(?)
「…そのままでいい。」
「……??」
ビックリした顔でムスクを見るローナ。
「そんな顔するな。いいな、敬語を使うな。」
「…恐れ多いです。」
「…公爵命令だ。」
でた。職権…
溜息が出る。
「……む、ムスク様?」
ムスクの動悸が一度大きく鳴った。
「私はメイドです。今までのような堅苦しい敬語はやめますが敬語自体はやめれません。義務ですから。ですが…」
「??」
「貴方様がどうしてもと言うのなら気を使うことをやめましょう。」
……どういうことだ?気を使うのをやめる??
「それでは、本当に時間が危ないので失礼いたします。」
ローナは軽くお辞儀をすると急いで出て行ってしまった。
残されたムスクは言っていた意味を少しばかり考えたがやはり分からなかった。