三十八話
長いです
教会に訪れた私は、ある一人のシスターに案内された。
そのシスターは自分の母が生きていたら同い年くらいであろうと思われる
普通のシスターであった。
ニコやかに椅子から立ち上がりお辞儀をするシスター。
彼女の名はクロッカ=ヴァイレと言うらしい。
単刀直入に、ローナ=トルムという女性について聞いた。
シスター・クロッカは悲しげに微笑んだ。
「私がこれから話すことは、貴方様自身が困惑する事でしょう。」
クロッカが紡ぐ、謎の言葉が怖かったが私は頷くとクロッカは「いいでしょう。長くなりますが…」と言葉をつづけた。
「まず、私とローナの母、ロミクはかけがえのない友人でした。」
クロッカは元々教会に住み、ロミクは生まれつき身体が弱かったので良く教会に祈りに来ていたという。それでもロミクはけなげに一生を懸命に生きていた。彼女とクロッカはすぐに仲良くなり、共に勉学・遊び共々息が合った。
クロッカが教会の庭を掃除していると一人の美しい少年が教会に祈りに来て、たまたま居合わせたロミクと仲が良くなり、少年とロミクは恋仲になった。ロミクよりも2つ年上の美少年。しかし、その少年の名を聞いて驚いてしまった。彼の名はカミーナ。
「………………」
黙って聞いているカルント。
「あまり驚かないのね?」と、クロッカは微笑んだ。
「…そんな気はしていたんです。彼女とは何かシンパシーのようなものを感じていましたから…しかしなぜ?」
クロッカは焦らないで。と言うように続きをしゃべり始めた。
カミーナ、彼は一国の王子であった。もっとも彼は十八番目の王子で王位継承権も権力も全く強くなく、その上王が下町で遊んだ時に出来た子という召使いからも軽んじられる立場だった。それが嫌で教会へ逃げては遊んでいたという。14という幼いが働ける歳になったロミクは教会のそばに家を借りてひっそりと暮らした。カミーナもほぼ毎日その家へ行き、仲を深めた。カミーナを止めるものは誰一人としていなかった。だんだんと下町で暮らす様になり、カミーナは建築業で、ロミクは昼の喫茶で稼ぐようになった。ロミクが15、カミーナが17の時ローナが産まれた。裕福ではなかったが楽しい暮らしをしていた。ローナが2歳の時。
突然流行り病が来てロミクが倒れてしまった。それと同時期にカミーナの父、前王や兄弟たちが次々と病で倒れた。ここからすべてが崩れてしまった。
自分よりも看病が上手いだろうと教会に住み始め、始めこそロミクの看病に勤しみローナを育てていた。しかし、兄弟や前王が全員流行り病で死に絶え残るはカミーナだけとなってしまった。教会へ突然大量の軍がやってきて、カミーナを連れ去ってしまった。カミーナは泣きながら「戻ってくる。」「待っててくれ。」「心配するな。」「必ず」と言っていた。しかし、それを最後に彼が戻ってくることはなかった。
ロミクはカミーナのいなくなった一カ月後に私とローナ、カミーナに言葉を残して行ってしまった。
「今思うと、私に残してくれた言葉は貴方様への言葉がもしれないです。」
カルントは重たい口を開き「なんと?」と聞いた。
「『貴方には苦労をかけました。でも、カミーナやローナを、自分を恨まないでください。恨むなら、私を恨んでくださいな。』と」
カルントはある疑いが確信に変わり、新たに植えつけられた真実に茫然としていた。
自分がまだ学徒だったころに学んだ歴史とは全く違い失望した。
「ロミクの亡くなった後、カミーナは一度だけここを訪れました。彼はロミクの墓には行かず、ローナにも会わず、ロミクの言葉だけを聞いて去って行きました。」
「『見ていったらどうです?』と聞いても、『合わせる顔がない』の一点張りでした。しかし、その後すぐに多額の寄付が毎年届くようになり、ロミクの命日とローナの誕生日には大きな花束が贈られてきました。ローナが20の時、王宮から手紙があってローナは王宮メイドになりました。私が知っているのはこれまでです。」
全て納得した。彼女…いや、姉上が王宮に居る理由も父上が何故俺を【愚息】と呼ぶ理由もなんとなくわかった。
「ありがとうございます。」
クロッカは「いつか来ると思っていましたよ。」と泣きそうに微笑んだ。
「失礼ですが、父上への言葉とローナへの言葉を聞いても?」
「カミーナへは『先へ行きます。ローナのことをよろしく。頑張ってください。私は、貴方と一緒に居られて幸せでした。』ローナへはまだ本人には言っていないのだけれど、『貴方がカミーナを知ったら困惑するでしょう。ですが、カミーナを恨まないで上げて?誰も悪くないの。悪いとしたら世間だけよ。』と。」
嗚呼、一度でいいからロミクさんに会ってみたかった。
「有り難うございます。父上に、父上と話しあいます。」
クロッカはそうしてくださると助かります。とお辞儀をした。
「そして、次会うときは、父上と姉上と一緒に…ロミクさんに会いに来ます。」
カルントの目からは大粒の涙が零れていた。




