理解すること◇あざむき
船の後部に来たキオウは、手すりに頬杖をついて目を伏せた。
港の活気が《気脈》と絡み、とても心地よい…。
「ジークと連絡を取らないのか?」
後ろから聞こえたカイの問いに、キオウは目を向けることもなく「ああ」と答える。
「今は俺の顔を見せるべきじゃない」
キオウから何かを感じたのか、カイはただ踵を返す。
「カイ」
ピタリと立ち止まるカイの気配。
船の主は舵を預けた男に短く続けた。
「出港しよう」
「ジークを待たないのか?」
「あいつは今イズベルにはいない。この街で待つ意味もない。
…それに、長くかかるだろうしな」
「そうか…。明日の朝に発てるように準備を始める。いいんだな?」
「ああ」
遠ざかっていくカイの足音。
――…自分のまわりに仲間の気配が消えたと確認し、海面へと静かに視線を落とす。
キオウは不適な笑みを浮かべた。
「…秋津の。まさか、わざわざ俺に説教しに来たんじゃないだろうな?」
からかうようなキオウの声音。微かにざわめく波が答えを告げる。
キオウはやれやれとため息をついた。
「師匠、そんな怖い顔すんなよ。わかってる。俺は直接手を出さない」
潮風がふいに髪をかすめた。
視線を迷わせたキオウは、微かに唇を噛む。
「…わかってる。あいつからもはっきり言われた。この《運命》は限りなく《絶対》に近い、と…。
俺は直接手出しはしない。俺が《分岐路》を弄って導きはしないさ。約束する」
視線を下げ、キオウは目を伏せる。
風の唸り。波立つ海面。空間の揺らぎ。集まる水のチカラ。
――消える気配。
静かにため息をついたキオウは、手のひらの汗を裾で拭う。…平常心のつもりでいたが、相手が相手なだけに緊張していたらしい。
船室の方から聞こえてきた賑やかな声。仲間達が出港に向けての準備を始めたようだ。
キーシがラティに何かを命令する声。それに諦めて応じるラティの嘆き。未だにブツブツ言いつつも食糧庫の在庫チェックに向かうインパス。カイが話をしている相手はレイヴだが、レイヴはすでに疲れた様子である。
さて…、と。小さく企みの笑みを浮かべて、青柳の賢者は踵を返す。
俺は直接手出しはしない。
――俺は 直接 手出しはしない。
言葉は最大の武器となる、とある賢者がそう言った。
うっすらと笑みを浮かべたキオウは仲間の元へと歩き出し――…、ふと思い出す。
「『最弱の武器にもなる』、そうも言っていたっけ…」




