再会は突然に◇穏やかな時間
夕食を終えたデスティニィ号には平和な時間が流れている。
甲板に響いているのは、レイヴがドアの修理をしている音だ。
船を包むあたかな気配と満腹感にすっかりリラックスしたチビキオウが、金槌を振るうレイヴの傍で丸くなっている。
「どんな案配だ?」
「あ、カイ。大丈夫だよ。ヘタな業者に頼むより、ぜーんぜんマシさ。
それよりも…、きーちゃんを部屋に連れてってよ。気が散って仕方がないよ」
「ここにいたのか」
「熟睡中だよ」
胎児のように丸くなって眠っているキオウ。体に掛けられている上着はレイヴのものだ。
「賢者サマは『風邪なんかひかない!』って言い張っているけどね、さっきなんてクシャミをしていたし」
「困った奴だ」
やれやれとため息をついたカイは、手慣れた動きでキオウを抱き抱えた。キオウの部屋に向かい、その幼い体をベッドに下ろして布団を掛ける。
室内を埋め尽くす多種多様な呪術道具。床に無造作に放置されたキオウの杖。机に放り出された勉強ノート。窓辺を見れば、まーくんが微動だにせず置物と化している。…眠っているらしい。
相変わらず理解不能で意味不明な賢者の自室であった。
「キオウ、少しは片付けろ。怪我するぞ?」
カイの呟くようなたしなめに、夢の中にいるキオウからは返事などないかと思われたが――…。
「…今日はまだマシな方だよ?」
布団の間からうっすらと目を向け、キオウは気持ち良さそうに笑う。
「僕が完全には寝ていない、ってわかっていたの?」
「お前とは長いからな。それに、そのタヌキ寝入りは昔から変わらないしな」
「いじわるー…っ」
ぷくっと頬を膨らませるチビキオウ。その可愛らしい仕草には、さすがのカイも無意識に表情が和らぐ。
「ねぇカイ、久しぶりに一緒に寝よー?」
「お前なぁ…、自分の歳を考えろ」
「21だよ? 賢者の21はまだまだお子ちゃまだよ? それに父上が『背伸びはしなくていい』って」
「アゼルスのことだ、別の意味合いで言ったんだろう」
「えーっ?」
不満げに口を尖らせるキオウ。カイは「早く寝るんだな」と軽く布団を叩いてから部屋を出た。
デスティニィ号には珍しく、とても静かで平穏な夜が更けていく――…。