再会は突然に◇朝靄の中の予感
「ふわぁ~…っ、眠てー…。
明星のめ…、本ッ当によくしゃべりやがる…」
あのマシンガントークに捕まったら最後、ヘタをすれば1ヶ月どころか1年10年としゃべり続けるに違いない…。
同僚の悪意なき長話攻撃と寝不足にこめかみをグリグリ押さえるキオウ。彼はまだまだ薄暗い早朝だというのに、港の街イズベルから少し離れたフラフという町にいた。
その背にはなんと、ラティがおんぶされている。
「おーいラティ、起きろよ。なんで賢者サマが有翼人のガキをおんぶしなけりゃならねぇんだよ。迷子になったお前の孤独は嫌でもわかるけどな、こっちは変な先輩の攻撃でもうヘトヘトなんだよ」
キオウが「起きろーっ」と体を揺すったが、安堵に満ち足りたラティは起きない。
離れた街で開かれた有翼人の集会に参加したものの、帰路でおかしな気流に飲まれ、道を訊ねたカラスには嘘をつかれ…、帰り道が完全にわからなくなってしまったらしい。
ついさっきまで町外れの木の下でベソをかいてキオウを喚んでいたのだが…、今はこのとおりである。
「…」
腰と肩が、痛い。
キオウは力仕事を極力避ける人間だ。普段そういった類いは完全に魔法任せである。
チカラの行使には独特の呼吸法や研ぎ澄まされた集中力が必要なので、運動をしなくても体力は消費される。結果的に太ることはないし、筋力が不必要に落ちることもない。むしろ独特の呼吸法の副産物として、ある程度の腹筋がある。
だからといって、やはり実際に筋肉を使った行動は…、やはり堪える。
「そもそも有翼人のガキが人気のない場所で泣いてんじゃねーよ。お前みたいな危機感のないヤツが質の悪い盗賊に遭遇したら、ヤバい商人にあっさり売っ払われるぞ? …ったく」
しかもこのフラフという町は、キオウが視たかぎりだと治安があまり良くないようだ。この地方の大麻畑独特の匂いを風の中に感じるし、賢者が《負の気》と呼ぶ悪いエネルギーが町中に淀んでいる。
ため息をつき、町を見渡すキオウ。
朝靄がかかった古びた町並み。おそらくここはメインストリートなのだろうが…、治安のためか単に早朝という時間帯のためか、道行く人影はない。
「はぁ…、とっとと帰るか。腹減ったなぁ。だからってこの意味不明なリンゴを食いたいとは思わねぇし、インパスへの土産に手をつけるワケにもいかねぇし…。
はぁ…、夜中に遊びになんて行かなきゃよかっ――…」
眠気からぼやきが止まらないキオウ。その足が突然、はた、と止まる。
ふいに遠くから感じた殺気。血の気配。
争乱の予感。
遥か前方の広場に複数の人影――…。
キオウはやれやれとため息をつく。
「巻き込まれるのはゴメンだな。
…まだガキのラティに死を見せるワケにもいかねぇし、な」
フッ…、と魔法陣もなく姿を消す賢者。
そしてあまり間を置かず、朝靄の広場に剣戟が響いた――。




