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一日目

この世界は、あと30日で終わる。


それは予言でも噂でもない。

確定した未来だ。


空にはすでに、うっすらとヒビが入っている。

それでも人間たちは、普段と変わらず生きていた。


笑って、働いて、帰っていく。


その中心に――それを終わらせる存在がいると知っているのにだ。


夜。


ビルの屋上に、一人の存在が立っていた。


黒い角。

背に揺れる影のような翼。

赤く光る瞳。


明らかに人ではない。


その存在は、静かに街を見下ろす。


「――我が終焉を告げた日より、29日」


低く、重い声。


それが、この世界の“終わり”の宣言者だった。


コンビニの自動ドアが開く。


「いらっしゃいませー」


明るい声。


主人公――魔王は、無言で商品をカゴに入れる。


弁当と、飲み物と、適当な菓子。


レジに持っていく。


「いつもありがとうございます」


店員は笑っていた。


魔王は一瞬だけ黙る。


「……うむ」


「袋いりますか?」


「袋……? 我にそれは必要か?」


「あ、じゃあ大丈夫ですね」


「うむ」


何事もなかったかのように会計が終わる。


外に出る。


「ちゃんと食べてる?」


声をかけてきたのは近所のおばちゃんだった。


弁当を押し付けてくる。


「これ、余ったから」


魔王はそれを見つめる。


「……なぜ我に施す」


おばちゃんは笑った。


「だってあんた、うちの近所の子でしょ?」


少しだけ、間が空く。


魔王は何も言わず、それを受け取った。



「遅刻すんなよ」


バイト先で怒られる。


魔王は顔をしかめる。


「我はこの星を滅ぼす者だぞ」


「だから何だ」


即答だった。


魔王は一瞬だけ言葉を失い、


「……すまぬ」


と、小さく言った。


部屋に戻る。


カレンダーを見る。


そこには大きく印がついている。


「残り29日」


窓の外を見ると、空のヒビは少しだけ広がっていた。


「すべては予定通り、終わる」


そのはずだった。


その時。


空が、音を立てて裂けた。


今までとは比べ物にならないほど大きく、激しく。


黒い影がそこから降りてくる。


「この星は我が破壊する!」


轟く声。


別の魔王だった。


周囲の人間たちは、見上げる。


「また来たねー」


「今日は早いね」


「先週のより強そうじゃない?」


誰一人、逃げない。


魔王は、深くため息をついた。


「……またか」


ゆっくりと顔を上げる。


空にいる“侵入者”を見据える。


「貴様、この星の支配者か!」


新たな魔王が叫ぶ。


主人公は首を振る。


「違う」


少しの間。


そして、静かに告げる。


「この星は、我が終わらせる」


「ならば早い者勝ちだ!」


敵は一気に突っ込んでくる。


魔王は動かない。


「戯言を」


その目が、わずかに光る。


「その星は既に我のものだ」


衝突。


衝撃で周囲の空気が弾ける。


だが――


魔王は片手で攻撃を受け止めていた。


「勤務中なのだがな」


軽く振るだけで、敵は吹き飛ぶ。


地面を何度も跳ねる。


「な、なぜ……!」


敵が呻く。


魔王はゆっくり歩み寄る。


「力量が違う」


手をかざす。


黒い力が集まる。


「――消えよ」


一瞬。


それだけで、敵は跡形もなく消えた。


静寂。


そして――


「おつかれー!」


「ナイスー!」


拍手が起きる。


魔王は眉をひそめる。


「……貴様ら、本当に理解しているのか」


人々は笑った。


「してるよ」


あっさりと。


魔王は空を見る。


広がる亀裂。


確実に近づく終わり。


「……そうか」


部屋に戻る。


カレンダー。


「残り28日」


魔王は小さく呟く。


「……次も来るのだろうな」


その声は、どこか少しだけ――


疲れていた。


「なぜ、こうなってしまったのだろうか」


第1話 完

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