256話:(1878年4月/初夏)初夏の新体制
新緑の香が町を包み、東京の空は澄み渡っていた。
武家屋敷の庭には若葉が萌え、川辺の柳は淡い緑を揺らしている。
春を越えて夏へと向かうこの時期、町人たちは麦の収穫や端午の祭りの準備に忙しく、街道には活気と期待の声が満ちていた。
その朗らかな空気の中で、東京城大広間は緊張に包まれていた。
藤村総理大臣が壇上に進み、巻物を広げると、列席する閣僚たちの視線が一斉に集まった。
今日、国家の未来を左右する新体制の発表が行われるのだ。
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藤村は深く息を整え、声を張った。
「諸君。本日、我らは政治史に残る新たな布陣を整える。
私はここに三名の実務家を登用することを宣言する。
大久保利通を政治的補佐に、河井継之助を行政・財政補佐に、黒田清隆を清水昭武の補佐として北海道開発に任ずる」
広間にどよめきが広がった。
薩摩・長岡・北海道――それぞれの地で才覚を発揮した人物が国政の中枢に呼び寄せられたのだ。
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島津久光内務大臣が立ち上がり、胸を張って言った。
「大久保も黒田も、もとは薩摩で私の下にいた者たちだ。
彼らは実務に長け、忠義と責任を持つ。
そして財政再建の成功によってこそ、今この場で優秀な人材を国家のために推薦できるのだ」
その声に、広間の空気がさらに引き締まる。
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慶篤副総理が穏やかな笑みを浮かべた。
「この三名の登用により、政府の実行力は飛躍的に高まるでしょう。
理論と実務が結びつく時、三正面戦略はより確かなものとなります」
松平春嶽財務大臣も続けた。
「特に河井の財政手腕は大きな力となりましょう。
長岡での改革経験を国政に活かすことで、我らの政策実現に確固たる基盤が築かれるはずです」
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小栗上野介財務副大臣は机に広げた帳簿を指さしながら付け加えた。
「制度を設計するだけでは、現場は動きません。
その点、大久保の政治感覚、河井の改革手腕、黒田の開発実務――
これらが加われば、我らの机上の理論は確実に血肉を得るでしょう」
その言葉に、場内の学士たちも深く頷いた。
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藤村は三人の名を改めて読み上げ、力強く結んだ。
「諸君。これで我が国は、理論と経験を兼ね備えた新体制を得た。
令和の知識と明治の情熱、そして各地で鍛えられた実務の力を融合させ、
我らは必ずや三正面戦略を成功へと導く」
障子の外では、若葉を揺らす風が一陣吹き込み、桜の花びらの名残を畳に散らした。
それは、古き季節の終わりと、新しい時代の始まりを告げるようであった。
新体制の人事発表から数日後。
若葉の匂いが濃くなる初夏の朝、東京城の執務室には、新たに登用された大久保利通の姿があった。
薩摩仕込みの実務家として知られる彼は、深い眼差しを湛え、机上の資料を素早く繰りながら藤村の言葉に耳を傾けていた。
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藤村総理大臣が巻物を示す。
「三正面戦略――満州、朝鮮、東南アジア。
理論は整っているが、政治的リスクの調整と国際的正当性の確保が肝要だ。
君の洞察を借りたい」
大久保は即座に応じた。
「藤村様の令和の知識と、私の実務経験を組み合わせれば、より現実的な政治運営が可能です。
まず国内では、地域ごとに支持基盤を固め、地方の不安を事前に和らげる必要があります。
外交面では、列強の思惑を読み、衝突の火種を早期に摘み取ることが肝要です」
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藤村は頷き、微笑を浮かべた。
「まさにその通りだ。理論を現実に落とし込むのは、君のような感覚だ」
大久保はさらに言葉を重ねた。
「三正面戦略では、軍事の勝敗よりも政治的信義が問われます。
勝っても国際的孤立を招けば意味がない。
私は諸外国との交渉において、正当性を事前に築く役割を担います。
その上で、国内における世論形成も指揮いたしましょう」
慶篤副総理が感慨を込めて言った。
「これで藤村様の理論と現実を結ぶ橋がかかりましたな」
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この初会議の後、大久保は即座に実務へ動いた。
まず、朝鮮半島に関する外交メモを整理し、内外の視点から問題点を列挙した。
次に、満州進出に伴う国際的承認を得るため、各国大使館との接触予定を整備。
さらに、東南アジア市場開拓に向けて、国内商人との連絡会議を設けることを提案した。
「政治は先を読む眼と、現場を動かす手が両輪です。
机上の計画は、私が実務に繋ぎます」
その自信に満ちた言葉に、藤村もまた確信を深めた。
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島津久光内務大臣は感慨深げに語った。
「大久保は薩摩で私の下にいた頃から、現実の調整役として群を抜いていた。
彼が国政に加わることで、藤村様の知恵は一層輝きを増すだろう」
福沢諭吉は三兄弟を見やり、囁いた。
「見ておけ。これが政治の眼というものだ。理論を現実に結びつける力こそ、君たちが学ぶべきものだ」
義信(11歳)は真剣な表情で頷き、久信(10歳)は「国を導くには心配りが要るのですね」と呟いた。
幼い義親(4歳)も「理論と実務を混ぜるのが効率の鍵だ」と小さな声で言った。
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やがて会議は終わり、藤村と大久保は並んで廊下を歩いた。
初夏の光が障子越しに射し込み、二人の影を長く落とす。
藤村は静かに言った。
「君の実務感覚があれば、理論と現実の完璧な融合が実現できる。
これで三正面戦略の成就は確実だ」
大久保は深く頭を下げた。
「島津様のご推薦に報いるためにも、必ずお役に立ちます」
その声には、薩摩武士としての誇りと、新体制の礎を担う覚悟が込められていた。
初夏の風が庭木を揺らし、若葉がきらめいていた。
新体制の発表から数日後、東京城の広間には、新たに補佐に任じられた面々が集っていた。
その顔ぶれの中に、長岡で改革を試みた河井継之助、北海道を担う黒田清隆、そして新たに満州補佐に任じられた大村益次郎の姿があった。
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藤村総理大臣は広間を見渡し、言葉を発した。
「諸君。債務の鎖を断ち切った我らが、次に進むべきは三正面戦略。
満州、朝鮮、東南アジア――。
このうち満州は最も苛烈であり、最も重き意味を持つ。
そこで――大村益次郎を、私の補佐として満州進出を統括させる」
ざわめきが広がり、次いで納得の声が漏れた。
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大村は静かに一歩進み出て、深く頭を下げた。
「承知しました。私は西洋兵学と医学を学び、兵站・衛生の重要性を身をもって知っております。
藤村様の令和の知を重ねれば、持続可能な遠征軍制を築けましょう。
満州の地において、必ずやお役に立ちます」
藤村は頷いた。
「兵は戦って勝つだけではならぬ。病に勝ち、飢えに勝ち、長期に耐える力を備えねばならぬ。
君の知識と胆力をもって、それを成し遂げよ」
慶篤副総理も声を添えた。
「大村殿が補佐に加われば、戦略と現実の接合は盤石となりましょう」
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続いて河井継之助が進み出た。
「私は長岡で財政改革を試みましたが、藤村様の理論の前では未熟の身にございます。
しかし、教えを賜れば、それを現場に実装する手となります。
どうか私を鍛え、国政の戦力としてお役立てください」
藤村は穏やかに答えた。
「よい。赤子も学べば成長する。
君には令和の知を授け、現場に活かす力を養ってもらう」
福沢諭吉は満足げに笑った。
「理論を知り、実務に移す役があってこそ国は動く。
河井の志は必ず国の糧になる」
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さらに、黒田清隆が進み出た。
「私は清水昭武様の北海道開発構想を、実務面から全面的に支えます。
港湾と鉄路を整え、兵站と物流の要に仕立て、帝国の背骨を築き上げます」
清水昭武も力強く言葉を添えた。
「黒田殿の実務能力が加われば、北海道は確かに兵站の拠点となりましょう」
島津久光は誇らしげに笑った。
「薩摩から育った才が、国を支えるのは誇りである」
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四師匠も口々に評した。
福沢諭吉:「三名の登用により、理論と実務の融合が一段と進む」
大村益次郎(自らを含めつつ):「平和的改革の経験と軍政の知識が、持続的発展を保証する」
北里柴三郎:「医学政策の実現性は、大村殿の補佐で大いに高まる」
後藤新平:「制度設計は河井殿の改革経験と結びつけば、さらに精緻になる」
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三兄弟も新体制から学びを得ようとしていた。
義信(11歳)「大村先生の軍政の知識を学び、満州での責任を果たします」
久信(10歳)「大久保先生の政治配慮、黒田先生の実務感覚を理解しました」
義親(4歳)「理論と実務を組み合わせれば、効率的に発展できますね」
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藤村は全員を見渡し、力強く結んだ。
「令和の知識、四師匠の専門性、大村の軍政補佐、河井の学び、黒田の開発。
これらすべてが揃い、三正面戦略と世界帝国建設への準備は完璧となった」
外の若葉は陽に輝き、初夏の風が広間を吹き抜けた。
新体制の息吹は、確かにここに宿っていた。
夕暮れ。
東京の町は新緑に包まれ、涼やかな風が路地を吹き抜けていた。
城下の家々からは晩餉の煙が立ちのぼり、祭囃子に似た子どもたちの声が響いていた。
そのころ、藤村家の座敷には、四師匠、閣僚、そして新たに補佐に任じられた大久保利通・大村益次郎・黒田清隆・河井継之助の姿があった。
長机には筍ご飯、若鮎の塩焼き、山菜の天ぷらが並び、湯気の立つ酒が注がれていた。
宴は和やかでありながら、そこには新体制を担う者たちの決意が漂っていた。
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藤村総理大臣が杯を掲げ、静かに語った。
「二年にわたる七千万両処理は終わった。
そして今日、我らは新たな布陣を得た。
大久保の政治的洞察、大村の軍政補佐、黒田の開発実務、河井の学びと胆力――
これらが融合すれば、三正面戦略は確実に実を結ぶ」
その言葉に、一同は深く頷いた。
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島津久光が杯を置き、感慨を込めて言った。
「薩摩から巣立った大久保も黒田も、今や国の柱だ。
この人材を国家に差し出せることを、誇りに思う」
大久保利通は真っ直ぐに藤村を見据えた。
「島津様のご推薦に報いるためにも、藤村様の理想を現実にするため、全力を尽くします」
大村益次郎は静かに言葉を添えた。
「私は満州進出の補佐として、兵站と衛生を一体化させます。
兵を守り抜き、戦略を持続可能なものとすることをお約束いたします」
黒田清隆は力強く声を上げた。
「私は北海道を背骨に仕立て、三正面戦略を支える兵站の要といたします」
河井継之助は謙虚に深く頭を下げた。
「私はまだ学ぶべき者ですが、藤村様の知を吸収し、現場で動かす手となりましょう」
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四師匠も杯を掲げて言葉を添えた。
福沢諭吉「理論と実務がようやく一つに結びついた。これで国家の形は揺るがぬ」
大村益次郎(自らにも向け)「改革の経験と軍政の知識を結べば、必ずや戦略は実を結ぶ」
北里柴三郎「実務の支えが加われば、医学政策も現実のものとなる」
後藤新平「行政設計の精度も高まり、制度はさらに洗練される」
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三兄弟もそれぞれに口を開いた。
義信(11歳)は拳を握りしめ、力強く言った。
「河井先生から改革の実務を学び、大村先生から軍政の要を学び、必ず三正面戦略の責務を果たします」
久信(10歳)は柔らかな微笑みを浮かべた。
「大久保先生の政治的配慮を学び、国内外の調和を担える人間になります」
義親(4歳)は真剣に言った。
「理論と実務を最適に組み合わせれば、国は効率的に動きます。
私もその方法を研究し、未来を支えたいです」
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藤村は三兄弟の言葉を受け、杯を掲げた。
「令和の知識、四師匠の専門性、三実務家の経験、そして三兄弟の成長――。
これで我らは、三正面戦略の成功と世界帝国建設への準備を、完璧に整えた。
初夏の若葉のように、この国も力強く伸び続けるであろう」
一同が杯を打ち合わせると、澄んだ音が座敷に響き渡った。
障子の外では、初夏の風が若葉を揺らし、新体制の門出を祝うかのようであった。