表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

251/366

220話(1874年10月)条約の秋

秋の風が江戸の町を抜けていた。神田の銀杏並木は黄色に染まり、往来する人々の頭上からひらひらと葉が舞い落ちる。十月の空気は澄み渡り、季節の移り変わりを鮮やかに映し出していた。市場には栗や柿が並び、川沿いの倉庫には積み上げられた米俵と絹反物が新たな輸出を待っていた。


 江戸城の石垣を取り巻く堀もまた、秋の光を受けて金色に輝いている。そこに新築された外交庁舎の白壁が、朝日に照らされてひときわ眩しく浮かび上がっていた。窓の格子には西洋風の鉄枠が施され、玄関前の広場には各国から贈られた国旗が翻っている。港町横浜から届いた外務報告によれば、この庁舎はすでに「極東の条約の家」と呼ばれ、欧米外交官たちに深い印象を与えているという。


 この日、庁舎の大広間では新条約締結を記念する式典が行われていた。壇上には、条約文の大きな羊皮紙が広げられ、その横には国璽を載せた朱印台が据えられている。列席するのは、幕府高官、各州代表、そして外国公使団であった。


 藤村晴人は壇の中央に立ち、静かに口を開いた。


 「諸君。数年前まで我が国は、借財に苦しみ、国際社会の片隅で存在を示すことすら難しかった。だが、今や関税収入は三百六十万両を超え、債務残高は百三十万両台にまで削減された。数字は語る。日本は危機から立ち直り、対等な外交を成し遂げる国家となったのだ」


 場内にざわめきが走った。欧米列強の公使たちは互いに視線を交わし、その表情に敬意と驚きが入り混じっていた。


―――


 その隣に立つ若き経済人の姿に、多くの目が向けられていた。渋沢栄一である。藍玉商いの帳簿に始まり、藤村のもとで財政学・経済理論を学んできた男は、いまや自らの知識を現実に活かす舞台に立っていた。


 彼の机には、銀行設立計画の草案が積まれている。預金制度の仕組み、貸付金利の規定、為替手形の運用――すべて藤村の指導の下で学んできた理論を、現実に落とし込んだものだった。


 渋沢は深呼吸し、壇上の人々に向けて声を張った。


 「本日、私はここに一つの提案をいたします。――日本に銀行を設けるのです」


 その言葉に、会場の空気が一変した。


 「銀行?」

 「預金と貸付を同じ機関で行うというのか?」


 列席者たちの間に戸惑いが広がる。


 渋沢は怯むことなく、黒板に数字を書き出した。


 「これまでの商取引は、銀貨や小判の現物でやり取りされてきました。しかし輸出入が拡大する現在、この方法では到底間に合わぬ。もし銀行があれば、商人は金を預けて利子を得られ、必要な者には融資が回り、手形一枚で江戸と横浜、あるいは江戸とロンドンを結ぶことができる。資金は滞留せず、産業は血液のように循環するのです」


 彼の筆が黒板を走る。利率の計算式、預金高の推移予測、為替取引の利便性。理路整然とした説明は、単なる夢物語ではなく、現実的な制度設計であることを聴衆に突きつけた。


 「農も、工も、商も、すべては資金が巡ってこそ育つ。銀行は、国家の血管であります」


 その熱を帯びた声に、藤村は静かに頷いた。


―――


 外交庁舎の窓からは、秋空を渡る雁の列が見えた。彼らの飛翔のように、日本もまた群れをなし、世界の空を飛び交う時代に入ったのだ。


 藤村は渋沢の肩に手を置き、低く囁いた。


 「栄一、お前の時代が来た。私は土台を築いた。これからは、お前がその上に城を建てよ」


 渋沢は深く頭を下げた。その瞳には、燃えるような決意が宿っていた。


―――


 秋の陽が傾く頃、外交庁舎の外では太鼓の音が鳴り響き、市井の人々が祭りのように集まっていた。新条約の締結と銀行設立計画の報は瞬く間に広がり、人々の顔には希望の色が浮かんでいる。


 「これで商いが楽になるぞ」

 「借金に苦しむことも減るだろう」


 庶民の声が秋風に混じり、江戸の町に響いていた。


―――


 その夜、藤村邸の書斎。机の上には外交条約の写しと、銀行設立計画の草案が並んでいた。蝋燭の灯りに照らされ、銀のインクが微かに光を返している。


 義信は地球儀を回しながら、指でイギリスから日本へ線を引いていた。

 「父上、ここから船でどのくらいかかるのですか」


 藤村は笑みを浮かべ、答えた。

 「数か月だ。しかし銀行があれば、金は一瞬で届く」


 久信は条約文を模写し、署名の曲線を真剣に追っている。

 「この字は難しいけれど……形が揃っていて、美しい」


 篤姫の膝に抱かれた義親は、穏やかな笑みを浮かべていた。外の世界で交わされる条約と、内の家族の平和。その二つが不思議に重なり合って、部屋には温かな空気が流れていた。


―――


 外交庁舎の塔の鐘が鳴った。低く深い響きが江戸の夜空を満たし、日本が新しい条約と新しい金融制度を手に入れたことを告げていた。


 「条約の秋」と呼ばれるこの年、この瞬間から、日本の近代は政治と経済の両輪で動き始めたのである。

秋雨が石畳を濡らしていた。江戸城西の丸に新設された「外交研究室」の窓からは、重たげな雲が垂れ込める空が見える。室内には黒板と長机が並び、壁には最新の地球儀と欧州各国の地図が掲げられていた。


 この日、研究室を満たしていたのは張り詰めた空気であった。条約改正に向けた準備――それは銃砲や軍艦ではなく、理論と記録によって戦われる戦いである。


 慶篤が講壇に立ち、黒板に大きく二つの文字を書き記した。


 「主権」

 「対等」


 白い粉が舞い、静けさが一層際立つ。


 「諸君、これこそが我らの武器である」


 その声は低いが、よく通った。


―――


 慶篤はまず、近代国際法の起点を説き起こした。


 「三百年前、ウェストファリア条約が結ばれた。戦乱に明け暮れた欧州は、領土と主権を尊重するという原則を初めて打ち立てたのだ。以後、どれほどの強国であろうとも、条約を結ぶ時には“形式上は対等”を装うようになった」


 黒板に地図を描き、ヨーロッパの国境線を示す。


 「問題は、この形式をどのように実質化するかだ。形式だけの対等に甘んじれば、我らは再び周縁に追いやられる。実質の対等を掴み取るには、法と理論を携えて交渉の場に立たねばならぬ」


 聴衆に座る若い書役や通詞たちの眼差しが鋭くなった。


―――


 慶篤はさらに続けた。


 「国際法は抽象ではない。条約締結、外交特権、領事裁判権――いずれも文書に書かれた条項であり、署名と印判で拘束力を持つ。つまり我らが筆を運ぶその瞬間に、国の運命が決まるのだ」


 言葉の一つひとつに重みがあった。講義室の奥で藤田小四郎が深く頷き、懐から手帳を取り出して筆を走らせていた。


―――


 続いて、清水昭武が講壇に立った。彼は養子縁組を解かれて清水家を継ぎ、北方を治める立場にあるが、外交史に関しても豊富な知識を持っていた。


 「欧州の外交史を紐解けば、交渉の技術がいかに戦争の勝敗を左右したかが見えてくる。ウィーン会議を思い起こすがよい。ナポレオン戦争に勝利した列強は、戦場で勝っただけではない。会議の場で如何に発言権を確保するか、その戦いに勝利したのだ」


 清水は黒板に年表を記す。


 「クリミア戦争後のパリ条約、普仏戦争後のフランクフルト条約。これらはすべて、外交の席での駆け引きによって結末が左右された。つまり、戦場だけでなく会議場こそが決戦の場である」


 彼の声は冷静でありながら、聴衆の心を強く揺さぶった。


―――


 昭武はさらに、多国間交渉の難しさを説いた。


 「二国間の交渉であれば、相手の思惑を読むだけで足りる。しかし多国間となれば、相手は一国にとどまらぬ。フランスを動かすにはイギリスを牽制し、ドイツを動かすにはロシアの背を押さねばならぬ。すなわち、交渉とは盤上の将棋に似て、駒を一つ動かすごとに全局が揺れるのだ」


 彼は机の上に置かれた碁石を一つ取り上げ、盤の中央に置いた。


 「この一手が局面を変える。我らもまた、この碁盤の上にいる」


―――


 講義が終わる頃には、室内の空気は一変していた。若い通詞は震える声で呟いた。


 「外交とは、剣を持たずして戦うことなのだ……」


 慶篤はその言葉に頷き、静かに応じた。


 「その通りだ。剣は戦で折れる。だが条約文に刻まれた言葉は百年、二百年をも縛る。ゆえに我らの一筆は、砲火に勝る」


 その瞬間、聴衆の胸に「自らも国の命運を担っている」という自覚が芽生えた。


―――


 外に出ると、雨は上がり、夕暮れの雲間から淡い光が差し込んでいた。濡れた石畳が光を反射し、江戸城の白壁が金色に染まる。


 清水昭武は慶篤と並んで歩きながら、低く呟いた。


 「この国を守るのは、刀でも砲でもない。――理と記録だ」


 慶篤は頷き、その言葉を繰り返した。


 「理と記録。それが我らの盾であり剣である」


 秋の風が二人の裾を揺らし、遠く外交庁舎の鐘が低く響いた。日本の新しい戦いは、すでに始まっていた。

秋風が江戸の町を吹き抜け、銀杏並木の葉がひらひらと石畳に落ちていた。城下の往来には、商人たちが新米の取引に忙しく声を張り上げ、町人たちは冬支度の品を買い求める姿が目立った。そんな喧騒から少し離れた新築の建物――「第一国立銀行設立準備所」の広間では、全く別の熱気が渦巻いていた。


 帳簿、洋書、計算尺、紙幣の見本、為替手形の原図……。机の上に広がるのは戦場の兵器にも匹敵する「金融の武器」だった。


 その中心に立つのは渋沢栄一である。まだ壮年に差しかかる彼の顔には熱気が宿り、眼光は鋭く輝いていた。


 「殿、ここから先は私に任せてください」


 彼は藤村晴人に向き直り、深く頭を下げた。


―――


 藤村は扇を閉じ、静かに答えた。


 「栄一、お前の知識はすでに私の手を離れた。だが忘れるな、知識は制度に宿して初めて力となる。今日ここに集めた商人や役人の心を掴まねば、机上の空論に終わるぞ」


 その声には、師としての厳しさと家臣としての覚悟が混じっていた。


 渋沢はうなずき、用意していた板書にチョークを走らせた。


 「諸君、ご覧いただきたい。銀行とは金を貯める蔵ではない。金を動かし、生み出し、増やす仕組みである」


 黒板に三つの大きな円を描き、こう書き込んだ。


 ① 預金

 ② 貸付

 ③ 為替


 「まず、庶民や商人が余剰金を銀行に預ける。銀行はその金を眠らせず、商人や職人、事業家に貸し出す。そしてその事業が成功すれば、利子と共に返ってくる。これが預金者に利息を生み、また新たな貸付を可能にする」


 聴衆の目が見開かれる。


 「さらに、遠隔地の取引――例えば江戸から大坂への送金に金貨を運ぶ必要はない。為替手形を発行すれば、紙一枚で金と同じ効力を持たせられるのだ」


 ざわめきが広がった。商人たちは互いに顔を見合わせ、声を潜めて囁き合う。


―――


 藤村はその様子を見て、心の中で静かに頷いた。


 ――ついに時が来たか。


 数年前、財政破綻寸前で呻吟していた幕府を救ったのは、渋沢が学んだ簿記や会計の知識であった。藤村がその知識を吸収させ、育て、鍛え上げてきた。だが今や、彼は一人で制度を構築できるまでに成長していた。


 「栄一の知識が爆ぜた」――そう表現するにふさわしい瞬間であった。


―――


 渋沢はさらに熱を込めた。


 「銀行制度の利は三つ。第一に、資金が流れることで商業が活発化する。第二に、貸付により産業が興り、雇用が生まれる。第三に、為替の導入で安全かつ迅速な取引が可能になる。つまり銀行は商人だけの道具ではなく、国全体を豊かにする装置である」


 彼は声を強めた。


 「欧州ではすでに当たり前の仕組みだ。ロンドン、パリ、ベルリンの銀行が産業を支え、戦費を賄い、国を動かしている。日本だけが遅れてよいはずがない!」


 机を叩く音に、聴衆が一斉に頷いた。


―――


 その後、渋沢は具体的な数値を示した。


 「ここに一万両の預金が集まったと仮定しよう。その半分を貸付に回せば、五千両が商人の手で商品となり、工場となり、雇い人の給金となる。やがて利益と共に返済され、銀行の資金は再び巡る。この循環が続けば、一万両は十万両の働きをする」


 その説明に、会計官たちの目が鋭くなった。数字が示す説得力は何よりも強い。


―――


 藤村は壇上に歩み出て、渋沢の肩に手を置いた。


 「諸君、この若者を軽んじてはならぬ。彼は私の教え子であり、日本の金融を変える人物である。……だが銀行は利益だけを追うものではない。国家の信用を支える柱でもある。ゆえに制度は厳格でなければならぬ」


 その言葉に緊張が走った。


 「今日から、第一国立銀行の設立準備を始める。栄一をその責任者とする」


 静寂の後、広間はどよめきに包まれた。


―――


 その夜、藤村邸の書斎では、渋沢が深々と頭を下げていた。


 「殿、これまでのご指導の賜物です。私は必ずやこの銀行を成功させ、日本の産業を支える礎といたします」


 藤村は盃を置き、静かに答えた。


 「栄一、お前が火を放つなら、私は薪を整えよう。燃やし尽くすのではなく、絶えず燃え続ける炉を築くのだ」


 障子の向こうから、子どもたちの笑い声が響いていた。外では秋の虫が鳴き、江戸の空には月が冴え冴えと輝いていた。


 その光の下で、近代日本の金融制度という新しい炎が、確かに灯されたのであった。

秋の夕暮れ。藤村邸の庭には、紅葉が散り始めた柿の木が影を落としていた。障子を透かす灯火の中、書斎の机には新しく届いた地球儀が据えられていた。滑らかな木台に載せられた球体は、西洋から取り寄せた最新の地図を貼り合わせたもので、国境線や航路までもが精緻に描かれていた。


 義信は、その球体に両手を添え、ゆっくりと回していた。細い指が日本列島をなぞり、そこから太平洋を越えて遠いアメリカ大陸へと滑っていく。


 「ここが横浜、ここがロンドン……。父上、船で行くにはどれくらいかかるのですか」


 幼さを残す声には、すでに学者のような熱が宿っていた。藤村は盃を置き、穏やかな眼差しで答えた。


 「風と蒸気を頼れば数か月。だが鉄路と蒸気船がつながれば、時は必ず縮まる。お前たちが大人になる頃には、この距離も違って見えるだろう」


 義信は真剣に頷き、また球体を回した。その目には、単なる遊びではなく「世界を測る」志がきらめいていた。


―――


 一方、久信は机の隅に広げられた条約文書の写しに向かっていた。厚い和紙の上に、西洋式の署名や花押が整然と並んでいる。彼は筆を取り、真似をするように署名を模写していた。


 「父上、この字はどうしてこんなに曲がっているのですか」


 藤村は笑みを浮かべて答えた。

 「それはアルファベットだ。外国の署名には、それぞれの国の流儀と誇りが込められている。署名とは、約束を形にする証だ」


 久信は「約束」という言葉を繰り返し、何度も筆を走らせた。その顔には遊び心だけでなく、書の意味を理解しようとする真剣さがにじんでいた。


―――


 義親は母の篤姫の膝に抱かれ、穏やかな笑みを浮かべていた。姉の手から渡された小さな木の玩具を握りしめ、きらめく地球儀や条約文書に目を向ける。幼い心に、それが何を意味するかは分からぬ。だが、部屋に漂う学びと静かな緊張感を敏感に感じ取っているようで、声を立てずにじっと耳を澄ませていた。


 篤姫は柔らかく微笑み、子らの姿を見やりながら藤村に言った。

 「この子たちの学びは、もう家の中だけに留まりませんね」


 藤村は頷き、地球儀を回す義信、筆を走らせる久信、母に抱かれる義親の姿を順に見つめた。


 「そうだ。国が広がれば、子らの視野も広がる。……やがて彼らは日本と世界を結ぶ架け橋となろう」


―――


 夜風が庭を渡り、障子を揺らした。秋の虫の声と、子どもたちの息遣いが交じり合うそのひととき。藤村の胸には、財政や条約交渉に追われる日常の中でも確かに「未来がここにある」という実感が刻まれていた。

十月の澄んだ空気が江戸城を包んでいた。外交庁舎の増築が終わり、真新しい会議室には洋式の机と椅子が整然と並べられていた。磨き上げられた窓からは、秋の光が柔らかく差し込み、机上の条約文書を照らし出していた。


 その日、欧米列強との新条約締結が正式に調印された。調印式の場で、各国の公使が署名を終えるたび、静かなざわめきが広間を満たした。


 「これで日本は、名実ともに対等な一国として認められる」


 藤村は深く息をつきながら、心の内でそう呟いた。数年前、財政破綻の瀬戸際にあった国が、今や国際舞台で堂々と条約を交わせるのだ。その変化を思うと、胸の奥に熱いものがこみ上げた。


―――


 一方、江戸の学問所では、条約調印の熱気をすぐに教材へと変える試みが始まっていた。藤田小四郎が壇上に立ち、机の上に分厚い簿冊を置いた。


 「これは本日の条約文を写したものだ。諸君、外交は遠い出来事ではない。ここに記された一文一文が、商人の取引を変え、農民の生活を変え、兵の行軍を変えるのだ」


 学生たちは真剣に耳を傾け、筆を走らせた。


 小四郎はさらに声を強めた。

 「条約とは、国家の約束である。数字と理屈で組み立てられた約束だ。だからこそ我らは、理を学び、数字を読み解く力を磨かねばならぬ」


 その言葉には、かつて熱血漢として名を馳せた青年が、今や実学を重んじる教育者へと変わりつつある姿が映し出されていた。


―――


 夜、藤村邸の庭から見上げた空は冴え冴えとした月に照らされていた。篤姫と共に歩きながら、藤村は静かに言った。


 「条約は結んだ。だが、それは終わりではない。子どもたちが読み、学び、次の世代でさらに改めていく。国家の歩みは、その連なりによって続くのだ」


 篤姫は頷き、家の中から響く義信と久信の声に耳を澄ませた。机の上には、彼らが真似て書いた条約の署名が並んでいる。幼い手で綴られた文字の列は拙くも誇らしく、まるで未来の礎石のようであった。


―――


 外交の成果と教育の営み。二つが一つに結びついた夜、藤村は確信していた。

 ――国を築くのは、紙に記された約束と、それを学ぶ子どもの手だ。

ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

面白かったら★評価・ブックマーク・感想をいただけると励みになります。

気になった点の指摘やご要望もぜひ。次回の改善に活かします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ