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【コミカライズ企画進行中】閣下が退却を命じぬ限り【本編完結】  作者: 剣崎月
第八部・イヴ・クローヴィス、連合部隊を率いて北東に進軍す編
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【246】少佐、従騎士を務める

 クロムウェル公爵とイワンの野郎の決闘を許可することにしました!

 理由は貴族のプライドが面倒だから……だけではなく、わたしにも思惑はある ―― イワンたち一行は、シャルルさんを除くと総勢十一名だった。

 そのうちの三名をわたしが射殺し、続く一斉射撃で三名が死亡。生存者は五名、うち一名はイワン。

 その生存者の中に、ヴェルナー大佐に大怪我を負わせた男がいるのだ。

 イワンたちを捕らえた時に、シャルルさん誘拐現場にいあわせたリースフェルトさんがその目で見て、教えてくれたので間違いはない。

 年の頃は三十を少し過ぎたくらいで、腕っ節に自信ありといった感じ……まーオディロン以上ってことはないだろう。

 何処で判断したのかって? 雰囲気。

 オディロンから感じる、物理強者のオーラみたいなものがないので。


 大体その男がヴェルナー大佐に大怪我を負わせることができたのって、我が国の王家に伝わる王笏(おうしゃく)を人質……いや物質(ものじち)にとり、ヴェルナー大佐を撃ったのだ。

 歴史だけはある我が国の建国王が持っていた王笏(おうしゃく)ですので、国宝なので、普段は大事にしまわれているのですが ―― アレクセイの葬儀の際に陛下が持ち出したんですよ。

 王族の葬儀の際には使うものでしてね……アレクセイは王族じゃあありませんが、陛下が王笏(おうしゃく)を持ち出し正式に弔ってやろうとしたら、アレクセイのやつが! お前はどれだけ迷惑を掛ければ気が済むのだ!

 もうアレクセイは死んでしまった……ではなく、わたしが殺したので文句は言いませんが、卑怯な方法でヴェルナー大佐に大怪我を負わせた男は許しがたい!


 まあヴェルナー大佐自身、結構あれで卑怯な手段でもなんでも取ってると思いますけれど……鬼も過ぎる人ではありますが、軍人の基礎を教えてくれ、射撃の才があると判明後、地獄のようなという形容詞はつきますが、特別に訓練を付けてくれたりと、今のわたしがあるのはヴェルナー大佐のおかげ。その恩師が卑怯な手段を用いられ大怪我を負わせられたら仕返ししたいよね!

 もちろん職務中はぐっと堪えますが、仕返しできる機会があるのならする!

 機会を作ることができるのならば作る!

 というわけで、決闘は古式ゆかしい騎士方式を採用しました。

 騎士方式は馬に乗り一対一で戦う。ただし従騎士が一人は付くよ! というもの。武器もその時代に則り飛び道具、すなわち銃器の類いは禁止。

 いきなり銃を乱射されたら困るからね。

 もちろん持たせるつもりはないが。

 現在主流の地面に足を付けての決闘ですと、クロムウェル公爵の実力が心配。だってわたしの一撃で剣をばーん! て飛ばしちゃうくらい弱いので。

 クロムウェル公爵に言わせると『お前(わたし)が強すぎるだけだ!』そうですが。なにより貴族というものは、騎乗で実力を発揮する……はずですから、騎乗でいけ!

 もちろんこの決闘に対し、一抹どころではない不安はありますが、それを補うのが従騎士。

 イワンの従騎士はヴェルナー大佐に大怪我を負わせた男で、クロムウェル公爵の従騎士はわたし。

 事情を知っている人たちには反対されましたが、ヴェルナー大佐の仇を討つのだ! と言ったら、


「マズイと思ったら、オディロンを放ちますからね」


 そういう条件でみんな引いてくれた。

 オディロンを放つって、なんかパワーワードっぽいような、あれ放つもんなの? なんか当人も納得しているみたいだからいいけどさ。

 事情を知らない側に属するクロムウェル公爵は、


『本来、従騎士は男が務めるものであり、淑女(レディ)にそのような真似をさせるのは紳士であり、騎士である誇り高きマクミラン家の当主としては……』


 などぼそぼそ言っていたが、


『マクミラン。わたしは淑女(レディ)ではない少佐(メイジャー)だ。そこを間違うな』


 指揮官の権限で黙らせた。

 クロムウェル公爵は顔を真っ赤にして『分かっている……が、仕方ないだろう……』などと言い、決闘の準備へと向かった。


「平民に注意されて憤怒を覚えるのは分かるが、あんなに顔色を変えなくても」

「多分違うと思います、隊長」

「それは全く違うかと、少佐」

「?」


 クロムウェル公爵の顔が赤くなった理由をネクルチェンコ中尉とリースフェルトさんは教えてくれなかったが、赤面の理由を深く追求している場合ではないので ―― 従騎士の仕事だが、戦場においては主君である騎士の武器を補充したり、共に戦ったりする。


「隊長の武器はいかがなさいますか?」


 ネクルチェンコ中尉に聞かれ、わたしは杭打ち用の大型ハンマーを選び肩に担ぐ。


「少佐。奴の懐にはおそらく」

「分かった、ジーク」


 なんでそんなハンマーあるの?

 草原で一泊するさい、馬を繋ぐために持参した杭を打ち込む必要があるので持ってきたのです。

 三カ国の軍で周囲を囲み、クロムウェル公爵とイワンは剣を持ち、馬上の人となり、すっごい楽しそうなリトミシュル上級大将閣下の号令により馬上決闘が始まった。


【始め!】


 わたしは剣を持っているイワンの従騎士と向かい合い ―― 時間をかけるとオディロンが放たれそうなので、その前に決着を付ける! ハンマーを振り上げ、間合いを詰めて男の利き腕ではない(・・)方の二の腕に振り下ろす。


{ぎぅぇっ!}


 男の二の腕が折れる感覚が、しっかりと伝わってきた。

 男はそのまま体勢を崩し、剣から手を離し草原に倒れる。

 馬上の二名が「えっ?」って顔してこっちを見ているのだが、クロムウェル公爵、敵から目を離すんじゃありません! いまはわたしが見ていられるからいいけど、イワンに集中しなさい!


{う、うあああ? うわあぁぁぁ? あああああああ}


 男は自分の折れた腕を見て悲鳴を上げている。

 そんなに吃驚するなよ。わたしの獲物(武器)が大型ハンマーだった時点で、食らったらこうなるのは分かっていただろう?

 わたしはハンマーで男が落とした剣の柄を蹴り遠ざけてから、男へと近づく。


{ひぃぃー! 来るなぁぁぁ!}


 男は尻餅をついたままの体勢で、わたしから遠ざかろうとする。


【はははは! ”ひぃぃ、来るな~”だとよ】


 そこにリトミシュル上級大将閣下の、嘲笑入りな翻訳が被る。

 わたしは男の言葉を無視し大股で近づく。男の近くでハンマーから手を離し、拳を握り締める。

 情けない叫びを上げずるずると逃げてきた男は「この時を待っていた」と叫び出しそうな表情で懐に利き腕を突っ込み ―― 



 利き腕を折らなかった理由、分かっていなかったようだな。愚かで良かったよ!



 拳銃を取り出した腕を掴み、銃口を男の胸に押しつける。銃声が響き、


{ざまぁみろ……え?}


 わたしに命中させたと思っていた男は「ざまぁ!」みたいな表情を浮かべたのだが、自分の腕が思った方向を向いていないことにやっと気付き、恐る恐るといった表情で銃口の位置を確認する。


{男、貴様が撃った相手は貴様自身だぞ}


 自分の腕の向きが変えられたことに気付かないまま、引き金を引いたのだ。


{あ、あ、ああああ!}


 自分を撃ってしまったことに気付いた男は、呆然としたまま変な声をあげ ―― 腕を離したら今度は俯せに倒れた。

 わたしは再びハンマーを持ち、


『マクミラン、決闘はどうした』


 馬に乗ったまま静止しているクロムウェル公爵に声をかける。ちなみにイワンも止まってる……なにしてるんだ、お前たちは。早く決闘しなさい。わたしはその間に、こいつを片付けるから。

 ハンマーを振り上げ、男の利き腕を潰してから、拳銃を取り上げ、弾丸を全て抜いてから、周囲を取り囲んでいる兵士たちのほうへと投げる。

 飛んできた物体が拳銃だと気付いた兵士たちは、


【卑怯だぞ、イワン!】

【大天使強い!】

【あれ大天使なのか?】

【飛び道具は禁止だ!】

「隊長強えぇぇぇ!」

【決闘をなんと心得ているのだ】

[あの速度では台下(だいか)を捕らえることはできん]

【この決闘はイワンの負けだ!】

「さすが隊長。なにをしたのか全く分からなかった」

【貴族の面汚しが!】


 なんか口々に言っているが、リトミシュル上級大将閣下が「止め」をかけないので決闘は続行。

 わたしは掌を軽くハンマーで叩きながら、大貴族さんたちの決闘を眺める……イワンって大貴族だよね? 閣下の親戚で、勝負にもならなかったけど、ルース皇太子レースにも出馬できたくらいだから大貴族だよね?


「……」


 従騎士が倒れるまで始まらなかった決闘 ―― 始まってみるとクロムウェル公爵がかなり優勢。剣術そのものはがっちがちの古き良き騎士さまって感じだが、柔軟な乗馬技術がそれをカバーしている。

 イワンが弱すぎるという気もしますが、こちらが優勢なのだから喜ぶべきだ。

 

『いいぞ! マクミラン』


 クロムウェル公爵が劣勢だったら、イワンの脇腹に跳び蹴りを入れようと思っていたが、その必要はなさそうなので声援を送るくらいしかない。

 イワンの従騎士? ああ、動かないように踏んでるよ!


『うおおおお!』


 クロムウェル公爵が吠え、渾身の力を込め振り下ろした剣をイワンは正面から受け止め、受けきれずに落馬した。

 落馬慣れでもしてんのか? と言いたくなるような勢いで体勢を立て直したイワンだったが、クロムウェル公爵の剣先が眼前にあることに気付き動きを止めた。


【止めっ! 勝負あった、勝者クロムウェル公爵】


 リトミシュル上級大将閣下の声が響き、クロムウェル公爵は高々と剣を掲げ……お前、掲げるの好きだね。

 わたしは従騎士の仕事として、落馬したイワンを流れるように縛る作業に。


『少佐!』

『どうした? マクミラン』

『わたしは格好良かっただろう!』


 お前はなにを言っているの? ああ、貴族の坊ちゃんだから、きっとなにをしても褒められて育てられてきたんだな。


『今までで一番格好よかったぞ、マクミラン』


 よしよし、よくできました! わたしの部下でいる間は、褒めて伸ばしてやるよ! 


『ふふん! 惚れるなよ!』

「……」

『そ、そんな目で見るな! ただのジョークだ』


 惚れもしませんし、ジョーク下手だなー。貴族ってウィットに富んだ会話ができなきゃ駄目なんじゃないの?


{貴様、もう少し緩く縛れ、この馬鹿力が! 本来であれば、貴様のような平民はわたしに触れることすら出来ぬのだぞ}

「……」


 決闘が終わっても、貴族が煩すぎて困る。


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