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【200】少佐、カリスマに戦慄する

 ヒースコート准将は足を組み直し、わたしたちにもソファーに座るよう命じ ―― ボイスOFF(ウィルバシー)と並んで腰を下ろす。

 

「お前さん、プリンシラ(ウィルバシー)より背が高いのに、座高は低いんだな」


 しみじみ言われたのだが……それを確認したくて、座れと命じたのですか?


「小官も隊長と会うまでは、自身の足が短いと思ったことはなかったのですが」


 脚の長さはどうでもいいんだよ! むしろ脚の長さには触れるなよ! お前は足長いよ! さすが攻略対象だよ、ボイスOFF(ウィルバシー)。まあ、身長差を考慮してもわたしよりは短いが。

 カリナがきゃっきゃしながら、測って教えてくれた。カリナさん、男の人は色々プライドが面倒くさいものだから、そういうこと、あんまりしないほうがいいよ。

 我が家のお姫さまは恐れを知らぬ、本当にお姫さま。

 世の中の男は、デニスやボイスOFF(ウィルバシー)やクライブのように、穏やかではないから。ああ、父さんも穏や……脚の長さはどうでもいいんだって。


「わたしは子供の頃から、自分に自信があってな」


 唐突にはじまるヒースコート准将の俺様自慢。

 それはそれは俺様だということは、ネクルチェンコ中尉たちから聞いております。そしてそれ以上の才能があるとも。……聞かなきゃ駄目なんですかね?


「わたしは、わたしに相応しい主君に仕えたいと考えた」


 さすが俺様。俺が仕える相手は俺が選ぶ……現代人の感覚を持つわたしからすると、当然とも思えますが。


「当時我が国は専制君主国家。故に仕える相手は国王。だが当時の国王ヴェルロンデスはわたしが仕えるのに値する主君ではなかった」


 前体制下でしたら不敬罪で捕まる台詞を、美声ではっきりと語るこの度胸 ―― 新体制になってまだ一年ですので、聞かされたほうが物怖じするかと。

 実際隣りに座っているボイスOFF(ウィルバシー)の体が、びくっとして硬直した。

 元有爵貴族だ。国王の悪口とか……貴族なのでそういう話題が出ることもあっただろうが、それは自邸のみ。庁舎のトップの部屋で、語るような内容ではない。

 だが語っても許される、それが新体制。


「大国に嫁がせる妹王女の支度金の一つである、インゴットを偽装するような国王であったことを知り、わたしの見込みは正しかったことが証明された」


 ヴェルロンデスは先々代ノルトークス王と現国王ガイドリクス陛下の父君で、ヒースコート准将が仰る通り十八金を二十四金と偽って目録に記載し、妹王女アレクサンドラをルース皇后として送り出した我が国の国王(故人)

 それ以外もまあ……うん、まあ……産業革命で置いてけぼりくらった原因の一つというか、きっと後世において 【無能が即位】歴代ダメ国王選手権【国家滅亡】 などというスレッドを賑わ……すこともできず、書き込まれると「そいつ、フツーにダメだっただけじゃね」というレスがつくこと必至な国王である。

 なんというのかな、即位しても良いんだが、即位したところでなにができるの? なにもできないよね? みたいな。言葉で表すのは難しいのだが”ぼわっとダメな感じ”な国王だった。


「それに関しては……」


 ボイスOFF(ウィルバシー)も言葉に困っている。

 国家を上げて偽物を作った、ガチ詐欺師だからなー。


「リリエンタール閣下は、昔から気付いていたそうだ。ロスカネフがそんなに金を保有しているはずはないと。リリエンタール閣下の御慈悲により、ロスカネフは国際的な信用を失うことはなかった」


 そっかー。

 閣下はあの説明会の時点で、本物の純金インゴットは偽物であることをご存じだったのか。しかし本物が偽物(十八金)で、偽物は本物(二十四金)ってややこしいわー。


「そうでしたか」

「ヴェルロンデス王ではない誰か。そう思った時、わたしとさほど年齢の変わらない十代始めの少年が、国内にいる皇族成人男性を押しのけ、ルース帝国の後継者に収まったと聞いた」


 語るヒースコート准将の楽しそうなことといったら!

 実は聞いているわたしも楽しいですがね! 


「それを聞いた時、リリエンタール閣下という存在に興味が湧いてな。伝手を使って色々と調べてみた結果、わたしが仕える相手はリリエンタール閣下しかいないと結論が出たので、仕えるべくルース帝国の士官学校へと進学した」


 直接会っていないのにも関わらず、ヒースコート准将の人生を決めたのは閣下なのですか。


「残念ながらリリエンタール閣下はルース皇帝に即位しなかったが、この先も何かと面白そうだと考えて付き従い、想像以上に楽しい日々を送り、付き従い故郷へと帰ってきて、楽しい日々を送っている。わたしが今、ここにいるのはリヒャルト・フォン・リリエンタールがいるからだ」


 人間ってこんなに一人の人に心酔できるもんな……なんですね。

 それも洗脳されやすそうなタイプとは正反対のお人だというのに。


「本来であればリリエンタール閣下は、ロスカネフを去っている筈だったが、手に入れるのに必要ならば、()を殺すことも厭わないと、異端審問官たちの前でリリエンタール閣下が言い切ったクローヴィスの故国ということで、ここに居を構えることになった」


 怖ろしく不穏な単語が聞こえたのですが。

 えっと……神殺しは、ヒースコート准将がアレンジしているのですよね?


「そうなれば、わたしもロスカネフに居を構えねばならない」


 居を構えるもなにも、あなた様のご実家はロスカネフ王国でして。


閣下(ヒースコート)は独身でいらっしゃいますが」


 我が国の高官の独身率は異常。

 前世なら気にはならないが、この時代の貴族や高官が結婚していないって、かなり珍しい……はずなのに!


「ですが閣下(ヒースコート)には、親族がいらっしゃるはず。わざわざ罪人の子である小官(ウィルバシー)を、養子に迎える必要はないのではございませんか?」

「親族に才能のある奴がいない。もしも、わたしになにか遭った時、リリエンタール閣下に仕える才能あるヒースコートが欲しいのだ。ヒースコートの血を引いている者に、仕えることが出来る才を持った者はいない。となれば才能のある養子を迎えるしか他あるまい」


 さらっと言ってますが、家督争い的なものが起こるのではないのですか?

 庶民歴の長いわたしには無縁といいますか、物語で知っている程度ですが。


「才能を評価していただけたのは、嬉しく思います」


 お前は才能溢れる男だからな、ボイスOFF(ウィルバシー)。優秀のほぼ全てが揃っているよ。個人的に声は生理的に嫌いだが。


 ―― で、養子話はどうなったか? と言いますと、持ち越しになりました。


 話をしている途中で、ヒースコート准将の部下が呼びに来て、中断となったので。人事局の局長はなかなかにお忙しいようです。

 忙しい理由は知っておりますがね。

 なんかね、共産連邦軍の動員数が多くなりそうなんだってー。

 十万人対三万人で計算していたのですが、十五万人になりそうとのこと。それに備えて徴集兵を増やすことになったのだが、すぐさま用意できないのが小国というもの。

 共産連邦は五万人程度、簡単に増やせますが、我が国は五千人増やすのにも必死です。


 それにしても……閣下の読みが外れるなんて、珍しいなあ。


 閣下はたしかに十万人対三万人と仰ったのに。もしかして、ルースの後継者である閣下からすると、五万人増くらいは誤差の範囲内なのかも。

 閣下、我が国は五万人を誤差といえるほど人的資源はございません。


スタルッカ(ウィルバシー)、考えは纏まったか?」


 共産連邦軍のことはきになりますが、ボイスOFF(ウィルバシー)のことも気になります。


「そうですね……」


 それで途切れてしまったが、無理矢理口を開かせるような話題ではないので ―― そのまま徒歩で帰途についた。


 ヒースコート准将と話をした翌日、キース中将はボイスOFF(ウィルバシー)を呼び出し、決めたのかどうかを尋ねたが「中断したので」と告げ、ヒースコート准将との会話の内容をも伝えると、


「ルースの士官学校に進む理由など、それ以外ないだろうな」


 キース中将は当然といった感じでした。


「……だがはっきりと聞かされると、ヒースコートの奴が羨ましいという思いが胸を過ぎるな。悔しいが」


 頬杖をついたキース中将が、溜息交じりに言う。

 きっとキース中将も、もう少し出会いというか、恋人が惨殺されていなければ、ヒースコート准将のように……なられたら、我が国は困りますね。


閣下(キース)も過去のことがなければ、リリエンタール閣下にお仕えしたのでしょうか」


 ボイスOFF(ウィルバシー)がストレートに行った!


「ああ」


 そしてストレートに答えが返ってきた。


「わたしは結構抗っているほうだ。……ここだけの話だが、連合軍の本営が共産連邦軍に強襲されてな。主席宰相(リリエンタール)閣下の副官だったわたしも、当然その襲撃に遭遇したのだが」

「そのようなことがあったのですか?」


 教本に載ってな……話始める前にキース中将「ここだけの話」っていったな。なんだろう? 大負けしたから歴史から抹消した? でも、大勝していたら共産連邦側が大々的に書き立てるよね?


「あった。そして強襲と言ったが、それは強襲ではなく寝返りだった」

「寝返り?」

「本人たちにとってはルース軍として、ルース帝国後継者の元へと馳せ参じただけ……と言っていた。奴らにとっては共産連邦と名乗った小役人たちの集まり政府なんぞ、どうでもいい。俺たちの主はシャフラノフだと ―― その数、実に二十万。そいつらは全員主席宰相(リリエンタール)閣下に従い故国を捨てた。敵対国家である我が国の貴族(ヒースコート)ですら、噂を聞いて心を躍らせ仕官しようとする存在だ。ルース国民にとっては、それ以上だったとしても、驚くことではない……正直に言えば驚いたがな」


 どうしてこれが秘密なのかというと、共産連邦側も寝返ったことは知っていたが、公表したら書記長に求心力がないというのがバレバレになって、書記長自身が粛清されかねないので、悔しいが行方不明扱いにするしかなかったらしい。

 でも悔しくて仕方なかった初代書記長は、寝返った者たちの家族を意味が分からない理由で北シビル送りにした ―― だが、ルース横断鉄道を使用したため、閣下にピンポイントで通過日時を当てられ、彼らの家族は無事救出され、寝返った者たちと共に国外へ。

 でも全員救えたわけではないので、下手に刺激しないほうがいいだろうと閣下が判断し、連合軍側もそれに従い隠されているのだそうだ。

 共産連邦側も下手に触ると閣下が本土を蹂躙してくる恐れがあるので、現在は知らぬ振りをしているとのこと。


 連合軍総司令官時代の閣下に翻弄されまくったルカショフが若干可哀想……にはなりませんが、ぼこぼこにされていく様は、芸術的であり伝統芸能みたいだなって思うことはある。


「二十万人が寝返るさまというのは、凄まじいものだった。民族の違う者同士が部隊を形成し、軍隊としてしっかりと動き、主君の元へとやってきた。あれがカリスマというのだろうな。……だから、主席宰相(リリエンタール)閣下に含みがないのであれば、前向きに考えても良いのではないか? スタルッカ(ウィルバシー)


 なんにせよ、閣下のカリスマが凄い。洒落にならないくらいに……。

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