【201】少佐、閣下の招待客リストに目を通す
昇進したり、リーゼロッテちゃんとエリアン君をハール家に送り届けたり(別れるのが辛かったわー)、部下の養子先について部下から教えてもらったり、カリナと馬でギムナジウムに行く日をいつにするかを話し合ったり ――
「イヴ」
デニスとボイスOFFと共に書類作成に勤しんでいると、
「なに、父さん」
父さんに声を掛けられた。
「話があるから、書斎まで来なさい」
「分かった」
父さんの後をついて書斎に入り、椅子に腰を下ろす。
「イヴ。まずは少佐昇進おめでとう」
「ありがとう、父さん」
「あまり無茶はしないで欲しいと思うのは、家族だけではないことを、肝に銘じておくんだよ」
「はい」
親にあんまり心配はかけたくないよね。
……心配かけるようなことしかしてないけれど。でもそこは仕方ないのさ。そういう仕事だから。
「さて、イヴ。明後日の休日、リリエンタール伯爵閣下のお城へ向かいなさい」
父さんはそう言い、机の引き出しを開けて、二種類の書類挟みを取り出した。どちらも高級感しかない、全面エンボス加工が施された革製。
片方はワインレッド、もう片方はやや青みを帯びている黒で中心にR.V.Lとある。
「ワインレッドは我が家の、黒い方はリリエンタール伯爵閣下が招待状を送る相手のリストだ」
わたしがオディロンと殴り合い、説明会資料を作成している間にも、結婚式の準備が着々と進んでいた!
相変わらず閣下は隙がないわー。わたしは隙だらけですけれどねー。
「イヴの友人知人は自分でリストを作成するんだよ」
「うん」
士官学校の同期を呼べるだけ呼ぼう! 初めての部下である隊員たちも! ユルハイネンはきっと式を見ても信用しないだろうが……呼んでやろうじゃないか。
「我が家とイヴの知り合いは、リリエンタール伯爵閣下との結婚を公表してから招待状を送っても間に合うけれども、伯爵閣下はそうはいかず。代理人の関係もあるので、そろそろ送付しなくてはならないそうだ。招待状送付相手の名前を見て、父さんもそう思ったよ」
父さんが差し出してきたR.V.Lのエンボス加工が施されている書類挟みを受け取り、開いてみるとトップはメデュヘニアエス十二世……猊下。
そ、そうですか、教皇猊下にも招待状を送られるのですか、閣下。
ただ招待状は送るが、代理の者がやってくるであろうとも書かれていた。代理として送られてくる者の名前が五名ほど書かれていたのだが……うん、全員枢機卿だ!
教皇猊下がお出でになるよりは、枢機卿閣下が五名いらしたほうが気は楽……か?
二枚目にはグロリア・ヴァルブルク・エリザベス・オブ・ブリタニアス……陛下。
やはりババア陛下さまにも、招待状は送られるのですね。
グロリア陛下はこの時代では高齢の七十代ですので、こちらも代理人 ―― 外務大臣と全権特務大使が送られてくるであろうとのこと。
「ババアめ……だが呼ばぬわけにはいかぬ」と仰っている閣下が幻視できる。きっとそう。なんだろう、微笑ましい感じが……ふふふ、閣下は色々仰いますが、嫌いではないのでしょう。本当にお嫌いでしたら、招待状すら送らないはず。
だって閣下、ご親族には誰一人として招待状を送らないので。
「祝福しない者に招待状を送るような無駄なことはせぬ……とのことだよ」
前妻の子ですが、閣下のお兄さまにあたる神聖皇帝コンスタンティン二世陛下とか、ガン無視してよろしいものなのですか? ま、まあ神聖帝国、アブスブルゴル帝国、アディフィン王国は貴賤結婚を禁止する法律がありますので、法律違反に当たる閣下の結婚を祝うようなことはないでしょうが、神聖皇帝(腹違いの兄)アブスブルゴル皇帝(はとこ/ただし血の濃さは兄弟並み)アディフィン国王(義兄)……断られても招待状を送ったほうがいいような、でもきっと閣下が送らないと判断なさったので、送らないほうがいいのでしょう。
ただ閣下の王族としての血縁関係は世界各国に広がっているのと、わたしの不勉強から全く知らない国の国王がリストに載っていたり。
「父さんも知らなかったんだが、ここにクリフォード公爵領ヌガンダン王国というのがあるんだね」
父さんが世界地図を開き、色分けされている大陸の一部を指さした。
その大陸は列強が好き勝手に切り取りしている大陸で、色は宗主国がどこかを表している ―― 大陸の形は微妙に違うが、アフリカ大陸に該当するのだろう。
父さんが指さしたのは、ブリタニアス君主国の植民地だった。
「ブリタニアス領じゃないの?」
「ブリタニアス領で王族に与えられているものだそうだよ。ブリタニアス唯一の王位継承権をお持ちの方が、王室属領を所持していない筈ないだろう、イヴ。ま、父さんもこの地図を渡され、説明を受けて初めて知ったのだけれど」
えっと……「ブリタニアス唯一の王位継承権をお持ちの方」って要するに閣下のことだよね。
「ヌガンダン王国の国王夫妻と王太子殿下をご招待? ……国王と後継者は一緒に行動しちゃ不味いんじゃなかったっけ?」
「王太子殿下はロスカネフにいらっしゃるそうだよ」
「そうなんだ」
閣下のご自宅は、高貴な方々が集いし宮殿なのだろう。
また閣下のお屋敷にはヌガンダン王国の隣国、ハクスリー公爵領バルツアルル王国の王女さまもいらっしゃるそうで、その方も「是非お祝いしたい」と仰って下さったとか。
閣下のお屋敷は、まさに本来の意味で尊すぎる ――
「このお二人は閣下のご学友なんだって」
神聖帝国外務大臣フォルクヴァルツ選帝侯アウグスト閣下と、アディフィン王国の軍務大臣リトミシュル辺境伯爵ヴィルヘルム閣下にも招待状を送るみたいです。
閣下、色々と仰いますが、このお二人のことも、ババア陛下さま同様、お好きなのでしょう。
やっぱりお友達なのですね。向こうのお二人にとっては親友でしょうが。
「そうなのか……”送らないと乗り込んできて面倒になるゆえ、仕方なしに送らせていただく”という補足が気になるのだが」
閣下のお言葉の通りだよ、父さん。
ただ閣下から聞いた密輸密航騒ぎを、わたしが語ったところで信じてはもらえないだろう。そのくらい……だった。あれは閣下が語って下さり、アイヒベルク閣下が相づちを打って下さったから信じられるのであって……。
「バイエラント大公国の元帥にして、南新大陸最大の植民地の総督を務めるペガノフ閣下も呼ばれるそうだよ」
ペガノフ元帥はど忘れしてしまったが、室長がなにかの弾みで「ペガノフが」と言っていた記憶がある ―― そのペガノフさんかな? まあ、どのペガノフさんでもいいのだが……わたしの記憶と暗算が間違っていなければ、ペガノフ総督元帥が治めている植民地は、バイエラント大公領の五十倍以上あるはず。
列強なら本国よりも植民地のほうが大きくても違和感ないのですが……なにをどうやって南新大陸を手中に収められたのですか? 閣下。
「まさかイヴが植民地持ちの男性と結婚するとは、思いもしなかったよ」
「わたしも思わなかったし、今の今まで植民地をお持ちなのを知らなかった」
お前、南新大陸のこと知らねーのかよ! と言われそうだが、知らなくても全く問題ないので。だって我が国南新大陸に植民地ないし、そもそも南新大陸に行けるような船ないから貿易もできないし……言わせるな!
「使者の方から聞いたのだが、リリエンタール伯爵閣下はこの植民地を独立させたいと考えているらしいのだが、ペガノフ総督が優秀で、現地の人々が”このままでお願いします”になってしまい、困っているそうだ」
閣下は部下の方も優秀なのですね。そりゃまあ、幸せな統治なら誰も壊したくはないよな。我が国だって閣下の統治が心地良すぎて、逃がすまいと色々やり過ぎて、逃げられ寸前でしたからね。
ペガノフ元帥は閣下からその地を任され……きっと閣下に心酔して、全力で統治しちゃってるんだろうなあ。
他には北新大陸の奴隷解放戦争にて、解放軍側の指揮を執り勝利を収め、奴隷解放を宣言したロックハート将軍にも、招待状を送るとのこと。
普通に大英雄です。ガチものの大英雄です。個人的には英雄皇帝なんかより、ずっと英雄だと思います。
「サインとかもらえるかな」
「伯爵閣下を通して頼むんだよ、イヴ」
「はい、父さん。でも、もらえたら嬉しいね」
「そうだね」
閣下の招待客は少ないのですが、一人一人が超国賓なので、結婚式は王宮の大聖堂を使わせてもらおうという話になりました。
近所の教会もいいんだけど、善良な神父さまの心臓に負担はかけたくないので。
「リリエンタール伯爵閣下がお越しになった時点で、神父さまの息が止まってしまうと思うよ」
わたしもそう思うわー父さん。
その後、我が家の招待客について話し合い、ベッドに入り、いつも通り即座に眠りに落ち ――
「……」
閣下と式を挙げている夢を見てしまった。
わたし、どれだけ閣下と結婚したいんだよー! 恥ずかしいなあー!




