第二十七話 姉と弟
あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!
予定通り、旧二十七話は削除いたしました。あれは無かったことにしておいてください。
さて、と。全員ぶっ倒したはいいけど、これどうするんだ?
一応、誰も殺さずにおいたし、観客もヒーローショー的な演出だと思ってるんだろうけど。それっぽくするために、わざわざアビリティまで使ったんだし。
うーん、とりあえず適当に喋って退散でいいかな?
もう騎士とかは来てるんだよな?
《ええ、第三王子率いる騎士達が駆けつけていますよ》
フレデリックかよ!? え、マジ? ここにいんの?
《はい。と言いますか、フレデリックの監視をしている最中に、彼が動いていたためこの件について気がつきましたので》
あー、なるほど。何だよ、フレデリック使えるじゃん。監視って何のためだったんだろう。
まあ、いいや。それは置いといて。
「思い知ったか、サーカス団! ウィアートルがいる限り、この世に悪は栄えない!」
某ヒーローの決め台詞を借りて、適当なポーズを取る。こだわりポイントとして、背後に火魔法で爆発を。
よし、じゃあ下手に事情聴取とかされる前に【空間神】で退散!
◆◆◆◆
そしてやってきたのは、元々泊まる予定だったウィアートル家の別宅。目的は姉さんに話を聞くことである。
というか、今、姉さんがいる部屋の前に立ってる。
どうしよっかなー。『もしもし、俺フェイトさん。今あなたの部屋の前にいるの』とかやってもいいけど、そもそも通信機ねえや。
仕方がない、普通に入るか。
ノックは要らないよな? アレに気を使う必要はないし。なんなら蹴破って入ってもいいまである。やらないけど。
さってと、姉さんは何をやってるのかなー。なんか面白いことしてたらいいなー。そうだったら、そのネタでいじりたいなー。
「おーっす、暴力魔。報復しにきたぞ——」
「あ、ダーリン! 待ってたわ……って、なんでアンタが来てんのよッ!」
気持ち悪いほどの笑みを浮かべてる姉さん迎えられたと思った瞬間、殴り飛ばされていた。
「——ぐはっ!?」
音速超えてるんじゃないかってスピードで、廊下の壁に叩きつけられるという悲劇。この俺が、視認できなかっただと!?
脳震盪を起こしているのか目眩がする。どうやら頭蓋骨にヒビが入っているようで、猛烈どころではない痛みも感じた。
それどころか、視界がどんどんぼやけていき、意識を手放しそうに……。
スティ、助けて……。
《はいはい、自動回復系のスキルを発動しておきますね》
…………。
…………。
…………。
……っし、フェイトくん完全復活!
「てめえマジざけてんじゃねえぞっ! 死ぬかと思ったじゃねえか!」
「なんで生きてるのよ! 殺す気で殴ったのにッ!」
「実の弟を殺す気で殴るなっつってんだよッ!」
逆ギレすんな暴力魔。
ああ、もういい。もういいよ。わかった。
俺怒っちゃったもんね。そっちが先に手ぇだしたんだから、後悔すんなよ。謝っても許さねえからな。
「死に晒せぇぇ!【アニヒレーション・カノン】!」
神級無属性魔法。絶対的な威力を持つ砲撃だ。ステータスは全部神級に戻した上で撃っているため、その威力は尋常ではない。
というか、普通に都市一つくらい全部吹き飛ばすレベル。
「ぐっ——きゃぁああああああ!!」
その直撃をくらい、悲鳴をあげる暴力魔。
はっはっは、ざまあ。やっぱり、魔法の抵抗力はそこまで高くないみたいだな。
前回殴った時に、思いの外効いてなかったぽかったから、今回は別方面からのアプローチにしてみたが正解だったな。
さーて、回復される前に追撃を——
「お嬢様っ! 何事で……フェイト様!?」
「あ、お邪魔してるぞ」
戦闘音を聞きつけたらしいメイドが慌ててやってきたので、右手を上げて挨拶する。
「い、いらっしゃいませ。えぇと、お嬢様は……」
恐る恐る部屋の中を覗いたメイドの視線の先には、般若の形相を浮かべながら全身傷だらけになっている暴力魔が。
「アンタ何してくれてんのよッ! 服がボロボロになったじゃない!!」
「は? 先にお前が俺を殴ってきたんだろうが」
「幼女偏愛の犯罪者なんて、見かけたら即殺に決まってるわよ」
「おっ……おま、まだ言うか! だから、レイは違うんだって!」
ウィークポイントをついてきやがって。いや、マジで誘拐とかしてないから。
ちゃんとした俺とアリスの子供だから。いや、眷属との子供って、響きがなんか犯罪感あるけど。
「あぁ、いつもの喧嘩ですか……」
俺たちの言い合いを聞いていたメイドは、遠い目をしながら呟いた。ごめんなさい、いつも迷惑かけて。
「あのぅ、お屋敷を壊さないように、ほどほどにしてくださいね……?」
おっかなびっくりといった様子で提言するメイド。……って、ちょっと待って。
「なんでこの家壊れてねえの?」
壁に超速で叩きつけられた俺とか、被害度外視でぶっ放された神級魔法があったというのに、一向に崩れる様子はない。
上等な要塞であってもすでに全壊していておかしくないというのに、だ。
《最低でも【結界神】クラスの防御が敷かれているようですね。全力で戦わない限り、屋敷がどうにかなることはありません》
うわ、さすがウィアートル。最低でもって、それより上ってほぼ確信してる言い方だよね?
よし、それなら容赦無くできるな……って。
「違う。俺はそんなことをしに来たんじゃねえ。聞きたいことがあったんだよ」
「……そう? アタシもこのあと用があるのよね。仕方ない、今のは不問にしてあげるからさっさと質問でもなんでもしなさい」
なんで上から目線なんだよ。どっちもどっちだっただろ。
まあ、そんなこと話してたら無駄に長くなりそうだから良いけどさ。
「姉さん、何でフレデリックの監視をする必要があるんだ?」
そう、これが謎だった。エバドンでの出来事も、スティに聞いた限りでは結構善意だったらしいし。そんな危険人物という感じはしない。
まあ、強いっていう点で、その他大勢とは一線を画してるけど、それが理由ってわけじゃねえだろ?
「ああ、そのことね。アタシも知らないわ」
「をゐ、おい、オイッ! ざっけんなっ! え、待って。マジで?」
「ええ、まったく知らないわよ」
えぇ……。マジのガチかよ……。自分で指示しといて知らないの?
「フレデリックが不審っていうのは、元はお兄様が言い出したことらしいわね。理由は教えてもらえなかったけど」
「それ、脳筋だから言っても理解できないと思って、言われなかったんじゃね?」
「あ゛? なに、喧嘩売ってんの?」
「事実だろ」
額に血管をビキビキと浮かべている暴力魔。一応抑えているようだが、もう直ぐ暴発しそうだ。そうなったら第二ラウンド開始だな。
「ま、まあ良いわ。言いたいことはそれだけ? ならさっさと消えなさい」
「いや、まだあるけど。っつか、そっちが本題だけど」
「何よ?」
暴力魔は露骨に嫌そうな顔をしながら先を促した。
「いや、フレデリックの監視って、本当は俺じゃなくてお前の担当だったんじゃねえの?」
「は? どういう意味?」
「しらばっくれてんじゃねえよ。俺がここにいることなんて知らなかったはずだろ?」
行き先は誰にも伝えてなかったし、この場所に来た理由がレイに美味しいものを食べさせたかっただぞ? んなイレギュラー把握してたら怖すぎる。
もうそれ、ただのストーカーだよね?
「それに、そもそも花婿探しってどう考えてもおかしいだろうが。お前、本当は監視のためにここに来たんだろ? そこで、たまたま俺がいたから押し付けて自分はサボってる。違うか?」
「…………チッ」
「舌打ちしてんじゃねえよ。やっぱやりやがってたかッ!」
余計な仕事を増やされてたのかよ。ゴミだなこの暴力魔。世のためにここで消しておく方がいいか。
《追加された余計な仕事をこなしているのは私ですけどね》
あ、うん。それは感謝してる。
《プラス、そのお陰でサーカス団関連も完全に気がつけたのですが》
いやー、ラッキーだったね。フレデリックが動いてるのに気づかなかったら、もっと後に決行しようとして出番なくなっちゃってたかもしれないし。……いや、それはその方がよかったんじゃね?
「……まあ、認めてあげるわ。確かにアタシは怠けてた」
「おう、認めろ。そして土下座で謝れ」
「嫌よ。というか、アンタの推測間違ってるわよ?」
ん? 何言ってんのコイツ? 認めた後で間違ってるとか馬鹿なの脳筋なの?
「お父様には、アンタとアタシの二人で監視するように言われたのよ。アンタがここにいるのはわかってたらしいわね」
どうやら俺のストーカーがいるらしい。いや、いないよね?
《いたら流石に報告しています。探知系のスキルを使ったのでしょう。特に妨害はしておりませんでしたので》
あー、なるほど。スキルが何でもありの世界だからなー。そういうこともあるか。
……なんか気分悪いからこれからは妨害頼む。
《わかりました》
にしても、マジか。理由もわからずに、監視は俺の役割でもあったって、ここに来た意味全くねえじゃん。
「それじゃ、これからも引き続きアタシの分まで監視頼むわね」
「舐めんな。お前もやれ」
今度こそ本気でぶちのめすぞ。スキル全開放で【神罰】撃つぞ。
「しないわよ。アタシは他にしなきゃいけないことがあるの」
「……お前なぁ。流石にそれはねえだろ」
どんだけ図々しいんだよ。
「っていうか、しなきゃいけないことって何だよ」
「ダーリンと愛を育むことよ」
…………。
…………。
……は?
「ごめんちょっと良く聞き取れなかった。もう一回言ってくれ」
「だから、アタシの恋人と愛を深めるって言ってんの」
……ああ、遂にこいつ現実と妄想の境がわからなくなったんだな。
「なに哀れみの目で見てるのよ」
「いや、なんだ、その、自分を強く持てよ。妄想を現実だと思い込んだらお終いだぞ」
「妄想じゃないわよ。実在するに決まってるじゃない」
俺の言葉に怒り心頭な姉さん。いや、それはちょっと無理があるって。
「嘘なんてつかなくていいんだ。そんなことを言っても、誰も幸せにはならねえぞ」
「何ちょっと優しげな表情になってんのよっ! だから本当にいるって言ってるじゃない」
「はぁ……いるわけないだろ、そんな物好き。自分のことどんな女だと思ってんだよ。暴力魔だぞ、暴力魔」
もうちょっと自覚をした方がいいと思う。弟に本気の殺意を向けるって、相当なヤバいやつだからな?
《姉に神級魔法を放つフェイト様もどうかと思いますが》
俺は正当防衛だから。うん、俺は悪くない。疑うんならアリスに聞いてみてくれ。
《アリスは貴方に肯定的な意見しか出さないでしょう》
いや、ほら、それが俺の人徳じゃん? だからやっぱり俺は良いんだって。
「っていうか、な。よしんばお前に彼氏がいたとしても、そいつって超ド級のマゾヒストだろ? そんな変態をうちの家系に入れるんじゃねえよ」
「ロリコンに言われたくないんだけど」
「よし、わかった。戦争だ」
お前は今、言ってはならないことを言った。俺のプライドにかけて存在をこの世から完全に消してやる。
《やめなさい》
はい。
でもなぁ、真面目に考えたとしても、暴力魔なんかと交際するって、金目当てか家柄目当てしかなくね?
いや、とはいっても、そいつが有能であれば特に問題はないか。むしろコレを引き取ってくれるなら、感謝してもいいくらいだ。
「一応聞いとくけど、基準は満たしてるんだろうな?」
「当然よ。かなり優れたテイマーね」
ドヤ顔をしながら言ってきた。うっわぁ。うっぜぇ。ぶん殴りたい。
「よし、じゃあそいつがお前の妄想上の存在でないことを祈るばかりだ。結婚でも何でも好きにしろ。監視は俺がやっといてやるよ」
「あら、いやに物分かりがいいわね。どうしたのよ」
不審な、というか『何企んでんの』みたいな視線を浴びせてくる姉さん。心外なんだけど。
「別に俺一人でやるのと二人でやるのじゃあ、大して労力も変わらねえからな。っていうか、姉さんに任せると大失敗しそうで怖い」
「アタシのこと何だと思ってんのよ」
「え? 脳筋の暴力魔」
「………………」
「………………」
何だこの沈黙。やんのか? やるんだったら相手になるぞ?
そんなことを考えていると、姉さんはフッと笑って口を開いた。
「ありがとね、フェイト」
「……礼を言われるようなことは何もしてないぞ」
「アタシが言いたかったのよ。文句ある?」
相も変わらず傍若無人な態度の姉さん。……ないよ、文句なんて。
ったく、恥ずかしいだろうが。
「もう少ししたら来るはずだから、アタシのダーリン紹介しようか?」
「いや、遠慮しておくよ。もしそいつが実在しなかったら気まずくて死にそうだし」
「どういう意味よ」
穏やかな笑顔を引きつらせて、姉さんを俺を睨む。
「そのままの意味だよ。……じゃあな」
「……ええ、また」
姉さんや、未だにこの場にいたメイドに手を振りながら、俺は別宅から出ていった。




