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閑話 一歳:運命は物語に向けて始動する

 どうも皆さんこんにちは。フェイト・ウィアートルです。


 どうやら俺、転生してたらしいです。所謂生まれ変わり。


 しかも、最近はやりの異世界転生っぽいです。いやー、通り魔に刺されて異世界転生なんて、テンプレだよなー。


 まあ、異世界って確定してはないんだけど、中世の欧州っぽくて、何か呪文唱えたら急に光が現れる、なんてことがあったからほぼ間違いないと思う。俺は、『痛いの痛いの飛んでいけー』って言われて本当に傷が治るところを異世界しか知らない。


 そうそう。魔法だ。魔法があるっぽいんだよ。


 つまりだ。剣と魔法の世界ってことだろっ!? 浪漫じゃねえか!! きゃっほう!! 冒険だぁー!!


 まあ、一歳だから冒険(そんなこと)出来る訳ないんだけど。


 そう、俺、一歳。一語文を華麗に操り、至高の食料たる母乳を卒業して、少しだけど明日に進むための歩行を始める、一歳だ。


 うん。色々情報が不確定なのって、そのせいなんだよな。怪しまれたらマズいから会話は出来ないし、親だって子供のいる場所で世界の情報について語り合ったりしない。


 っていうか、もしも俺の隣で魔法の解説とか、世界の歴史とかを会話している奴がいたら、ほぼほぼ百%俺が転生者だということに気づいてる気がする。


 まあ、でも、知識とかその辺は追々考えていけば問題ないだろう。どうせ勝手に生きていく上で知っていくだろうし。


 それより今はチートだチート。


 何かよくあるじゃん。幼いころに魔力を消費すると魔力がガンガン増えるとか。ああいうのをやりたいんだよ。


 そういや、赤ん坊のころからトレーニングしてたから肉体が怪物になったっていう作品と、そのぐらいの年齢だと成長を阻害するとかで、筋トレとかはしない作品があるよな。あれ、どっちが正しいんだろ?


 魔法の知識とかないから、そういった肉体的な訓練をしようと思ってるんだけど……何やったらいいの?


 だってさ、どこまでが体操で、どこまでが訓練(トレーニング)とか分かんねえじゃん?


 うーん、何だろ。ラジオ体操とかやればいいのかな? いや、でもこの手足だと少し難しいか。


 簡単で、その場で出来る運動……。


 そうか、ジャンプか。


 うん、とりあえずジャンプしておこう。ジャンプしてたらきっと何とかなる気がしないでもない。



――ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん



「………………………」


 想像してみてほしい。超豪華なベッドの上で、無表情で飛び跳ねる一歳。


 シュールだ。シュールというか、軽くホラーだ。どうしてこうなった?


 つーか、こんなの絶対トレーニングにならないだろ。


 まあでも、ベッドの質が良いからか、トランポリン的で楽しい。空しくはなるけど。


 というか、マジで豪華すぎるんだよね、このベッド。どう考えても庶民のものじゃない。明らかに貴族的なそれ。


 うん、どう見ても貴族なんだよね、俺。親の服も何かやたらキラキラしてたりするし、俺の世話してるメイドさんとか執事とかやたらと多いし。多分上級貴族。


 ……うーん、上級貴族かぁ。微妙だなあ。


 いや、裕福っていうのは別に良いんだよ? たださ、社交界とか滅茶苦茶面倒そうじゃね? 揚げ足の取り合いとか、絶対疲れるって。


 まあ、兄や姉がいるし、そっちに任せてればいいかな? うん、ポジティブにいこう。ポジティブに。


 あ、ちなみに、自立を早くさせるため、とかいうよく分からない教育方針によって、使用人の方々は部屋にいない。それはマズいだろと思ったが、奇行(ジャンプ)を見られずにやれるから、こちらとしては都合が良い。


 別に愛されてないって訳じゃないぜ?


 乳母からじゃなく、直接母から乳をもらえてるくらいだしな。安全面はどうなのと言いたくなるが、巨乳なので良し。


 ああ、勿論乳母を雇えないって訳じゃない。使用人の数とか、部屋の調度品の数的にどう考えても金は有り余ってる。



――ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん



 ……いつまでジャンプ続ければいいんだ、これ? 止め時を見失った感が半端ない。


 …………………………。


 …………………………。


 ……実はさ、ジャンプを始めた時からずっと疑問に思ってることがあるんだよね。


 というより、ありえない現実から目を背けてるんだけどさ。


 俺、つま先をつけたままくらいの感覚で跳んでるのに、なぜか頭が天井すれすれまで来てるんだけど。天井まで5メートル以上あるのに。確か、プロのトランポリン選手が通常7メートルくらい跳ぶんだよな?


 超手加減してベッドの上を跳んでいる一歳が、プロと同じくらいの高さまで来ていることに違和感がある人、挙手!!


 まあ、この部屋俺しかいないんだけど。


 これは明らかにおかしいと思う。どう考えても人間じゃない。そうか、もう肉体強化チートは持っていたのか。


 え? じゃあ、別にジャンプする意味なくね?



――ぴょんぴょんぴょんぴょんぴょんぴょん



 うん、やめよう。


 そう思って、着地地点をはっきりさせるため下(ベッド)を見ると――










 ――真下は床だった。


 少し後ろにベッドが見えるから、多分最後に跳んだ時ずれちゃったんだと思う。いやー、ちょっとミスっちゃったな~、あはは。


 ところでさ、6、7メートルの高さから、硬い床に向かって一歳児が落ちたらどうなるんだろう。『ゴンッ』かな? それとも『ピチュン』だったりするのかな?


 やめてくれよ。俺グロ耐性ないんだよ。


 そんな現実逃避をしても、いくら目を背けても、残酷なそれは時と共にやってくる。


 ああ、今回の人生は短かったな。親父はアホだけど、母さんは優しそうだったし、もっと話したかったな。短い間だったけど、いろいろ世話になったし、親孝行とかもしたかったな。


 俺はそっと目を閉じる。











――トンッ



 軽やかな音を立てて、俺は綺麗に着地していた。


 ……その発想は無かったわ。よく考えてみればチートらしきものがあったな。何で俺絶望してたんだろ。


 しかしどうしよう。ベッドに戻りたいけど、手は全然届かないしな。ジャンプしかないのか?


 よし、ジャンプするか。


 角度は絶対に間違えないように……。少しでもミスったら壁に激突することになるからな。力もほとんど入れずに……。


「すぅ~はぁ~」


 深呼吸をして、いざ――


「フェイ……君……!?」


 ――出鼻をくじかれた。


 俺(フェイト)を呼ぶ声が聞こえた方向を見てみると、母さんがドアを開けて、驚愕に満ちた顔で呆けていた。


 いつも優しく慈愛に満ちた顔で愛おしそうに撫でてくれる母さん。親父にはエミリーと呼ばれてたけど、多分愛称だから本名は別だ。


 絹のように滑らかな白髪に、優しげな眼差しの紅い瞳を持つ、可愛い系の美人。


 一見アルビノのように見えるが、他の人の髪の毛や目の色もかなりカラフルだったし、多分そこまで珍しいものではないと思う。ちなみに巨乳。


 外見は大学生くらいで、かなり若い。


 俺のことをフェイ君と呼び、可愛がってくれていた。


「……………」


「……………」


 無言で見つめ合う親子。


「……………」


「……………」


 ヤバい、気まずい。何故だ。何故こんなことに。現状を整理しよう。


部屋に入る→

息子がベッドにいない+

支え無しで立ってる+

部屋には他に誰もいない=

自分の身長よりも高いベッドから一人で降りて、転ぶことも無く、自分の両の足でしっかりと立っている


 ん? 驚く要素がそんなに見つからないぞ? 一人で立ってること自体は一歳ならおかしくもないと思うんだが……。ベッドから降りてるのだってそこまで……。


――いや待て。母さんは何時(いつ)から見ていた?


 ずっと無表情で、6メートルの高さまでベッドの上を軽やかに跳び、そのまま床に綺麗に着地した生後12か月の息子。


 アウトだ。完全にアウトだ。


「――フェイ君ッ!!」


「!?」


 母さんは、急に真剣な表情になり、俺の名前を呼ぶ。


 え、ちょっ……、どうしろと?


 これは怪物ルート直行ですか? 呪い子とか、悪霊(ナニカ)に憑かれてるとかそういう?


 などとネガティブなことを考えていると、母さんは急に笑顔になり、俺を抱き上げた。


「フェイ君、凄~い! どうやったの? う~ん、可愛いっ!!」


 そのまま抱き寄せられる。急展開についていけず呆けていると、母さんは蕩けたような笑みを浮かべて、頬ずりをしてきた。


 美人だし、超嬉しいんだけど、どういうこと?何が起きたの?


「フェイ君は体が強いのかな~? 一歳でこれなら、将来はパパより強くなるかもね~」


 母さんは頬ずりをしながら、喋りかけてきた。


 軽いな。精々、天才とかそのくらいにしか思ってなさそうだ。これは一体……?


「おーい、入るぞー」


 そう言ってノックをしてからドアを開けて入ってきたのは、俺の親父。


 二十代後半くらいで、赤髪赤目長身のイケメン。身内に滅茶苦茶甘い。名前は……確かエリオットだったかな?


「あ、パパ〜。フェイ君が凄いんだよ~」


「凄いって何がだい? 君に似て、天使のように可愛いというのは知っているが?」


「もう、パパったら~」


 親父は、俺に向かって、と見せかけて、母さんのことを褒める。母さんもまんざらでもない様子だ。


 おい、親父(コイツ)ぶん殴っていいか?良いよな?


 そんな風に俺が殺意を滾らせていると、親父が再び母さんに問う。


「それで、結局どうしたんだ?」


「えっとね、フェイ君がもの凄く高くジャンプしてたんだよ~。6メートルくらい〜」


 おお、そうだ。親父、母さんに常識というものを教えてやってくれ。一歳児が6メートルはおかしいと。


「おー、それは将来有望だな。さすが俺とエミリーの子だ」


 うぉい! 何故ツッコまない。


 スルーした挙句、さらに母さんといちゃつきやがって。


 ……いや、そうか。


 信じてないんだな? まあ、普通に考えてあり得ないもんな。


 ならば見せてやろう。我が飛翔を!!


「みて~」


 二人に呼びかける。


 一歳の基本は一語文だからな。言葉の意味を伝えづらい。まあ、幸いにして分かってくれたようだけど。


 二人が微笑みながら、こちらを見ていることを確認した。


 よし、じゃあ超手加減ジャンプ。


 うおおおおおおおお!!



――ぴょん









 ん? あれ? なんか……。









 あ、ヤバい。地面強く蹴りすぎた。これ止まんねえわ。


 ……。

 …………。

 ………………。

 ……………………。

 …………………………。


 あ、ちょっ、待っ――









――ガンッ



 何の音かって? それはね。


 一歳児が天井に突き刺さった音だよ。







 ……まあ、無傷なんだけどさ。


 お、周りの天井が崩れて、嵌っていたところから抜け出せた。


 床にシュタッと着地。


 何か空気が怖いから、とりあえずドヤ顔で二人の方を見てみる。


「おお、あれだけの勢いで突っ込んで無傷。本当に凄いな。フェイトは身体能力特化か」


 だから、何で大して疑問に思わないんだよ。頭大丈夫か? 親父。


「ちょっと、パパ! そんなこと言ってる場合じゃないでしょっ!!」


 おお! そうだ、もっと言ってやれ、母さん。


「大丈夫、フェイ君? 怪我してない? 痛くない?」


 そっちじゃねえよ!! いや、まあ、それはそれで普通な反応の気もするが、今重要なのはそこじゃないだろ!!


「痛いの痛いの飛んでいけ~。【ハイエンド・ヒール】」


 俺の体を、白い光が包み込んだ。優しくて暖かい、まるで母親に抱きしめられているような心地よさだ。


 おそらく今のが回復魔法!


 いつか覚えたい。








 この時使われた魔法(ハイエンド・ヒール)が部位再生まで可能な英雄級の回復魔法だったということは、一歳の俺には知る由もなかった。

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