第十九話 マッチポンプ
というわけで、依頼を確認してすぐに【空間神】を行使し、エレメンタルジラフの近くに来た。
現在地は森の端っこ。結構町に近いところだ。まあ、森って言っても戦闘の余波で木々は壊滅状態。
それで、目の前で緊急依頼を受けて駆けつけたであろう冒険者たちが、無残に蹂躙されてるわけなんだけど……。
「これ、キリンじゃなくね?」
ジラフという名前がついているというのに、別に首は長くない。強いて言うなら鹿っぽい?
《ええ、そうですね。これはどうやらキリンではなく麒麟のようです》
麒麟? 麒麟って、えーと、あー。アレか。伝説上の生物か。確かモンハンにいた。
《理解のしかたから偏差値の低さが伝わってきますね》
うっせえ。
で、そのエレメンタルジラフは炎を纏って周囲の冒険者を蹴散らしている。
っていうか、意外と冒険者頑張ってるな。あのカオスドラゴンと同格なら帝級くらいのはずだし、Sランクでもかなり厳しい相手だと思うんだけど。
まあ、頑張ってるって言っても前衛が肉壁になって、後衛がひたすら回復魔法使いまくるっていう完全に時間稼ぎだけどな。
それができてるだけでも相当立派だ。
《上から目線ですね》
実際に上だからな。
あー、でもこれこのままいったら絶対キツイよな。
どうやらエレメンタルジラフは無属性を除いた七つの属性魔法の力を身に纏って行使できるみたいで、疲れたらちょくちょく光魔法で回復している。
MP量的に、先に回復魔法が使えなくなって力尽きるのは冒険者の方だろう。
——モォォォォォォォォォッ!!
牛みたいな雄叫びをあげたと思ったら、麒麟は雷を纏って突進し、哀れな前衛冒険者を俺の方向に弾き飛ばした。
俺の真横で白目を剥いて横たわる冒険者。って、アレ?
「お前、スキンヘッダーズじゃん」
そう、勇猛果敢に麒麟の攻撃を受けた冒険者はスキンヘッダーズのリーダーであった。……そういや今気づいたけど、俺こいつの名前知らねえ。興味ないけど。
一応可哀想だったから下級の回復魔法【ヒール】をかけてあげた。
あくまで下級。効果はちょっと。
「す、すまねえ……」
息も絶え絶えになりながら、リーダーはお礼を言ってきた。
そうだ、これを機会に聞いておこう。
「お前ら、何でこんな無謀な作戦とってんの?」
普通に考えたら、ここは少しでも倒す可能性を求めて攻撃をガンガン放った方がいいんじゃないかと思うんだけど。
「……あんたに言われてから考えたんだよ。俺たちぁ、リックさんみたいな英雄に憧れてたっていうのに、やってることは小悪党。あのとき何もしなかった、できなかった腹いせに自分より弱そうなやつを脅してるだけだからな」
いや、お前本当に腹いせだけが理由か? 俺はお前らが野獣的な要求してきたの忘れてねえぞ。
「簡単にカオスドラゴンを倒して来たあんたの姿を見て思ったんだ。このままじゃダメだって。俺たちもしっかりしなきゃダメなんだってな」
ああ、そう。そんな意図全然なかったけど、真面目にやる気になってくれたんならよかったよ。
っていうか、よく考えてみれば採取依頼だけでランク上げまくったのっておかしいよな。普通に受けやすい依頼だし、通常であればそんなに残ってるはずがない。
つまり、普段の冒険者としての仕事も結構サボり気味だったんだな。
「だから、少しでも町の役に立てるようにみんなと相談した。その矢先に今回の事件だ。俺たちは弱い。俺たちだけじゃ大したことはできねえ。だから、せめて時間を稼いでアレを倒せる可能性を持ったやつが来るまで耐えきろうと、そう誓ったんだ」
なるほど、自力で倒すのは最初から無理だと判断して、神々之裁判に託そうと、そういうわけか。
たしかに、シュミラに潰された高位の冒険者がいるならともかく、こいつらだけじゃどうしようもねえな。
っつうか、純粋にすごい。絶対的な力の差があるというのにここまで保ったということからも、彼らの意志の強さが伺える。
……ここまで期待されちゃあ、やらないわけにはいかないよな。
「わかった。安心しろ。俺が倒してやるよ」
「あ、ありがとう……」
冒険者が吹き飛ばされ、エレメンタルジラフの周囲に何もなくなった瞬間を見計らう。
そういえば、俺って仲間以外の前で力を示したことはなかったな。精々あのホムンクルスの攻撃を防いだ程度。
だったら、思いっきり見せてやろう。お前らが希望のバトンをつないだ人間が、どんな力を持っているか。
冒険者たちにトドメを刺そうと力を溜めているエレメンタルジラフに向かって駆け出し、剣を振りかぶる。
大陸切断にはならないように、【限界制限】はかけたまま最小威力で……。
「畏怖せよ。懺悔せよ。刮目せよ。我に刃向かった己の愚かさを知れ。【神罰】!!」
一撃。
いくら威力を弱めたとはいえ、ただのモンスターに抵抗できるわけがない。
「また、つまらぬものを斬ってしまった」
天剣パニッシュメントを鞘に納めながら、キメ顔を作って呟く。
《モンキー・パ◯チさん、コイツです》
ごめんなさい。
エレメンタルジラフはサクッと真っ二つになり、そのまま消えてしまった。
……ん?
「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「すっげぇぇぇぇぇぇ!!」
周囲からあがる歓声。
「やっべ、やっべぇ、マジやっべぇ!」
どうやら俺が凄すぎて語彙力が凄いことになってしまったようだな。
スキンヘッダーズも俺を取り囲み、胴上げをして称賛してくれる。
「さすがだァ! 惚れ直したぜ!」
「やめろぉぉぉぉぉ! 降ろせぇぇぇぇぇ! お前らがその言葉言うと洒落になんねえんだよぉぉぉぉっ!!」
性的な意味で惚れてそうだからやめろ! いや、本当やめて!
「「「…………ウホッ」」」
アッーーーーーーーーー!!
◆◆◆◆
しばらくすると、一応ギルドへの報告をしにいかなくてはならないため騒ぎは収まった。
あ、ちなみにスキンヘッダーズは【夢幻神】で五感全部使えなくして、真っ暗闇の絶望を味わってもらってる最中。ざまぁ。
で、適当に代表の冒険者を選んでギルドに向かわせて今ここ。
とりあえずスキルを使って、壊滅状態になっていた森林を再生している。
《解析終了。神級スキル【創造神】を獲得しました》
ん? また新しいスキル?
《ええ、前に使った【物質作成】の進化版です。まあ、要するに作れるものの幅が広がったってことですよ》
ああ、そうなんだ。ちなみに何でこのタイミングでそのスキル獲得したんだ?
《エレメンタルジラフ、妙だと思いませんでしたか?》
……何が? って言いたいところだけど、流石に俺も気づいたよ。
あいつ、ドロップを落とさなかったな。
《ご名答。その通り、モンスターであるにもかかわらず、エレメンタルジラフには一切のドロップがありません》
だよな。一瞬また消し飛ばしてしまったのかと思ったけど、流石にそこまでは強くしてない。俺だって学習してるんだ。
今覚えば、カオスドラゴンを倒した時にドロップがなかったのも、魔法のせいじゃなくて元々だったのかもな。
《ええ、そうですね。他のエターナルフェニックスとグランドタートルにもドロップはないようです》
そうか、ってことはやっぱりその四体には何か関係があるんだな?
《解析していく中でわかったことなのですが、この四種のモンスターは先日のホムンクルスと同じ人造生命体です。その過程でたまたま新スキルも手に入りましたね》
フレデリックのパーティメンバーと同じ、ねぇ。
それはつまり……。
《両者ともに同じ者の手によって造られた可能性が非常に高いです》
そうか。
フレデリックがやったってことか。
……自分で造りだしておいて、討伐依頼を出すとか、マッチポンプもいいとこだな。
《それを言ったら、カオスドラゴンを倒すことによってモンスターの侵攻の引き金を引いた上で、モンスターを倒して他者からの称賛を浴びたフェイト様も壮大なマッチポンプをしていますが》
やめてぇ! 俺もちょっとそれ思ったけど、それは言わないでぇ!
い、いや、フレデリックは確実にわざとだけど、俺は別にやりたくてやったわけじゃないから!
《………………》
う、うん。まあ、フレデリックがやったのは許されないことだ。今後会ったら問い詰めておこう。
《………………》
そ、そうだ! アリスとレイはどんな感じなんだ?
あの二人のことだし、負けることはあり得ないだろうけど。
《アリスは新アビリティ【虚実氷獄】を行使し、完全な封印を施して勝利しました》
アビリティ!? マジか……。もうなんかインフレ半端ないな。
レイの方はどうなんだ?
《【虹龍化】を使用して、怪獣大決戦を繰り広げています》
レインボードラゴン対グランドタートル!?
え、待って。何でわざわざそんなスキル使ってんの?
《レイは空間移動系のスキルを持っていないため、最高速度の移動手段が【虹龍化】での移動なのです。それで、現地に着いてからそのままの姿で戦っているようですね》
あ、そういえばレイって【瞬間移動】持ってなかったね。
ごめん……。
《あ、レイの【因果応砲】が決まって、グランドタートルも倒れました》
お、じゃあ、緊急依頼達成か。
《【森羅万象】と接続……。アリスとレイの戦闘データの収集……。『カオスドラゴン』『エターナルフェニックス』『エレメンタルジラフ』『グランドタートル』の解析が完全に終了しました》
え、あ、おう。
って、待てよ? この流れって……。
《【生命神】を獲得しました》
やっぱりぃぃぃぃ!
何? 解析したら最低一個の神級スキル作らなきゃいけない決まりでもあんの!?
……で。【生命神】っていうのは?
《蘇生、即死、生命創造などの効果を持っています。おそらく、【創造神】と【生命神】を組み合わせればホムンクルスの作成も可能でしょう》
なんか禁断の力感半端ないんだけど。大体生命に関わる能力って禁忌だよね!
にしても、そうか。フレデリックもこの二つのスキルを持ってるってことか。
《いいえ、このスキルだけではあそこまで精巧な生物を作ることはできません。更に他のスキルも使ったのか、或いは全く別の……》
なるほど。
つまり、フレデリックに会って【代行神】を使ったら新しいスキルが手に入る可能性大ってことだな?
《それはそうですが……》
いや、なんか意味わかんないこと言ってるって自覚はあるけど、どうせここまで来たんなら神級スキルコンプリートしたいじゃん?
《はいはい、そうですか。それでは私もそれを目指していきますよ》
おお、ありがとな。
んじゃ、討伐も終わったことだし、アリスとレイを回収して部屋に戻るか。
もうそろそろ夕食の時間だしなー。




