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第十一部 通販食堂宇宙へ

皇帝カイゼルが去ってから、三日。


村は――驚くほど平和だった。


「……本当に三日前まで銀河帝国と戦ってたんだよな?」


ユウトは畑の前で呟いた。


「そうですよ」


セリスが鍬を持ちながら答える。


「昨日は普通にジャガイモを植えていましたし」


「切り替え早いな……」


村ではいつもの生活が戻っていた。


農家は畑を耕し、子どもたちは学校へ向かい、通販食堂では朝から焼きたてのパンが並んでいる。


魔族の商人も、ドワーフの職人も、人間の冒険者もいる。


そして最近では――


「おはようございます!」


「今日も宇宙船は来ますか?」


「宇宙船の人たちにもパン売っていい?」


村人たちはすっかり宇宙を身近なものとして考え始めていた。


ユウトは苦笑する。


「宇宙船が来ることに慣れるの早すぎない?」


---


その時だった。


通販画面が突然、光った。


《星間物流便が到着しました》


「え?」


ユウトが画面を見る。


《配送先:ユウト村》


《荷物:一件》


《配送元:銀河交易船団》


《到着予定:今から十秒後》


「今から!?」


空を見上げる。


すると――


キィィィィン!!


小型宇宙船が空から降りてきた。


村の中央広場にゆっくり着陸する。


「うわああああ!」


「宇宙船だ!」


「荷物来たぞ!」


子どもたちが大喜びで駆け寄っていく。


船の扉が開いた。


中から出てきたのは、銀色の制服を着た小柄な少女だった。


「こんにちは!」


「銀河交易船団・配送部所属、ミナです!」


ユウトが目を丸くする。


「配送部……?」


「はい!」


ミナは笑顔で巨大な箱を指差した。


「ユウト様宛のお荷物です!」


「いや……何を注文したっけ?」


ユウトは箱を見る。


かなり大きい。


しかも箱には、


**『取扱注意・銀河級』**


と書かれている。


「怖いんだけど……。」


---


箱を開ける。


中から出てきたのは――


一台の小さな機械だった。


丸いボディ。


三本の足。


頭にはカメラのようなものが付いている。


「これは?」


ミナが説明する。


「惑星環境調査ロボットです!」


「土地の温度、水質、土壌、植物の状態などを調べられます!」


ユウトは目を輝かせる。


「これ、農業に使えるじゃん!」


早速畑へ持っていく。


ロボットが土の上を走り始める。


ピコーン。


《土壌データ解析中》


《水分量:適正》


《栄養状態:良好》


《作物成長予測:非常に良好》


農家のおじさんが驚く。


「すげぇ……!」


別の農家も近寄る。


「これなら畑の管理が楽になるぞ!」


さらにロボットは村中を走り回り始めた。


川。


森。


牧場。


そして――


魔王軍の駐屯地。


「おい!」


魔族兵士が慌てる。


「なんだこの丸い奴は!」


ロボットは魔族兵士をスキャンする。


《対象:魔族》


《健康状態:良好》


《ただし睡眠不足》


魔族兵士が固まる。


「……なぜ分かった?」


---


その夜。


村の食堂には、銀河交易船団の乗組員たちが集まっていた。


「これが噂の通販食堂か!」


「料理が地球式だ!」


「地球……?」


ユウトが首を傾げる。


「いや、ここ異世界だけど。」


銀河人たちは気にせず料理を食べる。


「うまい!」


「これは何という料理だ?」


「カレーです」


「カレー……!」


あっという間に大人気になる。


そして一人の宇宙船員が、デザートを食べた瞬間――


「……これは。」


短時間、完全に動かなくなる。


「どうしました?」


「この甘味……。」


彼は震える手で皿を持ち上げる。


「我が星では百年に一度しか食べられないレベルだ……!」


ユウトは苦笑する。


「そんな大げさな。」


すると船員たちが一斉に叫んだ。


「このケーキを銀河中に売ってくれ!」


「待って!」


ユウトが止める。


「通販食堂は大量生産する予定ないから!」


---


そこへセリスがやってくる。


「ユウトさん。」


「ん?」


「大変です。」


「何が?」


セリスが外を指差す。


夜空に、無数の光が見えていた。


星ではない。


宇宙船だ。


数百隻。


銀色の船団が村の上空に整然と並んでいる。


アルトから通信が入る。


『ユウトさん。』


『申し訳ありません。』


『どうやら、あなたのカレーとケーキが……』


一瞬、通信が途切れる。


『銀河交易網で話題になってしまったようです。』


ユウトは空を見上げる。


「……まさか。」


アルトの声が続く。


『現在、銀河各地から注文が殺到しています。』


ユウトは頭を抱えた。


「スローライフ……。」


セリスが微笑む。


「頑張ってください、村長。」


「いやいやいや!」


空には次々と新しい宇宙船が到着していく。


人間。


魔族。


ドワーフ。


エルフ。


そして――


銀河中の異星人。


彼らが求めていたのは、武器でも魔法でもなかった。


**ユウトの通販食堂の料理だった。**


そして翌朝。


村の入り口には、こんな看板が立てられることになる。


**『銀河からのお客様へ――予約制です。』**


ユウトのスローライフは、またしても遠ざかっていった。


翌朝。


ユウト村の入り口には、見たこともないほど長い行列ができていた。


「……なんだこれ。」


ユウトは呆然と立ち尽くした。


目の前には、人間、エルフ、ドワーフ、魔族。


そして――見たこともない姿の宇宙人たち。


四本腕の商人。


小さな羽を持つ種族。


半透明の体をした生物。


ロボットのような種族までいる。


全員が、ある看板を見つめていた。


**『通販食堂・本日営業』**


セリスが隣で頭を抱える。


「昨日の夜だけで、予約が三千件だそうです。」


「三千……?」


「はい。」


「この村の人口より多くない?」


「多いですね。」


「どうするの!?」


セリスは少し考えた。


「……増築しましょう。」


「それしかないか……。」


---


## ◆通販食堂・銀河支店計画


ユウトは急遽、村の会議を開いた。


集まったのは、セリス、リリィ、レイシア、アルト、ドワーフの親方、魔王軍の代表など。


ユウトは黒板に大きく書く。


**『銀河食堂計画』**


「まず、村の外に新しい食堂を作る。」


ドワーフの親方が腕を組む。


「建物なら任せろ。」


「宇宙船が着陸できる場所も必要ですね。」


レイシアが地図を広げる。


「ここに巨大な宇宙港を作りましょう。」


魔王軍代表も手を挙げる。


「警備なら我々が担当する。」


「ただし……」


魔族兵士が小声で付け加える。


「食堂のカレーは我々にも優先的にお願いします。」


「そこは自分で並んでください。」


「そんな……!」


会議室が笑いに包まれる。


---


その頃、村の外では――


「宇宙港建設開始!」


ドワーフたちが大工仕事を始めていた。


銀河交易船団から提供された建築機械も大活躍。


巨大な部品を空中で組み立て、わずか数時間で宇宙港の骨組みが完成していく。


村人たちは驚いた。


「これ、村に作っていい規模なのか?」


「まあ……便利ならいいんじゃない?」


ユウトも苦笑する。


「村がどんどん都市になっていく……。」


---


## ◆初めての銀河料理教室


その日の午後。


ユウトは銀河交易船団の料理人たちに料理を教えることになった。


「まず玉ねぎを切ります。」


「了解!」


四本腕の宇宙人が包丁を四本持つ。


トントントントン!!


「速っ!」


ユウトが驚く。


しかし――


「目が痛い!」


「玉ねぎは宇宙でも同じなのか……。」


別の料理人は鍋を持つ。


「次はカレーですね!」


「そう。焦がさないように――」


ボンッ!


「焦げた!」


「早すぎる!」


厨房は大混乱だった。


しかし一時間後。


ついに完成。


銀河人たちは一口食べる。


「…………。」


全員沈黙。


そして――


「うまい!」


厨房が歓声に包まれた。


---


## ◆そして、問題発生


その日の夕方。


ユウトが食堂の外に出ると、空に巨大な宇宙船が浮かんでいた。


しかも一隻ではない。


十隻。


百隻。


さらに増えていく。


アルトから通信が入る。


『ユウトさん。』


「嫌な予感しかしないんだけど。」


『その……。』


アルトが言いにくそうに続ける。


『皇帝陛下が、こちらへ向かっています。』


「……カイゼル皇帝が?」


『はい。』


ユウトは固まった。


セリスも表情を引き締める。


「敵ですか?」


『いえ。』


『皇帝陛下は……』


少し間があった。


『通販食堂の予約を取ったそうです。』


「…………。」


ユウトは空を見上げた。


やがて巨大な黒い旗艦が姿を現す。


その旗艦から降りてきた皇帝カイゼルは、いつもの威厳ある姿――


ではなかった。


手には食堂の予約券。


そして真剣な顔。


「ユウト。」


「今日は客として来た。」


ユウトは思わず笑ってしまった。


「皇帝なのに予約するんだ……。」


カイゼルは当然のように答える。


「当然だ。」


「順番を守ることも文明の一部だろう?」


セリスが小さく頷く。


「……少し見直しました。」


こうして――


かつて世界を支配しようとした銀河帝国皇帝が、


ユウト村の食堂で静かに順番を待つという、


なんとも不思議な光景が誕生した。


そしてカイゼルが注文した料理は――


**「カレー大盛り、デザートにショートケーキ」**


だった。


ユウトは厨房からその注文を聞いて、


「……結局そこなんだな。」


と呟いた。


しかし誰も知らなかった。


この食堂での一食が、


やがて**銀河帝国と異世界の関係を大きく変えることになる**とは――。


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