お姉様with郷田
秋の管理局の仕事は修理、修理、修理、修理と修理しかない。
管理局に入ってすぐの頃、対あやかし用の必殺アイテムづくりの実験をしていたけど、めっきりない。理由は簡単、暇がないから。あやかし烏退治もそうだし、盆休暇の間止まっていた仕事が動き出すし、秋は武術大会に向け装具を全部直しておかなければいけない。冬は修理品0で年越しを目指し、正月が開けたら地獄、春までの間に新武器開発をして、新人と一緒に実験するけど、新人なんていませんねー……というのが本来の流れとのことだった。
そういう中、私は書類の最終確認をすべく、退妖対実地戦闘局に向かっていた。書類確認は相模局長しかないこと、ファックスみたいなタイプライタ―を使っても、退妖対実地戦闘局に送信される書類が多すぎて確認してもらえないから、というのが理由だ。
こういう時、水社一心がいいのに。風呂場ばっかり狙ってきやがって。
そんなことを考えながら歩いていれば、中庭で水社一心の姿を見つけた。こちらは屯所の中。ようするに窓からその姿を発見した。こういう時、水社一心が追いかけてきたら私は「付き纏いかよ」と罵るが、逆はする。なぜなら水社一心の異常行動は強めに指摘しておかないと、「勧善懲悪ポイント」が溜まり、水社一心に制裁が下りそうだから。
一応願掛けみたいなものだ。
水社一心が「こんな奴死んで当然だ」と思われないように、ざまぁを望まれないように、風呂場付き纏いみたいな変な行動したら注意しておき、多めに罵る。あと普通に、女子局員からすれば良い気しないだろうし。いい気しないだろうから、私は女子局員のいない時間を狙い、あいつは私が一人で入っているから危ないと言って、入浴中は壁越しに話しかけてくる最悪の循環が発生しているけど。
私は早速水社一心の後を追った。
すると──、
「すみません、門の方が教えてくださったのですが、私……どうも、新しい道となると、得意では無くて……」
お姉様がいた。
小さな風呂敷包みを持って、屯所の敷地内を歩いている。丁度郷田に絡まれたところだ。
そして──、
「いえ、初めての人間なら誰だって迷いますよ」
お姉様の隣を、郷田が歩いていた。頭が真っ白になり立ち尽くしていると、水社一心がこちらに振り返る。現在の状況は、私、その前に水社一心、水社一心のはるか前方にお姉様with郷田。
しかも紳士ぶった郷田。
なにこれ。
郷田、何?
なんでお姉様と歩いてるの?
吐きそう。
殺しそう。
郷田を。
「落ち着け」
水社一心が私の肩を叩いた。落ち着けるかよ。こんな状況で私が落ちつけていたらもうそれは私に化けたあやかしだろうが。お前の水レーザーで撃ち殺せよちゃんと。っていうか何でお姉様?
私の幻覚じゃないよね?
お腹痛いお腹痛い。なんで郷田なの? やだやだやだやだやだやだ、殺す。
「どっちを」
郷田に決まってんだろうが‼
刀は没収中、最悪だ。それにお姉様がお隣にいらっしゃるので、郷田をぶっ殺せない。
「殺すな」
うるせえよあいつもう死刑だよ。お前を傷つけお姉様のお隣にいるなんて死刑以外ない。っていうかなんでお姉様が?
「用があってきたんだよ」
何お前知ってたの? なんでお前がご存知で?
「俺は文通をしてるからな。お前と違って」
私は異能の温存があるから文通したくても出来ない。
輝宮寺の件は、特例だ。あれは誰かの人生に関わる。でも文通は私の楽しみの範疇になる。
「楽しみの範疇ならしろよ」
うるせーなそれよりなんでお姉様が?
お姉様は皇龍清明様と出会ってから、軍と接点を持つ。
皇龍清明様は今でこそ、軍に参加せず今でこそ思い出テラリウムに引きこもりあやかし殺戮機として行動力のある引きこもりをしているけど、お姉様との結婚で変わる。
お姉様を皇龍清明様が単独で守ると、お姉様と社会の接続を断ってしまうことに繋がる。
お姉様が敵になるような世界なら滅んだほうがいいけれど、皇龍清明様は世界を敵に回してもお姉様をお守りする気概がある一方、軍にもお姉様について伝え、お姉様の世界を広げようとするのだ。
心の中では、ずーっと自分以外見ないでほしい、どこにも行ってくれるなと薄暗く願いながら、真逆の行動をとり続ける。
すべては、お姉様の為に。
しかしお姉様は、まさか自分の為に皇龍清明様が軍に関わっていると思わず、軍with皇龍清明様の関係だと考え、軍に差し入れしたりするのだ。
そこまで考えてハッとした。
これお前と私の為では?
私は水社一心を見る。
お姉様は無から湧いて出てきた妹の私を大切に想ってくださっている。
そしてこの水社一心も今ではカスモラハラとは遠ざかっている。
お姉様がお前と私の為に、差し入れに来て、郷田が……?
「お荷物まで持っていただいて……本当に、すみません……」
お姉様は郷田に詫びる。郷田の手には、「え、それお姉様どうやって持ってきたんですか⁉」と驚くくらい大きな風呂敷包みがあった。
「謝らないでください。こんな大きな荷物、民間人が一人で運ぶものではありませんよ。それに、慣れないところですし、屯所内は武器の運搬もありますから」
郷田は声音こそ素っ気ないが、普段の威圧的で悪意を二百倍凝縮している態度とは全く異なっていた。なんじゃあいつ、お姉様に惚れたか?
「まさか郷田に道を聞くとは思わなかったがなぁ」
水社一心は二人を眺めている。
今、郷田、お姉様に変なこと考えてないだろうな。
「言っておくが俺は任務以外で、人の心を誰かに伝えはしない」
お前私の心読みまくりじゃねえかよ。それどころかお前の誇張表現のせいで管理局の人間に誤解されまくってんだぞ。
「お前が何にも喋らないからだろ。それに俺は、お前の気持ちを郷田に伝えたりもしてない」
別に伝えてもいいけど、殺すって。
「言うわけないだろ」
なんで。
「殺すって言われて喜ぶ人間はいないし、なにより、お前は別に郷田が気に入らないんじゃなくて、郷田が俺に絡むのが気に入らないんだろ。福野さんもそうだけど」
水社一心は言う。私が心の中で呼ぶ「福野さん」という口調と全く一緒だった。
「福野さんとは喋らないけど、お前を通しては知ってる」
そういうことをするの、嫌なんじゃなかったか?
心を読むことの悪用みたいな……。
「嫌だったけど、お前がいると、そういうことも、せざるを得ない」
なんなんだよ。じゃあ郷田の心も読んでくれよ。
「お前は今、冷静じゃないから読まない。初めてだろ、他人の心を読めなんて言ったの」
当たり前だろ。お前自分の異能に悩んでんだから。
「なら、そのまま読まない。それに、今郷田が、お前の大事なお姉様を傷つけようとしてないのは見ればわかるだろ」
水社一心は顎を動かす。
視線の先の郷田は、お姉様が転ばないよう気を配っている。
うううううううううううううううううううううううう。
今すぐ飛び出たいが、郷田が私に対して色々お姉様にチクったら困る。動けない。以前郷田たちを角材で襲撃した時、性別や年齢にこだわる郷田のことだから、女の私にやられたなんて絶対言えないだろうと思ってたが……。
今飛びだして、郷田が万が一、私の素行についてお姉様に話をしたら……。
くっそおおおおおおおお。
私は奥歯をギリギリ噛み締め、二人を見守るしかできなかった。




