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悪役義妹がお姉様の溺愛結婚を壊すまで  作者: 稲井田そう
第六章 お姉様を面白がるあやかし
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バカの技

 私は真正面を見据える。


 他人の部屋の扉を閉め屯所の寮を出ると、酒呑童子が笑みを浮かべ立っていた。


「軍人は朝から仕事なんだろ! なら、仕事する前は稽古できる‼」


 朝活じゃんこれ。


 始業前の適性出勤時間に関して、「こんだけ修理溜まって、帰りも遅い朝も早うせなあかんなったらおしまいですよ」と真原さんが富山局長に進言していたが、そういう労務理論を全部崩してくるじゃん。


 いや崩してないのか?


 朝は自分の時間ってこと?


 酒呑童子は「振り落とされるなよ」と言い私を米俵みたいに抱え、ひゅっと空を飛ぶ。


 一切、軍の警備にひっかからない。


 軍はまず結界に覆われ、あやかしが入れないようにしている。


 そしてそれが破られたら警報が鳴る仕組みだが、多分、無効化している。


 バケモン。


 というか私を軍人だと分かって、変わらず接してくるとは。


 初日は分かってなかったと思ったが、こうして屯所に飛んでくるあたり、こちらを軍人と判断したうえで関わってきているらしい。


 猫又は普通に頭おかしいと思ってたけど、別ベクトルでおかしい。


 三妖士は、本編中、三人揃う場面もあったが、三人で共闘することはなかった。


 作画工数問題もあるだろう。三妖士のキャラデザは完全にヒーローものの敵幹部レベルで凝っていたし。


 ただ、三妖士全員と接してつくづく思う。


 合わない。


 三妖士同士、性格が合うと思えない。


 猫又は人を殺す。本編で酒呑童子は猫又について「よく分かんねー奴」と言っていたけど、分かるわけないのだ。猫又はエクストリーム卑怯者。そして野狐禅からすれば、酒呑童子は圧倒的に知能指数が足りない。


 どう考えても野狐禅は考察型、酒呑童子は野生で生きている。猫又は殺し方が特殊なだけで、あやかし然としているが、野狐禅と酒呑童子は異端だ。


「さーて、やるか‼」


 酒呑童子が飛んだ先は山の上だった。朝焼けの広がる山頂で、酒呑童子は背に日の出の光を受けながら、異空間を生み出す。


 そして私に無から取り出した刀を渡すと次々分身を生み出し、高笑いしながら飛翔する。


「さぁ‼ 強くなれ‼ 相手に勝つ‼ ちゃんと想像しろ‼ かっこよく勝つ自分の姿を‼」


 高らかに声を張り上げ、負ける未来なんて一切存在しないように見える酒呑童子だが──死ときはくる。


 皇龍清明様とお姉様が迎える二度目の冬で退場する。


 理由はドブ煮込みのせい。


 あやかしの祖であるドブ煮込みは、あやかしのトップであるが、下級あやかしは別として、人型あやかしみたいな自我持ちを統率できない。


 ドブ煮込み本体がドブみたいな性格をしている。


 人型あやかしは、酒呑童子筆頭にどうかしている。


 まともに話が出来る野狐禅は、あやかしサイドからすれば生粋の自由人。


 結果的に、ドブ煮込み本人があやかしに対し「自分の命令をよく聞きますように~」みたいなトッピングを追加しているわけではないし、何より統率出来ないので三百年前、自作のあやかしプロトタイプでお姉様が死んでしまう事件を起こしたわけで。


 そうした中、酒呑童子はトップクラスで強いけど、お姉様に必要以上に気に入られたことでドブ煮込みに目をつけられるのだ。


 最初のうちは、酒呑童子経由でお姉様を手に入れられたらいいなワクワクをしていたドブ煮込みだが、酒呑童子はその気がなかった。


 酒呑童子の願いはただひとつ。


 強い奴と戦いたい。


 その願いの過程で皇龍清明様に戦いを挑み、お姉様を「おもしれー」と感じた。


 それが恋かどうかは、酒呑童子視点の話が無かったので分からないが、大切に想っていたのは事実だ。人も食わないので、お姉様との交流は続いたが──ドブ煮込みは酒呑童子を妬み、利用した。


 自分の魂の一部を使って酒呑童子の身体を乗っ取り、皇龍清明様からお姉様を奪おうとしたのだ。


 そして皇龍清明様と戦いになり、皇龍清明様は普段使わない大技で酒呑童子の身体を乗っ取るドブ煮込みの魂と酒呑童子の身体を切り離し、最終的にドブ煮込みの断片に対し、酒呑童子と皇龍清明様は協力して立ち向かうことになるが、酒呑童子の命はもう長くなかった。


 酒呑童子は、皇龍清明様に最後の戦いを挑んだ。


 酒呑童子が戦いを挑むといつも渋る皇龍清明様であったが、皇龍清明様は静かに快諾した。


 そして最後、皇龍清明様と酒呑童子は一騎打ちを行い、酒呑童子は満足そうに死んでいった。


 乗っ取られていた状態でお姉様に斬りかかってしまったことを「怖い思いさせちまったな、ごめんな」と言い残して。


 それが二年目の冬に起きることだが、まずお姉様の覚醒が発生してない。


 千年桜は恋と咲くにおいて、お姉様は主人公だし、ヒロイン補正であやかしから狙われ、皇龍清明様が駆け付け助ける場面が続くと思いきや、ヒロイン補正でもなんでもなく、ドブ煮込みのせいである。


 三百年前のお姉様はドブ煮込みと因縁がある。


 三百年前のお姉様が用意し、ドブ煮込みに大ダメージを与えた人間防衛システムは、ドブ煮込みの性格を学習済み。生まれ変わったお姉様の能力が開花するまで──ドブ煮込みにお姉様の居場所が分からないよう、セキュリティーバリアを張っている。


 ようするに自分で霊力も異能もどうこうできないような、首も座ってない赤ちゃんお姉様をドブ煮込みが誘拐しないように、防犯対策がされているわけだが、それが皇龍清明様と出会い能力が開花するにつれ、「ぼちぼち自衛してくださいね」と解除される。


 そもそも、人間防衛システムは、ドブ煮込みがお姉様の元へドンドン襲撃するのを防ぐので精一杯だからだ。


 あやかしは「ドブ煮込みの言うことを聞く」というオプションはつけられてないけど、「お姉様を気にする」という腐れオプションはしっかりついている。


 人型から闇堕ち鯉のぼりみたいなビジュアルのあやかしまで、皆お姉様を襲うのだ。酒呑童子や野狐禅は……自我が強すぎて、それを克服していたけど。


 そのため、お姉様が能力を開花させれば、ドブ煮込みがお姉様の生まれ変わりに気付く。


 しかし今のお姉様は未覚醒。


 ドブ煮込みがお姉様に気付くタイムリミットが、無限に伸びている状態だ。


 私はドブ煮込みに勝てないし、戦う気がなかった。


 ドブ煮込みは皇龍清明様が倒す。


 シナリオ的にそうなってほしいのではなく、ドブ煮込みは皇龍清明様じゃないと勝てないのだ。皇龍清明様の三百年の努力を、私は越すことができない。


 そもそも……私は、一年目に。


 そこまで考えて、私は思考を止めた。


 目の前に酒呑童子の分身が迫っている。私は刺し違える覚悟で刀を突きだすが……、


「ばああああああああああああああああああああああああああああああか」


 びしゃっと、滝のような水が頭の上から降り注いだ。


「お前はほんっとうにバカだなぁ‼ 刺されながら刺してどうすんだ‼ 避けろバカ! 根性が足りねえぞ‼」


 酒呑童子はこちらに下りてきて怒鳴ってくる。「バカタレがよお」と私に迫る分身の胸ぐらを掴み、頭突きで消滅させながら、「根性が足りねえ」とさらに怒るがそれどころではない。全身ずぶ濡れた。山頂の秋だ。


「ああ、人間は寒くても死ぬんだったか」


 酒呑童子は私の髪の毛を指で乱雑にすく。ごうっと熱風が吹き荒れ、濡れた服も肌も一瞬で乾いた。


「お前なぁ、人間はすぐ死ぬんだから、死ぬ気で戦うことを技にすんな。楽に逃げてるだけだ。死ぬ気でどうにかすりゃ大抵のことはどうにかなるが、死んじまえば終わりなんだよ。戦えなくなるんだぞ、頭と身体をちゃんと使え、バカ」


 酒呑童子は再度「バカ」と繰り返す。


「捨て身は技じゃない。お前にはちゃんと捨て身以外の技があるはずだ。それを見つけず捨て身に逃げるのは雑魚の怠慢‼ 根性で見つけるぞ‼ お前の技」


 酒呑童子は今までの倍の量の分身を出してくる。


 技って。


 皇龍清明様のドラゴニックファイナルクラッシュみたいなことか。


 無理がある。私は少年漫画のキャラじゃない。そもそも、皇龍清明様が少年漫画のキャラの必殺技を出すこと自体、レビューで是非があった。


 無理だ。


 しかし私の心象を察してか、頭上からまた水が降ってきて、熱波が襲う。


「根性だあああああああああああああああ」


 私は強くなるために酒呑童子の稽古を受けた。


 軍に背くことにはなるだろうがそれでもよかった。


 でも今、その選択は間違いだったんじゃないかと、後悔がよぎった。



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― 新着の感想 ―
「剣を呼び出せる」時点で、少年漫画の世界に片足つっこんでることに気づいてない末理さん。 少年漫画や少年向けライトノベルでは伝統的に使われている表現です。
末理氏…内心色々言うてるけど 後方支援の二等兵女子が、単身、敵幹部の結界空間で稽古つけてもらう、って客観的にみたら酒呑童子にストライクな脳筋お馬鹿さん… 同類、同類だぞ…!
労務理論しっかりしてる真原さん好こです。 ど、ドブ煮込み氏〜!!酒呑童子氏の死因もおのれか〜!!「怖い思いさせちまったな、ごめんな」…酒呑童子氏…もうめっちゃ良いやつにしか見えなくて…。末理ちゃんにも…
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