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悪役義妹がお姉様の溺愛結婚を壊すまで  作者: 稲井田そう
第二章 お姉様の為に入った帝都退妖軍
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今日が三人の命日です。


 寝れば明日が来る。当然、三人が死ぬ日がやってきた。


「じゃあ、今日は新しい退妖武具を使ってあやかしを拘束できるかの試験です」


 暫定命日デー当日。屯所のそばの山のふもとで、富山局長が地図をまるめメガホンのように話す。大規模訓練感があるが、今現在参加中の兵士は富山局長と真原さんと福野さんと私の四人だ。


「枯賀さんにはこれを使ってあやかしを捕まえてもらいます」


 そう言って富山局長が渡してきたのは手毬である。和風のボールみたいなやつだ。


 これをあやかしにぶつけると糸が解けてあやかしが捕獲できるようになるらしい。ほか三人は局長が対あやかし用の拳銃、真原さんが散弾銃、福野さんが狙撃銃を装備している。三人とも銃編成だ。私の武具はどうするか聞かれたが、ほか三人が撃てばいいだけなので持つ必要が無い。


「危ないなと思ったら僕らがすぐあやかしを倒すからあんまり緊張しすぎないように」


 富山局長がにこやかに話す。仕事の時間はこんな感じだ。上司としての賑やかしみたいなテンションで接してくる。休憩など個人対個人の状態だとすごく気まずそうになるし村八分が始まる。時給が発生する間は愛想も発生するのだろう。時給制じゃないけど。


 まぁ、仲良くする必要もないわけだが。



「山猿あやかしがいっぱいおる言うたから来たんに……これ……局長嘘教えられたんと違いますか?」


 入山してしばらく経った頃、真原さんが嘆いた。


「まぁねぇ……」


 富山局長が申し訳なさそうに肩を落とす。


 山に入り約一時間。ずーっと緩やかな傾斜の続く山道を歩いているけど、あやかしが出ないのだ。


 それもそのはず、局員全員の死因となる呪いの刀がこの地に埋まっているからだ。その呪いの刀が霊力を吸うので、あやかしからすれば「ここにいるとなんか疲れるんだよな」とダルくなる地、ダル地である。あやかしは本能のまま生きているのでわざわざダル地に居座らない。


「まぁねえやないですよ局長、こんなん遠足となんも変わらへん。あやかしもないお弁当もない……お散歩ですやん。なぁ福野、どないすんの、ねえ、福野」


 真原さんが話の矛先を福野さんに変えた。


「どうもなにも散歩で金貰えるならそれに越したことないんで」


 福野さんがどうでも良さそうに返した。


「乾いたお返事やわ~なに~? 先輩の顔立てへんと出世出来んくなるよ」

「それ自分のことじゃないですか」

「せやから僕みたいにならんといてって反面教師面しとんのやろ。先輩のお心づかい大事にせえ」


 真原さんがもっともらしく言う。


 局長、真原さん、福野さん。三人は管理局の部屋や屯所内で私をふんわり島流しにし、あっさり村八分にしているが、がっつり無視するわけでも邪魔をしてくるわけでもなく、どこまでも薄味だ。


 そんな三人は、今日死ぬ。


 私はお姉様以外、心の底からどうでもいいし関わりたくもない。無視されて悲しい、疎外感を覚えて辛いという人間らしい感情は前世で捨てた。私に何をしようともお姉様の邪魔にならないのであれば、お姉様にメリットが発生するかもしれないので殺す理由がない。


 なので今日の私のタスクは、新武具の開発試験ではなく呪具による三人の死を防ぐこと。


 今日の演習、局員全員を生存させるため全員男子トイレに閉じ込めるのもアリだったが、三人とも先輩だし現状勝てない。後ろから捕まえようとすれば反抗されて終わる。もう少し鍛えて、軍人の戦い方を覚えればなんとかなるかもしれないけど……捕縛と殺害は質が異なる。どうなってもいいわけではないので、そういう手加減のことも考えると三人が呪いの刀を見つけた後、出し抜いて呪いの刀のほうが潰すほうが楽だ。刀に対しては普通に恨みもあるし。


「全然見つからないね……もうちょっと先行ってみようか」


 富山局長が山頂を見上げる。


 たぶん、千年桜は恋と咲くでもこうしてあやかしを探しているうちに、呪いの刀を発見したのだろう。あやかしを倒してからそれを見つけたのか、あやかしを見つける前にそれで息絶えたかは分からないが。


「あんま奥行くと帰る時間遅なって娘さんとの時間減りますよ」

「いや……最近、話できてなくて」


 真原さんの問いかけに局長ががっくりと肩を落とした。


「最近全然ダメでさ……何言ってももう、届かない」

「えぇ……大変やないですか。なぁどう思う福野。経験者やろ。局長の娘どういう状態?」

「いやぁ……反抗期無理だったっていうか、俺、歯向かうとご飯抜かれるほうだったんで」


 福野さんは俯きがちに話す。


 スーパーで売られていても絶対手に取っちゃいけない魚の目だ。富山局長は気まずそうに真原さんに話をふった。


「っていうか真原くんお姉さんとか妹いるよね? どうなの」

「俺んとこなんか、ちゃんと終わってますわ。なんも助言なんか、無理ですわ、無理。姉四体、妹二匹まで行くともう、普通の娘さんとは別種。家ん中の男という男をね、音鳴る虫やとしか思うてへんから」


 富山局長の娘さん談義を聞きながら、私は前を周囲を見渡す。


 他人の家庭事情なんてどうでもいいが、富山局長の娘があやかしになることを、私は知っている。


 今の話を聞く分に、反抗期中に富山局長が死んで後悔したということだ。逆説的に考えれば富山局長の言葉は届いていた。


 コミカライズで描写された退妖武具・装具管理局が全滅するまでの回想には、富山局長が呪いの刀を不用意に触ったことで全滅が始まった。悲しむ人間がいるのだから、自分の身体も大事にすればよかったのに。


「枯賀さんのおうちはどう、厳しい?」


 突然真原さんが聞いてきた。私は小さく首を横に振った。


「へえ! じゃあ反抗期はない?」


 私は再度首を横に振る。


 家に火をつけようとした。お姉様以外、女中共々全員死んでほしかったので。


 心の中で答えて、妙な間が空いてから気づく。ここには水社一心がいない。水社家ではあいつがうるさかったけど代弁してくれていた。ふいに注目を感じ視線を向ければ、真原さんが私をじっと見てた。


「どしたん?」


 真原さんが不思議そうに問いかけてくる。「なにってなにが?」と富山局長が顔をしかめた。


「だって枯賀さん笑った。今」

「え……」


 富山局長が少し驚く。


 笑ってない。水社一心のことを思い出して笑うことはありえない。お姉様を見て顔がにやけるならまだしも。この顔は家に火をつけようとしたときの顔です。私がやりましたならぬ私がやろうとしましたの顔だ。犯罪者の顔です。


「あれ、洞窟ですかね。なんだろ」


 福野さんが前方を注視し、他のふたりの関心がそちらに移る。視線の先には岩が積みあがって出来たような洞窟があった。表面はジメつき、苔に覆われている。


「怖い。あやかし……いそうだねぇ。一応、報告入れておこうかなぁ」


 富山局長が懐から人型の紙札を取り出した。ぱぁっと札を中心に発光した円形の陣が現れ明滅の末、人型を吸い込み……小学生の拳程度のパグ犬っぽい狛犬が現れた。


 ガチャ演出みたいだ。


「ヘッヘッへっヘッヘッ」


 狛犬は富山局長の足にすりつく。真原さんは「なにこれもう、あかんわ。今日駄目、今日なーにしても駄目や。帰ります? 心中やわ、終わり」ととんでもないことを言い出した。


「いやこれは……た、助けを呼べには行けるでしょ……」


 富山局長が申し訳なさそうにしている。なんだか叱られた子供みたいだった。二人の様子的に、慣れたやり取りなんだろうけど。福野さんの様子をうかがうと──、


「うぇええぎいぎぎぎぎい可愛い。アッアッアッァッ……かッぎッぎぎぎぃいい、かっ可愛い……ウッイイッイッど、どうやって歩く? う~? ヒヒヒヒッ、ど、ど、どどうすんの? てちてちてち、あ~かわいかわいかわい、あんよ短いねえ、あ、大変だ大変だ、あ~どうしよっか、あ~、よしよし、どうすんのあんよ短い短い。うえぇえどうしよどうしよ、あ~そんだけしか走れないの。困っちゃった困っちゃった。どこもいけないどこもいけない。あ~あぁッ」


 それまで「なんかもうどうでもいいや自決します」と言い出しかねないほどローのテンションだった福野さんは、パグ狛犬を抱き上げ可愛がり始めた。


 無言で見つめていると、落ち込みから復帰した真原さんが「あれが局長の能力」とパグ狛犬を指した。


「普通は式動かすんは紙のままやろ、局長は、普通に紙動かんでああいうのが出んねん」


 式。いわゆる式神だ。霊力で人型の紙札を動かす。盗聴器にしたりGPS代わりにしたり。いわば小型の偵察紙人形。私は霊力が無いからできないけど。千年桜は恋と咲くの世界では式神を操ることは一般的だ。 


 しかし、紙札を変化させるのは誰にも出来ない。紙は紙だから。それにある日突然、折り紙で本物の鳥が生まれてしまったら生態系が崩れるし、鳥獣保護法に基づき罰される。


 生物を動かせるのは、それこそ上位の人型あやかしが、バケモンビジュアルのあやかしを操るとか、そういう話になってくる。


「まぁ、何が出るかは分からへんし、局長の場合、普通の紙のままの式神を作れへんのと……」

「次の式神を具現化させるまで、時間がかかるんだよねぇ……」


 パグ狛犬と戯れる真原さんを置いて、局長が私の隣に並んだ。


 つまりチャージ時間のかかるランダムガチャみたいなことか。しかも霊力消費つき。色々代償が大きいし戦闘向きには思えない。


「三十過ぎる前までは、軍に報告してなかったんだよね。霊力一本でしてたから。ただもう局長になるとねぇ」


 局長は「福野くんほら離してその子。たいたいに連絡するんだから」と真原さんからパグ狛犬を引き取る。


「たいたいってなんすか」


 真原さんが聞いた。


「退妖対実地戦闘局だよ。長いからたいたいって言おうかなって。裏でね。あそこの局長怖いから」


 退妖対実地戦闘局…は、水社一心のいるところだ。


「さー、お行き、よく分かんない洞窟があるから調べてくるって言っておいてね~」

「ヘッヘッへッヘッ」


 屯所につく頃には日付変わるんじゃないかと思うような速度でパグ狛犬が走っていく。福野さんは悲しそうにパグ狛犬を見送ったあと、感情のスイッチを完全に切った顔でこちらに振り向いた。私がお姉様に対してひとしきりはしゃいだ後もこんな感じなのだろうか。だとしたら反省する。怖いもんなんか。


「じゃあ、行こうか」


 富山局長が洞窟を見やった。


「中も調べるんすか?」

「だって調べる必要感じないって言われたら、ここ放置だよ? 一応見ておかないと、実は巣でした! ってなったら……ねぇ、民間人に被害が出てからでは遅いし、死ぬのはいつだって弱いものからだよ」

「なんか危ない気ぃしますけどね」


 真原さんは露骨に渋っている。


「まぁまぁまぁまぁ、仕方ない! 誰かやらなきゃいけないときは、馬鹿見るだろうなって思っても、飛び込む! そしてッ後悔するまで! 誰かにやらせちゃったって後悔は一生ッ! やらなきゃよかったって後悔は……ギリギリ年単位ッ! そうして左遷されたッ僕! ……って、あれ、福野くん」


 富山局長は宣言しているけど、福野さんは真原さんが渋り出したところで無言で洞窟内に突入していった。局長は急いで福野さんを追う。


「しゃあない……ほれ、俺しんがりするから、先、行き」


 真原さんが身振りで洞窟を示す。しっし、じゃなく普通に丁寧な促しだった。


 呪具に呪われた人たち。


 ホラーのセオリーみたいに、どうせ不用意に触ったんだろうなと勝手に思っていたけど。


 でも彼らは民間人を危険な目に合わせないよう、呪具に対応し──命尽きた、のかもしれない。


◇◇◇


「なんか、刀ありますけど」


 洞窟を進んでいると、福野さんが呟いた。


 前方には、ドームのようになっている空間があり、中央には刀が刺さっている。


 これこそが、この退妖武具・装具管理局を全滅に導いた呪いの刀だ。


 後に帝都退妖軍により保管され、保管番号6832・無血と呼ばれることとなるその刀は、持った人間の霊力をすべて吸い取る。


 血を流さないことは平和の象徴であるはずなのに、血を流さず殺すことからその名を授けられた。千年桜は恋と咲く終盤、屯所から盗まれ、あやかしの武器となる刀でもある。


「刀なんかある? 最近老眼ぎみで全然見えないんだけど」

「ああ、あの黒いやつ、岩に刺さってる。なんであんなど真ん中に刺さってんねや」


 富山局長と真原さんが目を細め、福野さんが冷静に観察している。


「誰かの遺品ですかね……ここで、あやかしを倒して……誰にも知られずに」

「ひとまず回収して、身元確認しよう。軍のだったら誰か分かるかも」


 富山局長が近づいていく。


 誰かの遺品だと考えてのことだったのか。この人たちが呪具を触ったのは。不用意だし呪具だと警戒すべきだったけど……悪いのは警戒心がない人間じゃなく、騙すほう。


 私は諸悪の根源こと、刀──クソ(がたな)に向かって走り出した。



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― 新着の感想 ―
みんなの会話がとても可愛いです!ウザ絡みする真原さんと、しょぼん優しい局長に福野さんがパグちゃんでバグるの好きです。普段も末理ちゃんに優しくしてくれたら良いのに…末理ちゃん良い子なんですよ…!お願いし…
登場人物たち(お三方)のキャラが濃すぎてドラマでも見ている気分です(笑) 私もパグ狛犬吸いたし…
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