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悪役義妹がお姉様の溺愛結婚を壊すまで  作者: 稲井田そう
第三章 お姉様の為に入った帝都退妖軍
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全員死んじゃう管理局

 退妖武具・装具管理局は軍の屯所の地下にある。私は降りるたびにどんどん暗く、汚く、狭くなっていく階段を降りていく。やがて「あ、ここが地下監獄かな?」と疑問を投げたくなる一画に出た。


 赤い煉瓦造りの十畳ほどの一室。


 ここが、退妖武具・装具管理局だ。


 真ん中に机が三つ。学校で例えるなら校長室、会社で例えるなら社長室のような大きな机に、やや小ぶりの二つの机がくっつけられてる感じ。そして壁伝いにもう一席。計四席。



 部屋の奥では関西弁の二十代男性が、大きな机を使っている五十代男性と予算の話をしていた。二人とも局員である。


「局長、倉庫拡張の予算どうなってます? もう絶対入れられへんですよ。そのうちグシャア崩れて死人出ますよ。(ふだ)、どないする気ですか」


 関西弁の二十代男性が真原(しんばら)さんだ。真実の真にバラの花の読み方で真原さん。見目は細身の猫ッ毛茶髪で表情は若干薄ら笑い気味。裏切りそうな雰囲気を常に纏っている。物語の中盤で「別に僕味方やなんて言った覚えないですよ」とか言いながら階段で突き落してきそうな彼は、私が配属してからずっと局長に倉庫拡張を訴えていた。店長に食って掛かる責任感の強いパートの人みたいだなと思う。


「頼んだよ。頼んで出ないの。頼み忘れたわけじゃないんだって。出ないの」


 五十代男性のほう──先ほどから真原さんに詰められているおじさんは、富山(とやま)局長という。富山県の通りの発音だが下の名前は異なるので「下の名前がケンさんだったら富山県産だな」と名前を見るたびずっと思っている。刑事ドラマに出てきそうな雰囲気の男性だが、真原さんにいつも詰められてるのでオフィスものの気弱な上司感が滲む。


 所属してから二人はずっとこんな感じだ。真原さんが確認をするが、全体的に「あー……確認しておくね」としか富山局長は返さない。新しい確認も、この間要請した確認も、全部の返事がそれ。


 基本的に局内のパワーバランスは局長より真原さんのが強い。一方、局外のパワーバランスは、武具・装具管理局が最下位だ。


 富山局長たちが先ほど回廊を歩いていた時ひっそり歩いていたし、周囲の兵士たちは富山局長たちに目もくれない。普通局長クラスなら道を開けるものだが富山局長に対してはそれをしない。


「使わへん武具と装具、ふぁあてバラしましょうよ。札も焚いて」

「廃棄する前に霊力抜かなきゃだから、駄目って言われて。一応そのままにしておいてって」

「なら霊力抜けばええでしょ」

「霊力抜くには中尉くらいの人間じゃないと出来ない。中尉なんか呼んでも来ない」

「おかしないですかそれ、こっち開発の武具つこうて、倉庫邪魔や言うたらなんもすなて」

「そんなこと言ったって武具と装具は兵士たちが勝手に持ってくし……退妖武具・装具管理局の職務は書類上の管理と武具の修理と新武具の開発だが最近は人材不足により外部の鍛冶師に任せざるを得ない、結局書面管理でしか役に立てないのだから金なんかいらないだろ──って経理局長に言われたんだもん。言い返せないよ。新人が入らないんだから」

「入ったでしょう、しかも枯賀家。これからまた増えるかも分からん──あ」


 富山局長と真原さんたちは私の姿に気づくと、一瞬だけ会話を止め、また再開する。


 私は離れ小島のように隅に設けられた座席につく。島流し席だ。孤島のバケモノともいえる。


「枯賀さん」


 座った瞬間、声がかかった。先輩兵の福野(ふくの)さんだ。七福神のふくではなく洋服の「ふく」の発音と染井吉野の「の」の読みで福野さんだ。真原さんより若干年下、私より年上の眼鏡男性である。大学生や新社会人くらいの年齢であろう彼はいつも「この仕事本当に無理なんで明日死にます」みたいな、常時元気を200%何かに吸われているような空気を纏っている。怠そうだし喋り方も怠そう。声も低いしより一層、ダウナーが際立つ。


「野外安全確認演習は初めてでしたっけ? 明日あるんですけど……」


 福野さんの言葉に私は頷く。


 初めてだっけ、もなにも新人だから全部初めてだ。この質問に関して嫌がらせかと疑う人間もいるかもしれないが、福野さんはこういう人だ。「✕✕って知ってましたっけ」という質問を福野さんの先輩である真原さんにもしていたし「僕お前の先輩なんやけど」と冷静に突っ込まれていた。真原さんと彼が並ぶと文系と理系、運動部と文化部の代表が並んだように錯覚する。


 そして二等兵の新人である私に任されているのは、新しい武具・装具の安全性確認だ。お試し。いわば実験台である。そんな話を配属初日に聞いたし、水社一心に心を読まれて「大丈夫なのか」と心配され、今日も局員たちとの関係について心配されたが、私は大丈夫だ。大丈夫ではないのは局員たちのほう。


 だって局員たちは明日全員死ぬ。


 水社一心の前では、退妖武具・装具管理局について私はこう考えた。


『千年桜は恋と咲くの登場人物で退妖武具・装具管理局の人間は一人たりともいないギリギリの局だ』


 嘘はついていないが、本質ではない。


 千年桜は恋と咲くでお姉様が軍に関わり始めたころ、既に退妖武具・装具管理局は廃されていて、武具・装具の管理は各局自己責任になっている。理由は人材不足により開発が出来なくなったからとか、経費削減とか、そういうものではない。


 全員死ぬのだ。ある呪いの刀のせいで。


 その因果は、千年桜は恋と咲くで登場するあやかしから知ることができる。


 皇龍清明様に差し入れをしようと屯所に向かったお姉様を、あやかしが襲う。あやかしは笛を吹いてあやかしを呼び寄せ戦うタイプだが──その正体は局長の娘だ。


 設定集で過去に存在していた退妖武具・装具管理局の局長である父に感謝を伝えられなかった悔恨を付け込まれ、あやかしになってしまった娘と表記があった。


 亡き父を想いあやかしになった娘は、皇龍清明に父を生き返らせてほしいと頼むためお姉様を狙うわけだが、そもそも退妖武具・装具管理局が全滅する原因になったのは呪いの刀のせいだ。皇龍清明様はあんまり関係ない。力が強いから死者も蘇らせることができると変に期待されただけ。過信過剰評価の押し付けの結果である。皇龍清明様が死者を復活させる能力があればお姉様を復活させている。それでもあやかしが皇龍清明様に期待したのはシナリオの都合、エンディングへの伏線バラマキの為だ。皇龍清明様は笛吹きあやかしに「父を生き返らせて」と頼まれるが「そんな力を持っているならばとうに私は……」と皇龍清明様が曇る。繰り返しになるがそんな力を持っているならお姉様を復活させているから。そのあたりが伏線になるのである。


 そんな局長with真原さん福野さんコンビの死の原因となる呪いの刀と彼らの出会いはこう記されている。


 卯月、野外安全確認演習中、手毬型拘束退妖武具運用試験時において、退妖武具・装具管理局は呪具を発見。形状は刀。


 局長一名、副局長一名、局員一名計三人が呪具により全滅。全員死亡が確認される。本件により呪いの発現地一帯は立ち入り禁止区域と指定、三名の遺体は速やかに焼却および遺骨においては廃棄処理。


 退妖武具・装具管理局は解体措置。


 要するに四月末にやべえ刀見つけて殺されて、辺り一帯立ち入り禁止に、呪いが怖いので遺体は全部燃やして骨も無くしました、ということである。

 


 それが巡り巡って局長の娘さんがあやかしになるにまで発展するわけだが、大元の原因の発生が、明日である。


 明日、ここにいる三人、全員死ぬ。


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― 新着の感想 ―
真原…… 絶対糸目ッ!
そして明日、3人を助けるんだね。 姉の負担を減らすために
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