欲しいのは全てを破壊する力
ミヤシロ様はあれから生贄一気入魂システムではなく、ちょこちょこ補給システムでよくなったらしい。人々は水に関するお祈りをするのでミヤシロ様の健康が第一になる。ミヤシロ様は水に関する物事を平穏に保つために霊力を欲しているので、いい具合に循環した。
ということで水社家とミヤシロ様のウキウキハッピーファミリーライフが始まったわけだが、水社ママは水社パパから枯賀家のことを聞いた果てに、大ギレした。
『子供守らないッ⁉ 貴族デ⁉ ナンデ⁉ お身体モォ? 健康でェ? 女中が八人もいてェエエエェェエエ⁉』
と、ほぼ、鳴き声というか咆哮のレベルで怒りを露にし上に猛抗議……とんでもない速度で家を出て行ったあと、戻ってきて私とお姉様を抱きしめると「うちの子ォ‼」と叫んだ。
水社一心のあの常にツッコミの暴走状態が常時続く感じの、単語版だ。
「母上は、こういう人だから」と説明しようとした水社一心を、水社ママは「息子ォ‼」と叫び抱きしめていたので、もうそういう人なのだろう。
容姿は儚げで楚々としているのに中身は阿修羅。水社パパは「面白いでしょう」と自分の妻について他人事のように言っていた。パッションが激しめなところが好きで結婚しているのか、万物俯瞰マンなのかよく分からない。そしてミヤシロ様もキレているというか、水社ママを宥めようとしたミヤシロ様が私の心を読み、枯賀家に対し祟りを起こしかけるなどして、お姉様と皇龍清明様との正規ルートの縁談が絶望的になった。
本来の流れとしては、お姉様と皇龍清明様との出会いは、枯賀家に縁談が舞い込むことからスタートする。何で腐りきった枯賀家に皇龍清明様というか小説のヒーローとの縁談が舞い込むかと言えば、霊力だ。
ミヤシロ様に注ぐとミヤシロ様が元気になるくらいの霊力を、私は持っている。
国からすれば中々の逸材なのだ私は。なので皇龍清明様のお嫁さんになってもらいたいと私に縁談が来る。国は皇龍清明様の血が絶えることが怖いし、なにより強い人間がいっぱい欲しいので、強い人間にはいっぱい子供を産んでもらいたいという単純な回路で動いている。
皇龍清明様サイドは、元々国からの縁談打診を断り続けてきたが、「一回縁談だけして以後打診もやめてもらおう」と苦肉の策で見合いだけしようとする。
その裏では水社一心がお姉様に振り向いてもらいたさに枯賀末理にプロポーズ、他人の物を奪うのが性癖の枯賀末理が承諾、縁談が進む途中で皇龍清明様の縁談が到着……というか着弾のレベルで舞い込んでしまい、皇龍清明様、国、水社家の顔を立てる苦肉の策として、書状には枯賀家の娘としか書いてないからと枯賀のカス父はお姉様を出すのだ。
すりかえである。
身代わり政略結婚とも言う。
国的には、枯賀家の娘と言えば霊力の高い枯賀末理。お姉様を存在しない者扱いしているのは国も同じだから。バーカ。
書状には枯賀家と皇龍清明様との縁談をとしか書かない。
枯賀家の娘と書いているなら枯賀家の娘なのだから無能の長女を出してもいいだろ──これが枯賀のカスのロジックである。カス。しかし法律的には何の問題もなく氏名未記載の落ち度や水社家の関係もあり、見合いが始まる。
そして小説の大ネタバレになるが皇龍清明様は人外かつ三百年前から生きている。
大変ややこしいが、皇龍清明様は神様寄りの龍で、三百年前、霊力が人並み外れた人間の娘と恋に落ち、永遠の愛を誓った果てに看取る。
その人間の女の生まれ変わりが、私のお姉様。
皇龍清明様は三百年前のお姉様に対し、自分の霊力を与え長寿にしてしまおうか悩んだが、自分の恋心で相手を人外にしてしまうことを避けた。そして種族の違う自分と一緒にいたら幸せになれないと離れた。一緒にいたら依存する、永遠に一緒にいてもらいたいと願い、相手を縛ってしまうと思うと怖かったのだ。
正直、龍と人間なので年の差もなにもないが、年の差もある程度気にしていたらしい。
そうしたら三百年前のお姉様は、他者を庇いあっけなく死んだ。元々三百年前のお姉様はめちゃめちゃ強く、守る! 癒す! に長けたお人だったが、あやかしでどうこうではなく子供を落石から庇い死ぬ。
それでも皇龍清明様は、それが三百年前のお姉様の選択だと尊重し、最後まで人を守ろうとしたお姉様の意を汲んで「群れませんけど人助けします」スタンスで人間と関わり、それとなく人間っぽい周期で姿かたちを変え人の世に紛れながらも、人々をあやかしから守ってきた。
そして今代、皇龍清明様として人間救済活動に励んでいるわけだが、今代の国の世情は結婚を強いるタイプであり、皇龍清明様はめちゃくちゃ結婚圧をかけられていた。
皇龍清明様的には、「見合い見合いうるせーよ火の海にするぞ」と出来るが、やらない。なぜなら強大な力を持つ者は自分の為に力を使わない。人間として出来ているので断り続けるが、「せめて会ってくれ」と言われ、一回会って断ることを考えた。
そうして断るつもりでやってきたお見合いでお姉様と出会いさあ大変──というのが、皇龍清明様視点の千年桜は恋と咲くの冒頭だ。
ちなみにお姉様は皇龍清明を覚えてない。なので「実家で虐げられ身代わりで結婚しろと命じられ向かった先で冷酷と聞いていた旦那様になぜか溺愛されてる」という状態になる。そして皇龍清明様も「三百年前の恋人です」とは言わない。皇龍清明様は人外寄りだが倫理がパーフェクトなので「自分みたいな身分がぐいぐい行ったら駄目だろうな」「そもそも相手覚えてないし」というブレーキがかかる。
そしてここまでが、漫画だと1話、小説だと10ページほどの展開だが、このままだとその一話が始まらない。
縁談が来ないから。
お姉様と皇龍清明様の目さえ合わせればいい。というかお姉様の姿を皇龍清明に見せるだけでどうとでもなる。逆を言えば目さえ合わないと駄目。皇龍清明様は自分の気が狂ったりしたときにお姉様を無理に追わないように……とお姉様を一目見る以外でお姉様を追えないよう霊力探知を封印しているので、目を合わせないとお姉様がどんなにピンチになろうと出会えないし、この世に生まれているかも分からないようにしている。
自主性を重んじ無闇にヒロインに迫らない男、皇龍清明様。正しいと思えど、今に至っては余計なことしやがってと複雑だ。
そして縁談以外にお姉様と皇龍清明様が目を合わせる機会が──本当にない。
めちゃくちゃ暗殺警戒してる海外の国のトップに一般人が会うレベルの難しさだから。
皇龍清明様は前述のとおり人外寄りのお人かつ、あやかし退治に参加するが軍所属ではない。軍の屯所に出入りはするし、軍の上層部が「お会いしたいです」とお願いをすればきちんと会ってくれるが、上層部が皇龍清明様を呼びだす機会もほぼないし、畏れ多くて呼び出したがらないという要人中の要人。
そして皇龍清明様はお姉様に関すること以外無趣味なので、自分しか立ち入れない空間を作り、三百年前のお姉様の形見を置いて引きこもってるか、あやかし討伐しかしない。
そのあやかし討伐も「自分が出すぎて人間から経験値を奪って軍を弱体化させたくない」という考えから、出没がランダムなので本当に分からない。千年桜は恋と咲くでは皇龍清明様とお姉様が出会いお姉様の霊力開花により強いあやかしが出て皇龍清明様の出陣率も上がるが、そのお姉様は皇龍清明様に出会わないと霊力が開花しない。
詰みである。
ということで、私が軍に入り昇進して掴み取ってくることにした。軍──帝都退妖軍で武功を上げれば皇龍清明様と会える機会も生まれるし、お姉様が傷つかないよう千年桜は恋と咲くのシナリオに対抗しなければいけないので、まさに一石二鳥である。
この国では最短十五歳から軍に入れることもあり、該当の年齢になった私は一応「優秀」としてもてはやされていた設定を生かし、霊力0だが軍に志願した。
お姉様とお別れになってしまうが、水社家から通うし、枯賀家と異なり女中も正気、水社ママや水社パパもいるので大丈夫だろう。ちなみにお姉様は私が軍に入ることに大反対だった。第一声「どうして……」だった。「お姉様をお守りする力を得てまいります」と返せば、「私を守ろうとしなくていいの‼」と、中々のデカボイスで叫んだ。そんなお姉様もso cute。
でも、縁談も掴み取りたいし、お姉様を守る力は欲しい。水社一心に報いる力もだ。
軍はあやかしに干渉する力さえ持っていれば霊力が微妙なところでも入軍可能だ。前世で例えるなら自衛隊に近い組織体系で身近さは警察寄り。日々志願兵を募っており、学歴不問だ。家柄も不問。
えぇ~人を守る仕事でしょ~? ごろつきみたいな人間が入ったら怖くな~い?
普通はこんな疑問を抱くだろうが、軍に入った後は厳しい訓練が始まる。
素行不良の人間を送りこみ、真人間になるよう目論む家も多いが、帰ってくるのは隙あらば筋トレに励みトランペットの音色で整列し、あやかしが出たら走り出す習性を獲得した素行不良の人間。
訓練は対あやかしを想定しているため常軌を逸している。「腹筋100回した? 今日の準備運動は、軽めにしたの?」と聞かれる世界。それが軍。人格は補正されない。軍人としての生態カートリッジを外付けされるだけだ。正式名称はバケモン育成委員会……ではなく、帝都退妖軍。
ちなみに男女比が男9女1。基本的に大正時代モチーフなので、男は軍に入るのがセオリーだ。
家柄が良かったり跡継ぎだったりすると、また違う。あやかしとの戦いは死と隣り合わせなので、国としても推奨はしてないのだ。「戦ってほしいけど跡継ぎを強制連行はできない。和菓子屋の跡取りとか殺しちゃった後に国で保証も出来ないし」という、なんとも微妙なスタンスである。
水社一心なんか、一番入るべきじゃない。なのに。
「お前は本当に人の話を聞かないなぁッ!」
軍の屯所、人通りも多い主要廊下でデカい声が響く。
入隊し一か月。
今日も今日とて水社一心はうるさい。毎日毎日何をそんなにわめくことがあるのか。屯所は西洋の豪華な装飾と和の歴史的建築が混在、「千年桜は恋と咲く」の作家が開港により外国の文化が混ざり合った建築物を意識した──とインタビューで答えていた情緒ある風景である。楚々としたお姉様が歩けば西洋の宗教画の再現にもなりそうなシチュエーションだが、現状水社一心が叫び散らかしながら私を追いまわしているので地獄絵図である。
「何が地獄絵図だ‼ お前の心の中のほうが地獄絵図じゃないか」
軍の中でも人格否定。軍人の風上にも置けないこの男だが、なんでか軍に紛れ込んでしまった。異物混入である。
「紛れるじゃない‼ 男の務めとして志願したんだ‼」
何が男の務めだ。水社家の跡取りとして祠を守りながら池の鯉の世話でもしていればいいものを、わざわざ偏見思想で軍入りである。愚か。多様性の昨今を逆走する時代錯誤のマッチョイズム。
「相変わらず訳の分からないことを‼」
水社一心が憤慨した。街中で発すれば相当注目を集めそうなものだが、廊下を歩く人間はみんな慣れてしまったのか気にも留めない。最悪である。それくらい水社一心は絡んでくる。こちらはやることも多いし。私は霊力を集めなければいけないというのに。
「……お前、三年も寝てたんだぞ」
水社一心が気まずそうに私を見る。何を考えているんだろう。ミヤシロ様に霊力を捧げたせいで私の霊力が消えたことを気にしているのだろうか。愚かな。実に愚かです。ほほほ。
「愚かってなんだよ、こっちは、どんな思いで……‼」
どんな思いでもクソもない。私の霊力が無ければ水社一心の母親は生贄霊力供給を続行し最悪の末路を辿っていた。
それが私の霊力でどうにかなったならそんなに楽なことは無い。それ以外にない。それともあれか。母親に思い入れが無いご家庭だろうか。私みたいに。
「返事しづらいことを言うな」
なら自分だって変なこと思わなきゃいいのに。ミヤシロ様元気、母親元気、父親嬉しそうで終わりでいいだろうが。
「でもお前の霊力が……」
水社一心は憤りを抑えるようにため息を吐いた。出ましたフキハラ。不機嫌ハラスメント。というか霊力がなんなんだ。
「霊力が無いのに、軍になんか入って」
そう、霊力が無いのに私は軍に入った。それは微かに残っているから──ではなく霊力の他にあやかしに干渉する能力を持っているからだ。水社一心で例えるなら、心を読む能力。水社一心はあやかしの心も読めるには読めるので、たとえば人型の、本物の人間かあやかしか分からん奴を相手にするとき、水社一心は重宝する。そういう感じで、霊力と異なる力が私にもある。水社一心に悟られるわけにはいかないのでなるべく考えないようにしているが。
ゆえに軍人としての条件は満たしている。ここであやかしを倒し続ければ、少なからず霊力も蓄えられるだろう。
強さがほしいから、軍に入った。
「だから、お前の霊力がなくなった原因は、俺の──」
なにが俺のじゃバーカべろべろべろべろべろべろ。結婚もしてないのに俺の俺のって亭主関白面しやがってバーカべろべろべろべろべろべろびーびゃびゃびゃびゃどんどこどんどこどんどどどん。
「お前本当にいい加減にしろよ、本当にやめろそれ」
水社一心は露骨に嫌そうな顔をした。心が読める能力はおそらく他人の脳内モノローグが読める、ということなので支離滅裂な言葉を黙読すると大いに嫌がる。言語の隙間に挟み込むと特に苦痛なようで、不愉快な話をされた時の対抗策にもってこいだ。
「不愉快な話ってなんだよ。お前の霊力のことだぞ」
なくなった原因は私にある。私が、私の持っている霊力を使おうと思った。判断したのは私だ。他人のせいじゃない。
もう相手にしているのも面倒だと私は足を速めるが、廊下の先に顔見知りを発見し、足を止める。
「おい、あいつらお前の局の奴らだろ」
水社一心が廊下の向こうを指す。
その先には、私と同じ、退妖武具・装具管理局で働く先輩兵士たちが歩いていた。
軍には序列と部門がある。階級は普通に和風ファンタジーにあるようなもの。部門は言葉の最後に局がつく。今、水社一心が言った退妖武具・装具管理局というのはあやかしを倒すための武具と装備に関する部門だ。主な仕事は作成、修理、保管。外部の物盗りから盗まれたり、内部の人間が横領して売り払ったりしないよう気を付けることだ。
与えられた階級は二等兵。末端兵である。一番下。ちなみに和風ファンタジーでよくある旦那様の階級から十個以上は下である。
なぜなら霊力が無いから。
霊力があったら多分准尉くらいにはなれてた。
そして入軍志願の時、どこの局に所属するかは希望が出せる。普通は通らない。各々の裁量や各局の状況が第一なので、聞いている体裁だけ欲しい上層部の意向である。絶対に通らないのに修学旅行のアンケートをさせられる感じ。「死にたくないので事務がいいです!」といっても霊力が高ければ前線に送り込まれる。無双モノの序盤みたいに。
私の場合は霊力0、霊力ランキング最下位。
第一志望は武具・装具管理局。志願理由は武器が欲しいから。
該当局の倍率は0だ。昨年の入局希望者も0。ここ数年までさかのぼっても0。
出世から最も遠く、戦闘にも使えない能力を持ち、事務仕事や算術も出来ない落ちこぼれ局。
結果、第一希望合格、無事入局である。
ちなみの千年桜は恋と咲くの登場人物で退妖武具・装具管理局の人間は一人たりともいない。お姉様はその傷だらけと水仕事の痕跡の残る美しい手で結界を貼る。皇龍清明様は、武器全部自前。自分の手のひらから氷の日本刀を出す。千年桜は恋と咲くはそんな二人にフォーカスがあたることから、二人にとって不要なこの局は本編カメラにほぼ映らない。それが反映されてか、屯所内にある管理局の部屋は地下に追いやられており、居場所が無いような局だった。地下収容所と言っても差し支えない。地下牢ですあれは。
「お前自分で選んだ配属先だろ……」
水社一心が呆れる。この男は退妖対実地戦闘局の少尉様という地位だ。家柄で一気に七段飛ばしのスタートである。少尉は将校とも呼べるので、和風モノの小説でヒーローが獲得しているような地位を獲得した。配属局は読んで字の如くあやかしと戦う局で、軍の花形。お坊ちゃんかつ、神様の加護持ちで、心が読めることでトラウマっぽい部分もある少尉様だ。「女性人気の要素を詰め込みました!」みたいな存在である。ヒーローぶりやがって。
「女に人気になりたくて入ったわけじゃない!」
そんなヒーロー属性を全部台無しにするクソバカビッグボイス。
少尉様は落ちこぼれの敗戦処理組合こと武具・装具管理局と接点はないはずだが、まぁ、会う。落ちこぼれとしてスタートしたけど、将校様に付き纏われてます! みたいな何かの導入を彷彿とさせる状況だ。ヒロインはお姉様だしヒーローは何百年と前から皇龍清明様だと決定しているのに。
「みたいなみたいな煩いななんなんだお前は。何を言ってるんだ」
そして──、
「あ……」
とうとう管理局の局員たちとすれ違う。私は会釈するが、それまで楽しそうに話をしていた局員たちは警戒した様子で軽く会釈をして去っていく。
「枯賀、誘わなくていいんすか」
「いいよ、いい。枯賀さんは大丈夫。行こう」
「そーいや、今度、屯所の玄関にでっかい玉飾られるらしいですよ。士気上げる言うて。盗んで売ったろうかな思うんですけど、局長どうします?」
そしてだんだんと小さくなっていく、局員の話し声。
水社一心が不安そうにこちらを見てきた。
現在私は所属局員からうっすら省かれている。
何か伝えて無視される、とかではなく「枯賀家の御嬢様だから、そんなしなくていいよ」みたいなどうにも気まずいニュアンスで浮いていた。
枯賀家の内情はよく言えばカス、人間はクズ。
政治的に水社ママが枯賀家をズタズタにしても、大体の人間は枯賀家のカスさを知らない。「霊力の高い名門貴族」「選民思想があり格下ならば貴族であろうと見下す」というイメージが先行しているためか、普通にうっすら嫌われている。
それに、千年桜は恋と咲くの枯賀末理はそのイメージの通りに生きていたが、私は枯賀末理と異なり誰とも関わらず無言で過ごしている。無言も理由のひとつになってはいるのだろう。
とはいえ何かの欠落は軍の中だとそこまで珍しくもない。連携第一でコミュニケーションも重要視されているが、あやかしとの戦いで腕が無い、脚が無い、片目が見えないなどなど、色々あるからだ。それでも枯賀家のイメージはカバーできないのだろう。死ぬほど避けられるし。
私としては好都合だった。関わる人間は減らしたい。
というかお姉様以外と関わりたくない。
お姉様はあらゆる事件に巻き込まれ、命の危機に陥る。私はお姉様は絶対に死なないと知っていても助ける。その過程で私の命が失われようがどうでもいいが、周囲は違う。誰かと関わってその身を危険にさらしたくない。
「じゃあ俺はなんなんだよ」
水社一心が複雑そうに私を見る。
確かに水社一族と関わっているが、それは特例だ。お姉様はいずれ皇龍清明様に嫁ぎ国で重要位置につくので、水社家がお姉様を枯賀家から救ったという流れは水社家的にもメリットだ。
対して私単品では意味がない。私を助けたとて、というところがある。枯賀の母親と父親が「自分たちは親でお前は子供なんだから」とお姉様が逃げづらい論理で近づいてきたら、私は二人を即座に殺す。そうなった時のために、あんまり深い関わりは作りたくない。知人が殺人犯っていい気しないだろうし。
なんて考えていれば水社一心が肱を当ててきた。加減されているが完全に暴力です。とんでもねえ男。結婚もしてないのに。
「結婚するしないなんか関係がないし、そもそも何かあったら俺に──」
水社一心はそう言いながら、言葉を止めた。
言えよ、とでも言おうとしたのだろう。そして私が言わないことを悟った。
言わない。声が出せたとしても。これから先、扱いがどんどん悪くなって、いじめられたとしても私は言わない。枯賀家でお姉様を守れなかったあの時より痛いことなど無いし私は私がどうなろうとどうでもいいのだ。目的さえ果たせれば。
私の意向は、永遠に変わらない。何があっても。私が私である限り。
水社一心に助けられた。借りは返す。借りを返しきれば関わりを断つ。
表明するように私は水社一心を見返す。水社一心も私を見返してくる。
始業のトランペットが鳴った。軍の中は学校みたいに一定時間ごと休憩と就業が区分されている。水社一心との関わりもこれまで。
「すぐ分かるからな」
立ち去ろうとすると背中越しに声がかかる。
「お前がどうあれ、すぐに分かるぞ。俺には」
高圧的と茶化せないくらいの怒ったような声だった。
私は振り返らず、その場を後にした。




