あとがき
作者のかなかわです
今回は、拙作「殺人館の不死鳥」を読んでいただきありがとうございました。そして、お疲れ様でした。
いかがでしたでしょうか。
私としては、この作品に関しては「大変だった……」と言う思い出が強いです。
「普通のミステリに不死身が紛れ込んでいて、被害者を助けるうちに、ミステリ部分もおかしくなっていく」
というあらすじを思いつき、さあ書くぞと筆を取った瞬間、「え?どうやって?」と筆が止まりました。
「わざと殺されるなら、なんで不死身のやつは犯人の姿を見てないの?」
とか。
「助けた被害者の扱いはどうするの?」
とか。
「そもそも、最初に殺された時点で犯人を告発すればいいじゃん」
とか……。
「犯人が施したトリックと、不死鳥が手を加えて完成する殺人事件って何?」
とか……!
ゼロからスタートした瞬間、この問題を一気に抱えることになったのですから。
実際、今回の小説は、最初から最後まで書いて、これじゃないなと思い最初から……を3回繰り返しました。4回目が、今作となります
その4回全て、事件とその犯人が違います。
1回目は、八木が、
2回目は、森子が、
3回目は、天窓が犯人でした。
最終的に、それらを混ぜ合わせた形として、4回目の今作となります。
なんなら3回目までは、作中にてトリックスターの役割を担わせた「獅子噛」がいませんでした。
男と女の比率が5:4でキリが悪いのは、こいつが途中から入って来たからです。
物語の進行役を務めさせたかったのに、キャラが勝手に動いて全員を挑発し八木に喧嘩を売りやがったので、余計に大変なことになりましたが。
自分の死の危険が何より怖いやつがデスゲームに参加するな!
また、キャラの動かし方も大変でした。
今作では【表】と【裏】が密接にリンクしているため、慎重にキャラを動かさないとすぐに物語が成り立たなくなります。
【死亡者組】の退路が絶たれたり、逆に鉢合わせしたり……。
とはいえ、物語のためだけに動かすと、途端に不自然に「操られてる感」も出てしまい……。
一回目などは本当にひどい出来でした。全員がマリオネットで動かされてるような不自然さがあり……。
まあ、とにかく完成し、そしてメフィスト賞座談会に取り上げてもらえたことは本当に嬉しく、そして学ぶべき点を痛感しました。
数々の大変な思いの末に書き上げたこの作品ですが、今では自分でも大好きな一作となりました。
書けてよかった。書けた私はすごい!天才!才能があるぞ!今後も頑張れ!私!
……ここから、作品の内容についてのあとがきです。
ミステリ×人外。
今回私は、「不死鳥」を選びました。
「不死身」「不死鳥」と言われて思い当たるキャラクター性はどう言ったものでしょうか。
人生に飽きていたり、他の人間を見下していたり、そうでなくとも、あまり普通の人間とは相容れない存在であることが多いのではないでしょうか。(多くの作品では、そんな彼らとの交流の末に、態度が変化する過程にスポットが当たっているため、良し悪しはまた別です)。
今回、不死身を扱う際に決めたことは「人間のお友達」を目指しました。
手塚治虫の火の鳥の神様のような存在ではなく、無感情で心を閉ざして諦観しているわけでもなく……貴方のことが大好きな、お友達。
抱えている問題を解決、しない。
テンションが高いけど、大雑把。
なんだったらちょっと、ウザい。
だけど……悩みを本気で聞いて、ちゃんと一緒に考えてくれ、根拠もなく「大丈夫!」と言い、問題解決のために一緒に走り回ってくれる、自信満々なくせに頼りない、神様でも化け物でもなく、【友達】としての存在にしたいなと思い、鳳凰堂椿が完成しました。
そして、悩める少女たちも現れることになります。
やがて物語を終盤まで書き、ふと、「こいつ自身の心はどうなっているの?」「こいつのことは誰か助けないの?」と気づき、「実は死を恐れていた」という設定を加え、ラストを完成させました。
鳳凰堂の根拠のない「大丈夫」に助けられた森子が、最後に鳳凰堂に「大丈夫」と支えようとするラストは、最初構想になかったものの、かけてよかったなと思います。
エピローグに現れる「月熊桜」は、鳳凰堂と月熊の……子孫では……いや、そうなのかも……いや、流石に……?
あえて、かなりぼかしております。ロマンとして。
彼女は物語の主軸とは完全に別ですが、「他殺」を救う物語にて、「自殺」を最後に扱いたかったために登場させました。
しかし私は、自ら死を選ぶ者へかける言葉を持っていませんし、無理やり作り出すのは無責任だと思っています。
なにより、【救う】のは私にできることではない。
そのため、鳳凰堂椿という友達を与えて「その上で選ぶのは君だよ」という終わり方にしました。
なので、その後彼女がどうしたかも、あえてぼかしております。
自死を選んだかもしれない。そうじゃないかもしれない。
ただ、今日じゃなかっただけで。友達が増えただけで……。
あとがきの最後に……ミステリにおける、「死」とはなんでしょうか。
ミステリの世界では当然のように現れる、「死」。
今回はその「死」を完膚なきまでに否定したい、ぶっ壊してやりたいという思いがありました。
死ぬのは怖いし、痛いし、悲しい。身勝手な理由で理不尽に与えないでくれ。それに、エゴでもみんなに生きていて欲しい。当たり前にあっていいものじゃ、決してない。
「死」が当たり前にあるミステリーの世界で、それを声高に、みっともなく、地団駄を踏んで、泣きじゃくりながら、「殺すなよ!死ぬなよ!」と叫ぶ者がいても、きっといいはず。
人ではない彼女は、人の死を救い続けた果てに、「自死」に向き合い、そして自分も生き続けることを選ぶ。
持っていなければきっと壊れなかったはずの心を。
捨てて、忘れて仕舞えばきっと楽な心を抱いて、なおも生き続ける。
良い人、悪い人、嬉しいこと、悲しいこと、出会い、別れ。
それらに満ちた終わりのない「生」を、続けると選ぶ。
そんな物語が、書きたかったのです。