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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
六話 霧を晴らして→私を見つけないで
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75 新たなる夜明けの予感

「──久しぶり、ナイン」


 無数の光弾──連射された【ダインハギル】を全て斬り落とし、シェルトと歳の変わらないように見える少女はその小太刀を逆手に持ち替える。

 眼光の応酬。様々な想いの含まれたシェルトの瞳と、ただ前の存在を見据える『ナイン』。


「まだ()()()()()いるんだ……私が、連れ出してあげられなかったから!」


「──フィフティー、其方こそ元気そうで何よりです。……居場所、見つかって良かったね」


「ごめん、ごめんなさい! ナイン、あなたも一緒に連れ出してあげられなくて! 助けてあげられなくてっ!!!!」


 シェルトは息を切らし声を荒げる。それに比べ、ナインは対照的に静かで落ち着いていた。

 一方は再会を悔やみ、一方は再会を好ましく思っている。


「私があなたの手を離したから、今私だけが幸せを感じているっ! 嫌なんだ! 私だけが幸せだって思うのが嫌なんだ! だから! だからナインはッ────」


 ナインは首を傾げた。ただ単純な一つの疑問が、彼女をそうさせた。


「何言ってるのフィフティー。私は()()幸せよ?」


「────────は?」


 その目にはベリエヌスクという1人の人間が、その人しか映っていなかった。恍惚とも、安堵とも取れるその優しい顔は、シェルトの感情をより爆発させた。


「回答は得た。ナイン、帰るよ。感動の再会はそれだけでもう十分だろう?」


 ベリエヌスクが背中を向ける。ゆっくりと一歩を踏み出す。口元が、一瞬緩む。


「──ベリエヌスクッ! 貴様! ナインを……他の子達を縛り付けて楽しいかッ!!!!」


「その言い草は聞き捨てならないが……どうやら君はあの、逃げた被験者みたいだね。No.50(フィフティー)、やっと会えたよ」


「はっ、やっとこっちに意識を向けたな、ベリエヌスク!」


「どうやら君はただのお嬢様じゃ無いみたいだからね。ああ、そちらの坊ちゃんも只者じゃ無いことは気づいてるからね。手加減とか苦手だから攻撃してこないでよ?」


 ベリエヌスクが腕を広げる。それを見て、跪くナイン。尊大な態度で、それでいて加虐的な眼光で、彼はゆっくりと言葉を紡ぐ。


「被験体総勢54名。脱走者が1名、死者52名。あの過酷な実験に耐えて生きてくれた人は2名。……どうして縛る必要性がある? どこに理由があるんだ?」



「ッ……それは、でもナインは縛られている! だってナインは私と2人で逃げようって!」


「うーん。別に私としては縛り付けているという感覚は……少しは感じることはあるが、だけど隷属の魔法も、奴隷の紋の効力も全て壊したはずだ。それは君が被験者なら一番分かっていると思うよ?」


「現にナインはあなたに従っているでしょッ!?」


 シェルトは勢いをつけて【ダインハギル】を撃ち放つ。


 太い光線が一閃。小太刀の閃きが一つ。


「話す知能さえも怒りで塗りつぶしたか……」


 ベリエヌスクは苦い顔をして大きなため息をついた。やる気が無くなったのか、今度は本気で帰るつもりだろう。


「私は自分の意思でここにいる。あなたと同じだ、フィフティー──いや、シェルト・マーキュリアル嬢」


「ナイン……あなたはっ」


 ナインの優しかった顔が、鋭く変化する。それは怒りか、それとも──俺には、分からない。ただ、見ている事しか出来ない、俺には。


「たとえ貴方だとしても、ベリエヌスク様の邪魔をするなら、斬る」


 シェルトは俯く。俯いて、擦り上げた言葉を発する。


「ごめんね、ナイン。私もだよ。私だって、私の邪魔をする人に、容赦はできない」



 だけど俺にだって、シェルトを手伝う事は出来る。シェルトの為に、ベリエヌスクを倒す為の援護をすることだって。


「悪いけど、不思議な魔力は全部霧散させたよ、エルヒスタ・レプラコーン」


 ベリエヌスクは笑った。ベリエヌスクが笑った。不敵に。

 魔力の糸を掴んで、捻り潰された。そんな感覚が俺に伝わってくる。一瞬だけ吐き気がした。


「チッ、バレてたのか」


 直ぐに魔力の糸を解除する。


 ベリエヌスクと目が合った。そしてお互いが、笑った。


『こっそり魔力の糸を配置して、そのまま【パライズバインド】でビリビリさせる計画、失敗! どうするエル君!?』


 久々のおしゃべりクソ男のセタが全部説明してくれたが、話してくれた通りだ。

 俺にも出来る事あったと思うんだけど……な。


「こうなりゃもう逃げられない、か。なあシェルト、まだ闘える?」


「私は、出来るに決まってるでしょ? そっちこそ大丈夫なの?」


 グッドポーズをして笑う。助けられるのなら、助ける。


 それが、俺の出来ることだから。


「ベリエヌスク様、申し訳ありません。彼女とは、できれば戦いたくありません。ですがあなた様のお望みとあらば」


「そうだね、私も同じ気持ちだよ。だから、終わらせよう」


 だから──俺たちは。


「『穿て【閃光】』っ!!」


「【ダインハギル】!!」


 二つの魔法がベリエヌスクを捉える。だがその敵意を一身に受ける男は、当たれば重症は免れないその魔法に見向きもせず、黙々と詠唱を始めた。


「『発見、征服、栄光、躍進、革命

  成功、繁栄、完成、成就、勝利──」


 そう、ベリエヌスクにはナインという優秀な剣がいる。


「ベリエヌスク様の邪魔は、させない」


「退かせない……なら、魔力の糸!」


 俺はナインの脚を、魔力の糸で絡めとる。だが簡単にはいかない。『魔力の糸を斬る』などという人間離れした行為は流石にやってこなかったが、不意をついて片足を縛っただけだ。

 腕利きなら、重心さえ整えられたなら片足くらい無くても闘える。


「【ダインハギル】ゥゥッッッ!!!!」


 3本、4本の閃きが空を貫く。一直線にベリエヌスクへと向かうダインハギルを、ナインはギリギリのところで斬り落とす。が、最後の1本のダインハギルがナインの小太刀を弾き飛ばした。


「──全て犠牲なしでは得れぬ力の象徴

  茶番劇(ファルス)を演じて泣け喚け

 【風袋(ふうたい)のアストラ】』」


 しかし、それと同時にベリエヌスクの魔法の詠唱が終わる。



 ──タイムリミットだ。


「じゃ、またね」




 ────────俺とシェルトは地面に伏した。いや、伏せられたと言うべきか。


「アッ……がっ!」


「このっ、ベリエ、ヌスクッッッ!!!!」


 かけられている負荷はどれくらいだろう。押しつぶされた事はないが、多分瓦礫に潰された時はこんな感覚がするんだろう。


 逃げることのできない圧力が、俺たちの上から降り注ぐ。上には何もない。だが、()()()()()()()()()()()()()()


「ッが、『穿て【閃光】』っ!」


「無駄だ」


 俺の決死の攻撃は、こちらを見もしないベリエヌスクに踏み潰される。その時、悟った。もしかしたら、シェルトも同じことを考えているのかもしれない。


 ──ベリエヌスクに、勝てない。傷一つ付けられない。見てももらえない。同じ土俵に立てない。


 そして何より彼は……戦うことを拒んでいる。



 魔法を放った相手はもういない。俺はゆっくりと、疲れ果てた右腕を地面に落とした。

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