63 いざガリュキンへ!
シェルトのボディーガードとして、中央都市ガリュキンへと降り立ったエルヒスタ。しかし、彼らはまた戦いに巻き込まれてしまう。複数の召喚獣の魔の手に、彼らはどう立ち向かうのか。
シェルトの本当の過去。怪盗達の真の目的。そして、狂気の科学者が姿を現す大乱戦。
死闘、死闘、死闘怒涛の三連打! いちゃいちゃ&戦闘尽くめの第六話!
彼女の“嘘”は、何のために。
隠したものは、幸せか 傷か
── Chapter 6 ──
ガタガタと尻を痛めつける馬車の揺れは、夏に味わったばかりだった。だから、この秋また馬車に乗るなんてごめんだった。本当に痛いんだ、馬車の揺れは。
ある程度の感覚を遮断しているセタにだって、その揺れと痛みは伝わる。揺れるんだ、死ぬほど揺れるんだ。山道ならさらに、いや舗装路も街の中じゃなかったらガタガタしまくりだ。
街道などと呼ばれる道も、ずっと前に舗装された連絡路に過ぎない。そこは野生動物もたくさんいる道。石が置かれていたり、果てや死骸を車輪が踏みつけることだってある。
夏の帰省の時は、行きはミゼリコルに着く前の村で降りて、山のなか走り抜けてった。だから尻が死ぬほどは、そんなに辛くはなかった。
けれど帰りは宿経由だったから、良い馬車借りれなくて、かなり痛い思いをしてチェリスカまで帰ってくることになった。
だから馬車は苦手だった。──多分それだけではないだろうが、いかんせん過去の記憶が不明瞭だから全然覚えていない。だけど、馬車が嫌いなことだけは覚えている。
あー、セタの知識使って静音自動車作りたいよ。多分、それの材料はこの世界にはないけど。加工する技術も無いし、なんなら発表する場所だって無いよ。
セタ曰くここはファンタジー世界だからね。ある程度の不便さは仕方がないんだ、なんて割り切った方がいいのかもしれない。実際俺の記憶にある自動車ってやつは、写真越しに見たような、そんなようなもんだし。結局エンジンとかなんとか分かんないことだらけ。
──それを、戦闘に応用できるかなぁ、なんて思った。だけど馬車で思いつかないなら、自動車でも思いつかないものだよ。想像力のかけらもないね。
だけど、こんなにディスっておきながらになるけど。今俺は、馬車に乗っている──シェルトと一緒に。
一緒に乗っている理由は簡単、シェルトがこれからゼルルド共和国の中央都市『ガリュキン』へと向かうから。俺はもちろん、ボディーガード的な奴だ。
あれだよ、六月の国際体育祭の時のあれだ。そこで起こったことはまあ、衝撃的なものだった……特にシェルトのうなじと裸と背中。
結局のところ、まだ300万は返せてない。それに、あの時以来ヴォラートさんにも会えてない。お金だけは払われていたみたいなんだけど。
だから結構前のことに思える。──ずっと前なのか、もう九月も終わりに差し掛かる。
あっ、ちなみにガリュキンに行く理由は、これからそこで開催される、ゼルルド国の中ではとても大きいお祭りである『豊穣祭』に出席するため。A級貴族であるシェルト・マーキュリアルは、毎回顔を出さないといけないらしい。
全く、一昨年前はこんな場所に立っていることすら知らなかったはずなのに、本当に凄い。胆力というか、行動力というか……尊敬できる、凄い。
俺の家はB級貴族だから出席しなくても良い。家族も今年は来ないらしいしね。まあ三日も領地から離れるのは少し抵抗もあるだろう。
シェルトも言っていた。『フェーセントからも遠いから、基本的に子供が行った方が俺も楽だしシェルトも楽しめるでしょ? ってお父さんが言っていたわ』と。
マーキュリアル家の領地は東のマキア国との国境にあるから(他の国境付近の街よりはずっとマシだが)治安もそこまで良いとは言えない。
……あのお父さんならなんとかするだろう。そんな感じもする。
ああ、一緒に行くことになった顛末としてはこうだ。すごく簡潔に説明する。
シェルト 「豊穣祭に一人で行くことになった」
俺 「なにそれ危ない、俺も行くよ」
シェルト 「じゃあまたよろしくボディーガード」
俺 「いや即決かよ」
はい、四行。簡単に決まった。中等学部生なんてそんなもんだ。考えたらすぐ行動。本当に、凄いことだと思う。
まあ最初は現地合流だとは思ってたんだけど、まさか一緒に馬車で行くなんて……。
そんな最初は、馬車は痛い物だと思ってた。だけどなんだ、この馬車は! 全然揺れない全然、痛くない! すごい、さすがA級貴族の私用馬車!
「でも乗っていいの、シェルトさん? こんなすごい馬車に、俺なんかが乗っても……」
単純に疑問だった。いやだってさ、俺って別にそんな大層なことしてないし……まあボディーガードだからって言われたらそれまでなんだけど、だったら別の馬車を後ろに侍らせればいいだけだし、実際そうやってる家を見たことがある。と言いますか、そんな光景はよく見ている。
これがマーキュリアル家のしきたりなのか? ……まああのお父さんの家なら友達のように接することはわかるけど。
今の俺はシェルトの友達じゃない。任務……いや、約束が終われば俺もシェルトも友達の関係。だけど今は、主従だ。……主従というのは少し違うか? いやでも、少なくとも『友達』とは呼んではいけないだろう。……いけないわけでもないけど。
あー、考えるのは嫌いだ。もういいや、いつもみたいに接してもいいか、別に。不敬斬りされないだろうし────されるとすれば不敬魔法とかか?
「考え中のところ悪いんだけど、私のことそんなに怖い?」
シェルトと二人だけで馬車に乗っているので、俺らの話す相手は一人しかいない。
だから必然的に会話は少なくなる。少し寂しい。
「いや、怖いと言いますか……なんか、ね」
「ほら、私のこと怖いんでしょ。そんなことないのに。もうとっくに女王様は返上したつもりなんだけど……前の私の悪名は、早く清算したいものね」
「いや別に怖いって訳では……」
いやいや────うん、少しまだ怖い。怖いけど、別に嫌いなわけじゃないし。それに俺にとってのシェルトは、女王様のシェルトじゃないから。そこは特に大丈夫なところなんだけどなぁ。やっぱり話すことは難しい。
……話し相手が兄様くらいしかいなかったしね、少し前までは。
──今はセタもいるし、友達もたくさん出来た。
本当に嘘みたいだ。俺に友達が居なかったなんて。……てか覚えている人さえ居ないとか、どんだけ人避けて生きてきたんだよ、俺って感じだ。
会話、とっても難しい。繋げなきゃ、繋げなきゃって思って、脊髄反射で中身虚無の会話なんてしてると、いつのまにか相手の地雷踏んでたりする。それも嫌だけど、一番嫌いなのは間だ。あの空気が大嫌いだ。
「うーん、なんて言えばいいんだろ?」
少し伸びてきた、黒の濃い青の髪の毛をいじる。前の毛が眉毛にかかりそう。夏はもっと短かったのに、なんていう考えで目の前の本題を逸らす。
「髪の毛気になる?」
「そんな感じ、かな。髪の毛早く切らないといけないってことはわかるんだけど……俺、おでこ出るのは嫌なんだ」
「私も、髪の毛かなり長くなってきたから切らないとって思ってはいるんだけど、やっぱり──────だからっ」
やっぱり、長い髪は憧れだったから。そう言って笑うシェルト。
彼女は、髪を伸ばすことも出来なかったのだろう。それか、一切切ることが出来なかったか。
どっちにしろ、踏み入って話すようなことじゃ無い。だけど、彼女を語るには、彼女を構成しているものには、そんな暗い過去もあるのだ。
複雑に言うのであれば、人間魔力炉開発の実験台。簡単に言うのであれば、『奴隷』と言ったところか。口に出してもなんも楽しくは無いし、面白くも無いことだ。
俺もシェルト本人に、断片的に聞いただけだから、過去のことを詳細に分かってはいないけど。
『自由と個人を象徴する旗を、2本の鎖が束縛している模様』。彼女の背にはそれが描かれていた。いわゆる、奴隷のマークって奴。本当に胸糞だ。
でも、よく頑張ってるよなって思う。辛い事しかなかったから、きっと今の幸福をずっと続けたいんだと思う。……なんて事、俺には分からないんだけど。
「わっ、私の顔に何かついてるか!?」
「え、あ。いや、別に。少しシェルトさんのこと考えてただけだよ」
「えっ、うん、ああ。……そうか、それはよかったな」
いや何がいいんですか? 口には出さないけど、今の僕はこんな考えです。
そんなこんなで、会話も続くか続かないかの瀬戸際で、ギリギリ門が見えてくる。
「レプラコーン、やっとだ。やっと着いたぞ……」
「そうだねシェルトさん。結構長かったもんね」
朝6時、少し薄暗い中チェリスカから出てきて、ガリュキンに着いたのが昼10時。お腹も空いてくる頃だ──それは言い過ぎか?
「まあ、ついにって感じですね」
いざガリュキン! って感じで興奮を隠せない。なんせここは国の中心。最新のモノはここに集まると言っても過言ではない。
うまい飯、それもここにあるのだ。青い服─マーキュリアル家親衛隊の服だ─を着ているので、俺がこれから行うのは、一応公務的な奴なんだろう。
でも、だけど。俺は、この想いだけは譲れない!!
「シェルトさん……」
「何かしら、レプラコーン。そんな真剣な顔して?」
言わなきゃならなかったことだった。こんなに、この言葉を言うのに、本当に勇気がいるんだ。
「シェルトさん」
「え、いや、なっ何? え、待って。本当に何!?」
懇願の目、絶対に反対させないようにズルするけど、いいよね。
「いや顔近いよレプラコーン!? どうしたの、ねえどうしちゃったの!?」
そして、本当に言いたかったことを言う。ここまで、長かった。そう感傷に浸る。これまで、沢山の修羅場があった。死線があった。でも、切り抜けてきた。水面下でも、一度彼女を死なせても。
覚悟は決まった。もう、退けない。
「シェルトさん」
「っな、何かしら!?」
だからこれは、別に言ってもいいよね?
「────お昼ご飯……俺が決めても良いですか!? どこで食べるか……とか!!」
「えっと、うん。……え、そんなこと?」
シェルトは本気で引いていた。
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2週目のシェルトちゃん回、存分に楽しんでください!




