62 己を貫く時、力が示される《後日談》
後日談
エルとセタとホールズ、性質の違う三人のお話
────────うっ……、んあ。
「ばはっ! ……はあ、あれ?」
勢いよく飛び起きる。ここはどこだろうか。
確か俺は、ロッゾをぶん殴ろうとして……、えっと?
周りを見渡す。ここは大きな書庫の中みたいだ。周りに沢山の本が散乱している。だから多分ここは──。
「起きた?」
声が聞こえた。上手く頭が回らない。首を回して顔を見る。
「うわ、ホールズか」
「うわとは何だ。せっかくお前の看病と、お前の連れの教育をしてやってるというのに」
傲慢な態度のホールズだったが、前会ったときよりも少し丸くなったみたいだ。
「連れの教育って……て! セタじゃないか! どうして普通に人間として歩いて本取ってるんだ!」
「あ、あーエルくん。お目覚めかい?」
お目覚めかい? じゃねーよ!
「なぁ、どうして緊急事態の時に出てきてくれなかったんだよ!」
「緊急事態? こっちでも魔力障害起きてて大変だったんだよ! 急に外の世界と連絡取れなくなるし、プッツリ意識が飛んだみたいになって、気がついたらこの部屋で僕は、実態として歩けちまうようになってたんだ!」
セタの言うことには、どうやら昨日の夕方から半日以上魔力障害で出てくることができなかったらしい。
そして、倒れている俺と共にこの書庫まで運ばれた……。
「倒れていた……か」
記憶が曖昧で、上手く整理できない。
そう思って俺は、左肩をさする。
「ああ外傷はなかったよ、レプラコーン。傷の一つもなかった」
「ん……? ああ、そうだっけ?」
確か俺は肩を脱臼していて。そしてその後、反対側の腕が……
「左腕……ちゃんとあるよな? いや、あるだろ」
「なーに言ってんの、エルくん。そんなことがあったらいち早く僕が気づくって! 魔力障害って言ったって、僕たちの繋がりを断てるほどのものじゃない、と思う。それこそ繋がりがひとつも無くなってたんなら、今エル君は死んじゃってると思うよ」
「死ぬって大げさすぎんだろ……現に俺こうやってピンピンしてるし」
死んでいる。その言葉が、やけに引っかかる。
正直今回は、死ぬかと思った。ロッゾにユノちゃんとの関係を絶たれ……。
「そういえばユノちゃんは?」
「大丈夫、ワロキアは無事。でも今日は外出禁止命令が出たってよ、寮に連絡なしで門限大幅に破ったからね」
あーやんべ。そういえば寮にも帰ってないんだった。後でこっぴどく怒られるとするか。
「少し話すけどいいかな、レプラコーン」
頭のモヤも少しは楽になってきた時、ホールズは話しかけてきた。
「……ん、まあいいよ。セタもまだ帰りたくないだろうし」
「そうね。あなたがこの部屋を出れば、必然的にあの異邦人もあなたの魔力に引っ張られてしまうから。自分の足で歩けるのは、ここでだけ」
彼女は、真実を教えると、そう言った。
「ここであなたを守っているのには、理由があるの」
理由。それは俺が怪盗に狙われるから、だと言うことだ。
「どうして、俺が怪盗に? それこそ魔導書とか持ってないし、アストやシェルトみたいにA級貴族でもないし……まあ、俺の家の家系図を探してた人ならいたけど……」
はあ……とため息をつかれる。
「レプラコーンには自覚がないんだね。……まったく、どこから話せばいいんだか」
そう言って頭を抱えている。自覚、と言われても何のことやら。
「もしかして、金の目?」
ロッゾが言っていた、金の瞳の運命に選ばれた子。
それが……俺?
「まあ多分、そこもあなたの特異性だけど。……本当に何も覚えてないの?」
「覚えてないって言うか……覚えておくものがない? みたいな」
中学2年でやっと、アストという初めての友達ができたくらいには、俺は外向きではない。覚えてるのは家族との記憶のみ。
初等学部にも通ってはいたものの、その記憶は曖昧でどこか抜け落ちてる。
主に、自分のこと以外の何かが。
「覚えておくことがない……か。そこの異邦人、心当たりは?」
ホールズはセタに助け舟を求める。だけど帰ってきたのは、とっても素っ気ないものだった。
「僕にも分からない。僕は、過去の話をしたくないんだ。それも……僕には知る由もない、ファンタジーな危ないものなどの産物のせい……とかじゃないかな?」
「……そういうことか、ありがとう」
ホールズは1人合点をして話を続ける。
「あなたが狙われている理由は、あなたに『魔女の力』があるから」
『魔女の力』? それってシェルトの持ってる……。
「……マジ?」
「そのマジです。レプラコーンは自分の力に気が付かなかったの? 魔女からの問いかけは?」
「気づかなかったが? 俺自身、なんの違和感も感じないよ。俺の中にいるのは俺と、セタだけだ。他のやつの問いかけなんて受けたこと無いな……?」
ホールズは頭を抱えてため息をつき、俺に変な奴を見るような目を向ける。
「じゃあ、まず説明からさせてもらうわ。レプラコーン、あなたの体内に巣食う魔力は複数ある」
一つ目は俺自身、エルヒスタ・レプラコーン自身の魔力。バチバチと火花散る荒ぶる魂、稲妻のように駆ける魔力。
二つ目はセタ・シンノスケの魔力。
「彼の魔力はお世辞にも良いものとは言えない。……まあそれは、魔力に触れてこなかったからだろう」
「そういえばニホンって、魔法なかったんだよな。……それにしちゃ凄い技術ってやつなのかもしれないけど、回復魔法無いのは不便だよな、あれ」
純粋で何にも染まっていない、空色の空白の魔力。
「そして最後、三つ目。……これが魔女の魔力」
「詩的な感覚だけど、独特な花の匂いがする」
「花の匂い……? いや俺匂いなんてないけど」
体を嗅いでみるが、それらしき匂いなんてしない。……はっ! もしかして体臭!?
「今のあなたを嗅いでも、何にも匂わないわよ……。その匂いは力を使った時にだけ出るからね。だけどそもそも、自分の匂いなんて自分ではわからないものだよ、レプラコーン」
「……力を使ったか。で、それが何だって言うんだよ。確かにそれがあるから狙われているってのは、俺でも理解できるよ。でも……やっぱ実感湧かないなぁ」
俺がシェルトと同じ、魔女の力を持った者だってこと。
「エルヒスタ・レプラコーンは魔女の力を持った存在だ。それがこの戦いで確定した。だから怪盗は、君の力を求めてやってくる可能性が高い」
今までよりも、より苛烈に、より強い奴らが……俺の力を奪いにくる。
「きっと生死さえ問わないでしょうね。それに、もし無傷で魔女の力を奪われたとしたら、きっと君は暴走する」
「暴走……か」
暴走。その言葉が怖かった。思い出すのは夏祭りのガーメス。毒の召喚獣に食われ、自ら怪物となってしまった。
俺も、もしかしたら。
「だから、提案よ」
彼女は事態を重く受け止め、そして俺に最善策を叩きつけてきた。
「ここで過ごしなさい、エルヒスタ・レプラコーン」
それは、この書庫で匿われろ、ということだった。
「あの異邦人がいれば、私が離れてもこの書庫は閉まらないし、正規の手順ではここには来れない。もし魔力障壁を突破されたとしても、私がすぐ戻って対処できる。ねえ、あなたの力は、そうすれば保たれる」
策に乗る方がいいのだろうか。
「学園には、行けるのか?」
「大丈夫、行けるわ。あなたは寝首をかかれなければいい。逃げる場所があればいい。この学園内にずっといるなら、一度この書庫から外に出ても、私の力無しでも、またこの書庫に逃げ込めるの。望めば、この学園のどこからでも」
彼女の言う通りなら、寮に帰るとここには来られなくなってしまうということだ。
「だけど……この校舎から一歩でも出たら、あなたは私の知覚できなくなる。この部屋に来ための手順が増えて、あの扉からしか出入りできなくなる」
悪くない提案、だと思う。自分の身を守るためなら、ここにいるのが安全だろう。
「ここなら静かに勉強もできる。ワロキアへの指南の傍、私が専属で勉強を見てやってもいい」
悪い提案では無いと思うけど。神代の魔術師はそう言った。
だけど、やっぱり、俺は。
「どうして、ここまで手を貸してくれるんですか?」
「決まっている。あなたが、私と同じ力を持っているから」
「なら、お断りさせてください」
葛藤は確かにあった。自分ではなく、自分の力が守る対象だと言われても、何の不快感もなかった。実際、ガワなんて魔法で変えられる。
「『力が、己を示す』って、聞いたことがあります。ホールズさん……俺は、あなたを尊敬しています」
力が己を示す。ホールズの侍女だった人が、ホールズの死んだ後に書き綴った伝記の一節。神代、ホールズ家の当主となった魔術師が、世界に向けて言ったとされる言葉だ。
『人の外側に価値は無い。あるのは人の功績と罪悪のみ。故に人には価値などない。あるとしたらそれは、力によって自分の道を捻じ曲げる人間だ。力によって、己を示さんとする愚者だけは、世界でも変える力があるんだろう』
「尊敬……か」
「だから俺を、己を貫きます。たとえ俺自身に何の価値がなくても、自分の道を選びます。そして──」
信念を、見せる。
それが俺を貫く意味。肯定でも、否定でも無い。他人のためじゃ無い、自分の意思を曲げない力。
「──貫くことで……俺の力を、示します! 『魔女の力』なんかじゃ無い、俺の力を、俺の手で。だからその提案には乗れません!」
ごめんなさい。と、締める。
「負けたよ、レプラコーン。君の信念は素晴らしい。悪かったね、私情押しつけて、勝手に弱い奴だって決めつけてしまって……」
「そんなことないですよ。まあ本音は、ここで一人勉強に耽るより、寮にいた方が楽しいからってことなので」
「そっちの方がファンタジーみが溢れてるだろうしね」
そして勝手に話に入ってくるセタ。今回ばかりは賛同できる。
「まあそうだな。こんな場所って言うのはなんか違うけど、でも外よりファンタジーは感じられないもんな」
彼女は、変わったんだと思う。彼女の言葉は、そんなことを言おうとしているんだと思う。
「私は、君たちの言うファンタジーっていうのは理解できないけど……でも、それはきっと」
今の自分を見つけたかのように。人間味のある、とても優しくて明るく、憑き物が落ちたかのような、本物の笑顔で満開した。
「──きっと、とっても胸躍るものなんだろうね!」
五章終幕
約3ヶ月、手を離していた時期もありましたが、やっぱり創作はとても楽しいですね
自分の子供の様です
あっ、よろしければ☆ポイントや感想をよろしくお願いします(乞食)




