40 きっと愛ってさ《後日談》
チェリスカへの馬車を待つ俺は、何故か隣にいるデルシャに疑問をぶつける。
「で、デルシャは結局何を盗りにきたの?」
俺はまだ引きずっているのに、デルシャは昼のことが無かったかのように平静にして、ある1枚の紙を取り出した。
「これはレプラコーン家の家系図。お母さんに用意して貰ったノ☆ 欲しいって聞いたら複製品をくれて、どうして簡単に家系図なんて渡すのかって聞いたら、『エルヒスタの未来のお嫁さんなんだから、家系図くらいは渡せる』って……」
お母さん勝手に未来のお嫁さんとか言ってるなよ。デルシャは怪盗だから、順当にあいつらの復讐が続いて、俺もその戦いに巻き込まれるのなら、俺はこいつのことを殺さなくてはいけなくなってしまう……かもしれないのに。
かもしれないのに、俺は。
「本当のお母さんだって、思ってくれているんだね」
だめだ、もう会話を終わらなければ。
「あア☆ 少なくとも産み捨てたやつより、勝手に死んでいったやつよりは、お前の母親をお母さんだと思うヨ……」
はやく、止めろ。止まれ、俺の口、心、体、全部。
「デルシャはどうして家系図なんか必要だったんだ?」
そうでないと、俺は……こいつを殺すことが出来なくなってしまう。心を鬼にして、体を冷たい鋼にしても、こいつだけは──殺せなくなる。
「レプラコーンという家名に、違和感を感じている人がいたかラ。今残っているレプラコーンの苗字を使う人はお前達の家族七人とあと二人だけだよナ?」
……たぶんそうだ。俺は心を落ち着かせた。レプラコーンの苗字は、父が一人っ子なので俺達家族とじいちゃんばあちゃん──つまりこの一族しかいない……少なくとも、この国には。俺が家族以外の人間を知らないのと、本気で調べたことは無いので、限りなく多分だけれど。
「怪盗には、レプラコーンの家名を使う奴がいる。そしてそいつは、レプラコーンの家名の人間を探していル☆ それがどんな人間でどんな時代に生きた奴なのか、パパに潜入捜査しろっテ☆ これからの激化する活動に耐えられるようニ☆ だから、奪うんじゃ無くて貰うんだよ。これも一種の盗り方だってサ★」
レプラコーン家の家名……もしかして、家に私怨がある人がいるのか? 分からない。貴族なのだから誰かからは恨まれているだろうけど、少なくともミゼリコル出身じゃないと思う……てかそう信じたい。
「ああ、時間カ☆ なあエル、次に会ったらお前は敵ダ★ お母さんの子供だからって、手加減はしない。私たち怪盗に仇を為すなら全力で、切り伏せるかラ」
「ああ、分かってるよ。俺も殺す気だから」
目の前の女の子はゆっくりと言葉を吐いた。
「……殺せるもんなラ、殺してみろヨ★」
「エルヒスタ──少しだけ、一つ言うけどいいカ?」
俺はデルシャの言葉を、簡単には受け取ることができない。短い間だったが、一瞬だけかもしれないが、俺達はお互い同じものを守り、そして共に戦う仲間で、家族だったんだ。意志が揺らぐのを感じる。
「どうぞ」
「お前も怪盗にならないカ?」
ああ、そうだった。こいつは、目の前の女は敵なんだ。今ここで、もう一度理解することが出来た。感謝しなければ。俺の生きる道を、もう一度示した怪盗に。笑顔で。
「おととい来やがれ水着痴女!」
☆★☆★
馬車に揺られてチェリスカを目指す。今はその道中にある小さな街で宿を借りて、明日の朝出発するために準備をしているところだ。
ベッドに寝転がりながら、今日のことを振り返る。そして思った。
「愛は人それぞれ……もしかしたら、デルシャの言う愛って奴も、歪んでいても愛なのかな……」
『そう思ことで平常心を保とうとするエル君であった』
変なモノローグマジでうざい。
「なあセタ……今は失せといてよ、耽ってんだから」
『ちょっと言葉が辛辣じゃないかなエル君?』
「ああ、それは……悪かった。でも──」
『でも?』
「でも、俺は思うんだ。どう生きるかが大事なんだって。どこで生まれたかなんて関係ないんだって。……俺が貴族だから言えるのかもしれないけれど、そうだって思うんだ」
きっと、生まれがデルシャと同じだったら、俺も同じ道を歩んでいたのかもしれない。でも今の俺が、今の俺なんだ。哲学的になるけど、それは譲れないものなんだと、それだけは確かに心にある。
『難しいこと考えてないで寝ようぜ、明日早朝に出発しないとチェリスカ着けないぜ?』
分かった、とセタに言ってから目を閉じる。デルシャは、どんな人間で、どんな世界を見て……今、どんな地獄に居るのだろうか。彼女の瞳には生気が無かった。彼女の声は感情が薄かった。彼女の腕は、打撲痕のようなものが、刺し傷が、切り傷があった。沢山あった。死んでもおかしくないくらいの数の傷が、過去の様に彼女を蝕んでいたとしたら。
彼女は幸せなのだろうか。自意識過剰だが、もしも彼女が助けを求めて来たのなら、どうすれば良いだろうか。もし彼女を救える力が俺にあったとしても、彼女は──
──怪盗の彼女は、救われて良い存在なのだろうか?
心の裏。そこには愛が宿る。友愛、恋愛、家族愛、兄弟愛。愛は力であり、呪いであり、自分自身の過去である。命を懸けた、想いと想いの激突。愛のために戦い、誰かのために命を懸けるのは異端なのか。問いの答えも見つからないまま、少年たちは不条理に抗う。暗闇の中未来を目指し、大切な誰かと共にあろうと。
全て失った少年。愛のために自分を隠す少女。愛に悩み、愛を憎む少女。親友の愛に泣く少年。兄との確執、愛を知らない少年。愛を憎み、愛に悩む少年。愛を欲する少女。愛を受けず、愛に裏切られた少年。
────そして愛する人のため、悪の道を選んだ男。
彼らの『愛』をめぐる戦いと、それを取り巻く日常の物語の序章が始まる。
救いとは、『愛』から解放されることなのだろうか?
☆
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