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俺にファンタジー世界は早すぎたみたいだ  作者: ノエル・L・ファント
三話 未だ子供の少女→愛と恋と親と子と
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38 私をなめるなヨ

「デルシャ危ないっ!!」


 イノシシの攻撃を躱しながら、お母さんを守って攻撃する。デルシャの魔法(八岐ノ大蛇(やつまたのおおへび))は周りの家とかに、余計に被害が出るから極力辞めようと二人で一瞬話し合って決めた。俺の魔法は大丈夫だと……思う。


 何とかデルシャは攻撃を躱したものの、確実に疲労でダメージがかさんでいる。このままじゃ……不味い!


『エル君、僕やって良い?』


 セタが俺に合図を仰ぐ。……魔力を出し惜しみしている暇は無い。まだ完璧には出来ないけど……やるしか無い!


「頼む」


 小声で言った。『任せろ』と、声が響く。


『『穿て、【閃光】』!』


 光の一閃がイノシシにヒットする。今度は効果があったようだ。目の前の獣は、デルシャの方に向いていた体をこちらへ向けた。


 ただ、今詠唱したのはセタ・シンノスケだ。セタは、俺の魔力を使って魔法を放った、詠唱をして。そう、詠唱するのは俺じゃなくても良いんだ。前回、デルシャとの戦いのことを振り返ったとき、確かそんなことがあった気がするって思って、練習したら出来た。いつもより力は弱いんだけれど。


「精一杯守ってね、セタ。はぁ……」


 深呼吸。その後両手を前に突き出し、自分の体内に巡る魔力を一点に集中させる。この魔法は不発なんて出来ない。全弾イノシシにぶつける。そういう意気込みで魔力を、精神を一点の方向に整えていく。そして、詠唱。俺が出来る、今最大の魔法をぶちかます。


「『光る円環、鳴る冥音

黒い(いかづち)、轟く紫電

回れ、響け、貫け、叫べ

光り輝く稲妻の彗星となって敵を喰らえ【光芒轟雷(こうぼうごうらい)】』ッ!!」


 セタの魔法の援護のおかげで、4節もある魔法の詠唱も比較的精神力を込めることが出来る。……この魔法であいつを穿つ!


 【光芒轟雷】。彗星が尾を引くように無数の閃光が、雨のように轟いて対象を刺し刻む雷属性系魔法。その中で上位の威力を誇る強力無比な雷。流石にこれをくらったんだからイノシシごとき……ごとき?


 イノシシは生きていた。


「何で普通に生きてんだよ……このクソ猪ッ!」


 魔法に当たったところが回復していた。何個が切り傷があるが、それは多分俺の魔法で付けた物じゃない。化け物が咆哮する。


「エル、大丈夫か……?」


 デルシャが助けに来てくれる。有りがたい、魔法の反動で体の中がグルグルと変な魔力の巡りになって立ちにくかったから、こうやって支えてくれるのは凄く嬉しい。というか優しいなデルシャ。怪盗とは思えないくらいに……


『おいエル君、お母様は!』


 あっ、まずい! あのクソ猪はもうすでに突進を始め、お母さんを殺そうとしていた。


「走れエル! 全力でッ!」


 ああ、デルシャも多分無理だ。ここまで焦っている、届かないからだろう。


 冷静になってしまった。思考を始めてしまった。こっから、どうするか。助けられる方法はある。あるんだ。だけど今の俺の状態じゃ無理なんだ。ちくしょう、やっぱり……


「走るしかねーじゃねーかっ!!!」


 無理だと分かってしまった。俺じゃ駄目だって気づいてしまった。


 だからなんだというんだ。


 別にそれでもいいんだ。走るんだ。行動は起こさなければ意味が無い。助かる方法なんて、走った後で考えろ。今は、目の前の敵に走って跳べ。


「「うぉぉぉらぁぁぁ!!!!!」」


 結果だけで言えば、お母さんは助かった。でも、助けたのは俺達じゃ無い。


「おぅ、坊ちゃん! こんなデカブツ相手にしちゃようやったなぁ!」


 ぞろぞろと路地から、家から、店から飛び出してくる老若男女の皆々様。


「みっ……皆さん!」


 レプラコーン家は武道の名家。それはミゼリコルの土地柄にある。ミゼリコルはもともと、武道と共に栄えてきた。戦うことで強く、賢く、逞しく栄えてきたのだ。そう、ミゼリコルの住民の殆どが武道を囓っており、またかなりの人が強者として名を馳せたもの達ばかりなのだ。


 因みに今来て助けてくれたのは、街で一番栄える魚屋の普通のおじさん。……普通のおじさんだろう。


「お嬢さんもよく頑張ったな……後は俺達に任せな!」


 今度は金属細工の工房を持っている……ただの気の良いおっちゃん。多分。


「どうして、どうして助けてくれたノ!?」


 デルシャが困惑して声を荒くして言った。それに反応したのは斧を持った女性。斧を持っていながらも、とっても優しい声で言った。


「誰かを助けるのに、困っている人を助けるのに、理由なんてなにも要らないのよ?」


 言葉を失ったデルシャ。苦くて不安そうな顔をした。次に声をあげたのは俺より少し上くらいの気のよさそうなお兄ちゃん。もちろん、俺は全く顔も知らない。


「俺達ミゼリコルの奴らを、なめて貰っちゃ困るぜ、旅人の姉ちゃん。誰かが困ってたら、それを一緒に背負おうと、お節介するのが俺達の趣味……ってか人生だからな」


 戦っている彼らを見て、デルシャはため息をつきながら呟いた。


「何で皆はこうやって、親密でもない人を助けようとするの?」


 そっか、デルシャはそういう奴だった。そう、だったに今から変えるんだ。


「見栄はってるのか、虚勢なだけなのか……でもみんななら、力を合わせれば出来る。助け合いって奴だよ」


「そっか」


 デルシャは微笑んだ。見るからに、心から。


「これも、1つの愛なんだね」


 そして今度は、満面の笑みで叫んだ。


「お節介を焼くなんて。私だって戦う、私を……なめるなヨ!」


 笑って、心から楽しんで、イノシシリンチに自分から飛び込んでいった。


 イノシシをぶっ殺したので、帰りが昼少し過ぎになってしまった。サプライズパーティーは、母の計らいでデルシャも出席することになる。

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