33 大人びた子供と出会った日
9/14 ある部分のセリフを変更しました(知る権利と守秘義務の拮抗でこういう形のアナウンスです)。
私には、ずっと昔から気になる人がいる。その人は優しくて、格好よくて、ミステリアスで……少し怖い。でもなぜか、とても、彼のことを意識してしまっている。一昨日、新しく出来た初めての友達に『惚れ症』っていわれちゃったし、私もそうだって自覚してるけど。彼のことだけは、特別に……
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お出かけ日和のチェリスカ市内。とある喫茶店のテラス席に座っているのは、深刻な顔をしたユノ・ワロキアとその話を聞いているシェルト・マーキュリアル。あと……
「なんであなたが聞いてるのよ、ロンダー」
ソウイチロウ・ロンダー。もうすでに夏だというのに、長袖の羽織を着た彼も、女子会に勝手に参加していた。男なのに、紛れもない男なのに。
「まあまあ、いいでしょ別に、ついてきたっていいでしょさぁ。ちょっとした暇つぶしだから」
彼の住んでいるところは寮でも個別の屋敷でも無く店だ。『呉服屋 ハナミチ』と言う所で働きながら学校に通っている。まあ、殆どのC級以下の貴族の生徒達は殆どがどこかの店などに住みながら学校に通っているのだ。因みにユノは他家の資金援助で寮住み、ここには居ないがギルカは他の階級が高い貴族の屋敷に住まわせて貰っている。
今日の午前ユノとシェルトは、チェリスカの夏祭り『灯祭』に思いを馳せて、二人でアルスフェイルの民族衣装である『浴衣』に興味を持って、それを買いに行こうと呉服屋ハナミチの暖簾をくぐったのだが……。そこにいたのが仕事上がりのソウイチロウだったのだ。で、ウザ絡みされて今に至る、と言うことだ。
さっきの言葉にシェルトが反応する。
「ユノに刃物向けた屑野郎がよく言えたもので」
「いや、ちょっと女王様辛辣過ぎませんか……?」とその威圧感にビビるソウイチロウを横にして、ユノは小さくため息をついた。
「……えっと、リンドルードくんのこと、ですよね?」
少し前、まだソウイチロウが同席してはいなかった時、つまりまだ街を歩いていた時にシェルトは、ユノに対する少しの疑問を解消しようと思ってこの話題を振っていた。
「そう、よ。……彼とは、許嫁って本当のことなの?」
沈黙がゆっくりと走ってくる。このことは、ソウイチロウも知っていた。だからやけに騒がなかったし、逆に騒いでいたのが止まったとも言える。
「本当だと思うよ。だってさ、テルオ本人から聞いたから」
「ウソついてるかもって思っちゃって、後は言わされているとかね。まあ、そんなバレバレな嘘なんてつく意味も何も無いだろうから、一応確認だけね」
ユノはその唇をゆーっくりと、溜めるように、何かと戦っているように、開いた。
「そうです」
「ならなんでっ、彼に殴られたりこの屑野郎達に虐められてたりされていたの! 許嫁ならそんな行為止めにかかる!」
立ち上がって、喫茶店に響くような大声で声を上げたシェルト。自分が何をしたかにいち早く気づいて、軽く謝ってから席に座る。
「……」
ユノはただ黙りこくるのみ。何も話そうとはしてくれない。シェルトはそのユノの行動を見てなぜ黙ったままなのか、その理由を2つ考えた。『ロンダーがいるから話づらい』、または『まだシェルトのことを信用していない』。そのどちらかだと。
「多分さ」と、ソウイチロウが小さな声で呟いた。
「いや、絶対。……うーんとね、テルオはこれ以上傷付いて欲しくないから、ユノちゃんに意地悪するんだと思う。まあボクは完全に流されてなんだけど……。女王様が思っているほど、トゥルオーラは頭のおかしいやつじゃないよ。あの人はあの人なりに、テルオなりにちゃんとした矜持をもって生きているんだと、ボクは思ってる。まあ、ボクにそんなものは無いんだけどねっ?」
ソウイチロウは笑った。優しい笑顔で、母のような包み込むような、そんな朝日のような笑顔で。
「そうよね、ありがとうロンダー。それに、ユノ。ごめんね、聞くようなことじゃなかった」
「そっ、そんなことないですっ! 私はっ、私は……。二人にちょっと、救われた気がします」
その言葉を聞いて、3人が笑った。美しくて明るい笑顔で。
そしてその夜、ユノは思い出していた。召獣結晶を見つめ、寝間着を着てふとももの上に本を置きながら、トゥルオーラ・リンドルードと出会った日を。初めて会ったときから許嫁で、まだも何も、許嫁の意味も何も分かっていなかったその時ですでに、彼は他の人とは違っていた。家族とも、本とも、周りのイヤな貴族達とも違った。彼の第一印象は『大人びた子供』だった。
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私が花を摘んでいると、見知らぬ男の子が近づいてきた。
「だれ?」
その男の子は、何やら難しいことを言ってきた。と、思う。
「お前、だね」
思い返すとまだ私は5歳、彼は6歳だったから、何にも分からない状況だった。
「花を摘むのって楽しいの?」
私は、楽しいなんて考えていなかった。母には『女の子はお花畑で遊んでいれば良い』ってそう言われていたから、別に楽しいなんてこれっぽっちも思っていなかった。
「たのしいよ?」
そう言ったが、彼は私の心を読んだみたいに言葉を返してきた。
「……嘘つくの下手だね、お前。まあ、子供だから当たり前か。オレも子供だけど」
父には『肯定するのが最善』と言うような趣旨の言葉を教わっていたから、必ず賛同していた。違くても、こうしていれば大人は何も言わない。言うとおりにしていれば、絶対に見放されることは無い。5歳でありながら、私はそんなことさえ考えてしまっている、悪い子だった。
「ああ、そうだった。オレの名前はトゥルオーラ・リンドルード。お前は?」
とっても大人びていると、咄嗟に思った。
「ユノ……ユノ・ワロキア! 私の名前っ! ユノ・ワロキア!」
「うっさい分かったよユノ。父さん達が呼んでいたから、一緒に行こう」
手を差し出してきた。私はそれに掴まって歩き始める。ひとつまみの花弁を持って。
「ねえ、テルオーラ!」
「何だよ、ユノ……てかテルオーラじゃなくてトゥルオーラな……」
名前を呼ばれて嫌そうな彼に、私は無邪気に最大級の笑顔で言った。
「友達になろっ!」
「うん。友達になろう」
でも、私は彼と友達になれなかった。彼との心は、離れるばかりだった。それは、つい最近だって起きた。……フェーセントの時も、そうだ。私がまた、無茶をしたから。約束を破ったから。彼はまた、打たれ倒れてしまったんだ。
……もっと、強くなりたい。誰かを守れるような、それこそリンドルードくんと背中を合わせて戦えるくらいに、もっと強く。
──もっと強くならなくちゃ。愛している人のために。




