22 怪盗“リヴス”と穢れの魔法使い
「ふぐぅ! っな、エルヒスタ、なんで殴った!」
四人が霧に飲まれたそのとき、トゥルオーラとユノには霧を見ることができなかった。
「えっ、エル先輩! まとまりましょう!」
「そうだ、止まれエルヒスタ、走るな!」
そう、召喚獣の能力が働いているエルとシェルトを見ると、二人はまるで走って何処かへ立ち去っていくように見えている。
なぜなら彼らは、召喚獣の能力による干渉を受けることができない、即ち彼らは召喚獣の能力が働いていると言うことを体で感じることができないからだ。が、トゥルオーラはこの状況から召喚獣の能力が働いているのだと理解した。
「戦力を分けて潰すっていう戦法か。超ヤベー……!」
余裕を持て余した表情で、ボソッと。
そして完全に二人の気配が消えたとき、トゥルオーラとユノの前に、誰かが降ってきた。
「やあ、こんにちは。……この中に魔女は紛れているかな?」
派手な服装をした男は気さくに挨拶をする。
「あっ……この人! 私に魔法書を売った人だ」
ユノは目の前の彼の正体にいち早く気づく。そしてユノの声を聞いてトゥルオーラも、ユノに遅れてこの男が『怪盗』だと判断した。
「ワロキア、超絶対に下がってろ」
そう言って釘を打つトゥルオーラ。その目はまだ黒いまま。
「ここにお目当ての人はいませんよ、怪盗さん?」
「へぇ、それはまだ分からないさ。なにせ、私が1番見つけたいのは魔女じゃ、無い」
お互いの弱点、ウィークポイントを探るような、不快感を抱く会話の間。
次に言葉を発したのは怪盗の男。
「まず私から名乗ろうか。私の名前は……そうだなぁ、“リヴス”。と言うのが良いのだろうけども、ねぇ。こう言えば一発で分かるってことを言おうか。多分、私の勘とその他諸々の感覚が正しいのなら……あるいは、ね」
そう言ってリヴスはある一人の名前を口に出す。それは、トゥルオーラの過去の過去に、とても密接な名前。
「……モルエルシード・レプラコーン。私の名前では無いんだけれど、わかるかな?」
「モル、エ、ル……? ッ! シー、ド……だと!? てめぇ、今何って言った……!?」
「あぁ……ふふっ。私は、モルエルシード・レプラコーン、と言ったよ。へー、男の子の方には心当たりがあるのかな?」
トゥルオーラは目の色を変えて取り乱した。まるで最愛の人を殺された時の、悲痛の裏の激しく燃える復讐心のように。そこにあったのは、トゥルオーラの怒り。
「てめぇ、モルエルシードのことをどれくらい知っている? てか、何故知っている? 歴史として知っているのか、あるいはその本人として知っているのか……」
ただしまだ理性は、話を聞いて本物かどうかを確かめる位は残っているらしい。
が、彼の次の言葉を聞いたトゥルオーラは、
「どれくらい、かぁ~。……、……うーん? 私はその人が大嫌いさ。どんだけ殺しても生き返って刃を向けてくるんだ、オレさえ切れないなまくらのくせに―――
「そうか後者か、もういい。お前はオレが超殺したい奴だってことはわかった。だから、」
「死ね」
魔法を唱えながらリヴスに突進した。
「リンドルードくん! むやみやたらに突進はっ……」
「超黙ってろワロキア。これはワロキアが関わる問題じゃない。後ろで何もしないで待っていてくれ」
「そうだねぇ、そう来なくっちゃモルエルシード! 今回は私を裂くことができるのかねぇ!」
「『knnodr【ソードダンス】』! こっちゃ何回もお前と闘ってきたんだよ……なぁ、リシンス!」
彼らの持つ名前では無いが、何者かの名前で呼び合うトゥルオーラとリヴス。二人の目には、戦闘以外の何も無かった。
ユノをおいて、彼らはぶつかり始める。
リヴスは剣の形をした光の塊を難なく避けて、拳の射程距離に入ってきたトゥルオーラを殴る。が、トゥルオーラも拳を拳にぶつけて応戦する。
「弱くなったか? モルエルシード」
「……『knnodr【ソードダンス】』!」
会話は要らないとばかりに、間髪入れず魔法を放つ。そして距離をとるリヴス。やはり、ユノは置いてけぼりだ。
「モルエルシード、なあ、モルエルシード」
「オレをその名前で呼ぶな死ね、『kmnrnot【雷闢】』!」
トゥルオーラから放たれた4本の電撃の柱は、リヴスを囲うように殺しにむかう。
「ふぅん? こうやってやるのが、この魔法を避ける正攻法かな、モルエルシード?」
そうやってリヴスは、電撃の1本に走って、剥き出しの魔力をぶつける。
「まっ、魔力をぶつけた……? 」
電撃の柱が消えた。【雷闢】は1つの魔法で何本もの雷柱を生み出す魔法だ。しかし、その魔法が――術者がどれだけ強くても、普通の魔法の四分の一程度の魔力なら、魔法をぶつけて相殺するのなんて簡単なことだ。
「ちっ、なら、ッ! 『hkrhtt【瞬閃】』、『amnot・rnzk【雨連・氷双】』!」
光線と氷槍の2連撃。トゥルオーラは、焦って――ユノが背中の後ろにいるから、守らなければいけないという焦燥に駆られていた――物量で攻めるように、攻撃をシフトした。
「リンドルードくんは……なっ、何、なの? まるで、まるで。もう何百年も生きているみたいに、扱いの難しい記号魔法を難なく……。ほっ、本当にリンドルードくんは……あの時と同じでっ!」
ユノは、リンドルードと家族がらみの付き合いをしてきた。ある日を境に1つ年上のリンドルードは、ユノから魔法を避けさせている。『少し大人びたお兄ちゃん』だと、ユノはリンドルードのことを思ってきた。会った時はそう思ったいた。でも、これでは。こんな、大人びたで済ますことは、もうできない。──あの時と同じ、彼でない誰かが彼の中にいるような……。
まず、記号魔法とは。難しい詠唱を記号の羅列で略化した魔法で、詠唱魔法の延長線上にある、詠唱魔法の上位モデルだ、上位互換ではない。
分かりやすく言うならば詠唱魔法がエントリーモデルなら記号魔法はハイエンドモデル。記号魔法の方が扱いは難しく、体の内から湧き上がる精神力を魔力に変えて放つ魔法の中でも、無詠唱魔法と並んでトップの魔力消費量を誇る。
それでいて、術者は詠唱のかわりになる記号の羅列を理解し、なおかつそれに意味を持たせなければ、魔法を使うことさえできない。
これが無詠唱魔法であれば、「才能」の二文字で片づけられる。何となく、で唱えることのできる人だって、無詠唱魔法が使える人の中でも大勢いるであろう(そもそも母数が少ないため、そんな人は、本当に人間全体のごく少数なのだが)。
しかし、14歳の、しっかりと学校に通って他の勉強もしている少年が、記号魔法などというものを、習得できる環境を持っていたとしても、使えるなどと言うことは、大抵あり得ないこと。
それにユノは、今のトゥルオーラを知っていた。
「リンドルードくんは、リンドルードくんの心は──『あの人』の言っていた……あの人の記憶が、もうそこにあるってこと、なの──っ?」




