21 合流
「路地出て大通り、右方向三人、左側には人はいないね。じゃあ、エルヒスタ、マーキュリアルさん。今からこの大通りを超スピードで突っ切る、走り抜ける」
家を出て1時間ほど過ぎた……と、思う。低エネルギーで走り回っているからけっこう辛い。召喚獣のせいなのか、晴れているのに街に霧がかかっている。
そして俺とシェルトとテルオは、怪盗と召喚獣を探して街を回っているのだが……
「なあテルオ。聞きたいんだけど、闇雲に走り回ってもどうにもならないんじゃ……」
この街、思ったより広いな。先々代のマーキュリアル家当主がこのフェーセントの街を城壁で囲ませたらしい。そのため、中から外を見ると、城壁で囲まれているこの街はかなり狭く、窮屈に感じる。が、入り組んだ路地などがこの街を広くしていた。
走る。そして、凶人達に見つかったら、無力化していく。そうやって、怪盗と召喚獣を見つけ出す。
そして走りすぎたのか、見つからなくて焦っているのかは分からないが、そんなような理由でテルオの額に汗が浮かび始めた、太陽が真南に昇る少し前だった。
☆
「わっ、わわーっ!!」
悲鳴。人間の。おそらく凶人では無い、まだ召喚獣の能力が働いていない人間の。その声の主に、いち早く気づいたのはテルオであった。
「ワロキア? まだ動けるのか!」
ワロキア……、ユノちゃんか!? 俺は確かめるように声の聞こえてきた方角を向く。そこには……
「たっ、たひっ! 助けで~!!!」
涙ぐみながら、凶人達に追いかけられているユノちゃんがこちらに向けて走ってきていた。
「ユノちゃん! 助ける!『穿てもごもごっ、」
「待って、エルヒスタ。オレがやる」
そう言ってテルオが俺の口に口に手を被す。もちろん俺は、詠唱を――魔法発動のルーティンを――中断させられてしまったので魔法を発動させることはできない。そして、『俺がやる』と言ったテルオが魔法を発動させる。
「『knnodr・sbrttkmer【ソードダンス・パライズバインド】』。ワロキアには……絶対に、触れさせない」
追ってきていた凶人達が、剣の形をした光の塊で貫かれ、痺れていく。
そしてとうのユノちゃんは、三人の前でゆっくりと走ることを辞めた。
「大丈夫、ユノちゃん!」
俺がユノちゃんを気遣って近づくが、
「ワロキア。今までどうやって逃げたんだ? 魔法も使えないお前が。どうやって?」
またもやテルオに止められた。……そういえばこいつ、ユノちゃんいじめてたよな……ギルカは殴ってたし、ソウイチは刃物突き付けてたし……。うーん。昨日の行動を見るに悪い奴では無さそうなんだよなぁー。
ユノちゃんがぼそっと言う。
「……魔法、使いました……」
「は?」
その返答にテルオは怒鳴るような口調で、
「は? 何故? ワロキア……魔法は、魔力は穢れているって言ったよな。お前は世界の中心だ。穢れに触れると、魔力に触れると、どんどんどんどんワロキアは醜く不浄の存在になる。それはダメだ、ダメだ。今すぐ辞めろ、お前には魔法は使えない!」
……俺は、テルオの言葉が理解できなかった。
「なあテルオ。不浄? 醜悪? そんなはずが無いだろう。魔法は、魔力は神秘だ。美しく、高貴な存在なんだ。分かるだろ!? 人間は、魔法と共に発展してきた! ユノちゃんが世界の中心? 意味が分からないね!!」
テルオは、こちらを向いた。そして、言い放つ。その言葉は、俺と似て、非なるもの。
「神秘だと? 超あり得ねぇ。『魔法と共に発展してきた』だと? ふざけるのも大概にしろよてめぇ。魔法は今の状態を書き換えて、自分好みに変えてるってことはわかってるんだろ? それは俺達を不完全に作った神への否定だろ、超考えてもよ。そして、ユノ・ワロキアは完璧、最美なんだ絶対に。そんな人が神を否定するのか? 魔法を使って穢れていくのか? 違うだろ……」
その頃、二人が口論している所の端では……。
「シェルト・マーキュリアルだ。よろしく」
「ゆゆっ、ユノ・ワロキアでふ! 女王様に出会えて……心底興奮しています! よっ、よよっ、よろしくお願いしみゃしゅ!」
シェルトは持ち前の社交力を惜しみなく発揮していて、ユノは持ち前の上がり癖が惜しみなく発動していた……
☆
「そろそろかな? 『デルシャ』の作戦開始は。そして、『霧の召喚獣』の、もう一つの能力お披露目は……」
ある通りの……フェーセントの街のある大きな通りの、家の上から、少年少女四人組を見下ろしている男がいた。彼はベストに付いているリボンをイジりながら、拳を握ったり開いたりを繰り返していた。そして……
「作戦が始まる、か。じゃあ、魔女はデルシャとサモネに任せて、……たのしんでこようか」
ふふっと笑って少年少女四人を見下す。
「サモネほどじゃ無いが、私は被虐より加虐に快楽を求める男でね」
少年少女が深い霧に飲まれ、男女二人のグループの中の男が、仲間を殴り、何処かへ走っていく様子が見えた。
「余裕そうなその憎たらしい顔を、劣等感丸向けのグチャグチャな顔面に変えてやるよ」
そう言いながら家から落ちていく。
目の前にいたのは、ピンク髪の少女。そして深緑の目をした、独りの少年。
☆
「だから、魔法は美しいんだ! 芸術、ARTなんだ!!」
「ちげぇってんだろ。魔法は穢。いい加減分かれよエルヒスタ、お前は……」
口論を続けていた俺達は、シェルトの言葉で争いを休止した。
「霧が深くなっている、って思っている人は私だけかしら?」
「確かに、そんな感じだけど……」
確かにそのようだ。空からの光は、霧が邪魔をして地面に少ししか降り注がれていない。それ以外にも、霧が深くなっているだろうと予測、いや断定できた理由がある。
……空気が変わった。
『……何かがくるぞ! エル君!』
頭の中でセタの声が響く。
(言われなくても! 分かってる!)
ぶぉぉぉぉ!!!!
大きな音と共に風が、霧が視界を包み……
「おおぁー!!」
ちっ、そこかっ! 俺はどこからともなく現れた凶人を殴った。
「なっ……、エルヒスタ! なんで殴った!」
テルオの声。が、遠くで聞こえる。あと「止まれ! 走るな!」と言う声も。




