20 戦闘前の深呼吸
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協力の約束をして時間が経ち、辺りが暗くなったときのことだ。テルオとソウイチが、まだ意識のある人達を避難させるために外へ出ているため、隠れ家には俺とシェルトとギルカの3人しかいなかった。
「俺達、行かなくて良かったのかよ?」
本当に心配そうな顔をしてギルカに聞く。ギルカはあくびをしたあとに、腕を伸ばしながら言った。
「お前らは休んでおけよ。明日は本格的に『怪盗』と『召喚獣』を捜索してぶっ殺しにに行くんだからなぁ」
「ギルカは……行かなくて良かったのか?」
ギルカの行動が止まる。
「俺様の出る幕じゃねぇしな……出てやりてぇし、そっちの方が助けられる人数が増えるかもな。でも、今の時点で助けられる人間は有限だ。それに人間を生かす食料や水だって有限だ。だから俺様達はここでなるべく省エネで過ごさなきゃならねーんだ、わかれよ──俺様だってな、殴りたくない時期だってあるってことだ」
沈黙が続く。それを切り裂いたのはシェルトの一言だった。
「寝たいのだが、ここではわらで寝るのか?」
ギルカは笑ってから案内する。
「A級だからって、ふかふかのベッドが支給される訳じゃねぇからな……まあ、これぐらいは用意してやるよ」
そう言って、布団を取り出した。
「明日のために奥で寝てろ。大丈夫だ、恐くて誰も襲えねぇよ」
「わざわざ布団をありがとうな。それでは、何かあったら起こしてくれ」
シェルトは目をこすってから布団を持ち、そのまま家の奥へと消えていった。
☆
「なあギルカ。復讐って……何があったんだ…………?」
思い切って聞く。ここではぐらかされても、俺は別によかった。でも、ギルカは話してくれた……復讐しようと決めた、その過去を。
「ああ、そうだな」
ギルカはろうそくの火を付け、「座れ」と言うかのようにあぐらをかいて腰を下ろした。俺も、向かい合うように座る。
すぐに分かる説明が、始まった。
「簡潔に説明するとな、俺様の爺が怪盗に殺された」
「こっ、殺され……」
ギルカは少し俯き、深呼吸をした。そのあと、もう一度口を開けると、
「殺されたのは、祖父だけじゃ無い。親父も、俺様の親父……『ロウトゥー・ヴェスタ』もだ」
沈黙しかなかった。父も母も、祖父も祖母も、兄妹達だって健在の俺にとっては、全く想像も付かない。
「俺は、家族を葬った奴を許さない。殺したい、いや殺す」
殺したい……殺す、か。俺はギルカのギルカの考えに賛同したくなかった。だけど、何も言えなかった。
「そういうレプラコーンは、なんで今に、2年生になってまで、レプラコーン家管轄の地域からこんな学校まで転校してきたんだ?」
……言って良いだろうか? レプラコーン家管轄の地域ミゼリコル……そう、俺はもともとミゼリコル総合学園中等部に所属していた──という設定だった。そしてそれは、けっこう世に出回っているらしい。
言うしか無いだろうな。そもそもの話、いつかはバレるのだ。それに、ギルカの過去を聞いて俺も、何かしら秘密のようなものを言うべきではなかろうか? なら、
「俺な、ミゼリコル中行ってねえんだわ。中学校は、2年次からしか講義を受けてない」
「マジかよ、それって知られたら大問題だろ……」
「それは、ギルカの過去もだろ?」
聞き返す。ギルカも頷く。そのあと俺は、少しの間、綺麗に呼吸を繰り返しした。
「──いや、俺のは周知の事実だよ。だから学園でも腫れ物扱いなんだからよ、俺たちは」
☆
「はぁ……話変えるけど、テルオとソウイチはまだ帰ってこないの?」
ギルカがくれた堅いパンをかみ千切りながら聞く。因みにパンはギルカと二人で分けた(ギルカのパンの方が多く感じるが……)。
「分からねぇ、けど。俺様はもう少しで寝るぞ、お前はどうするんだ? 待つか、寝るか」
「寝ようかな……もう、疲れた」
そうやって、睡魔に身を委ねようとしたとき、突然誰かが勢いよく隠れ家に飛び込んできた!
「誰だ! ここにはこの家に来る意志が無きゃ来られない結界を張ってあるはずだ!」
ギルカは剣を飛び込んできた誰かに向ける。
「おいギル、テルオだ! ソウイチこの家に来てないか!?」
「テルオ……? ソウイチはどうしたんだ?」
「そうだ、一緒にいたんじゃなかったのかよ! 家には来てねぇ、俺様は見てねぇぞ!」
テルオは少し、息を整えてから、こう言った。
「ソウイチが、ウチの超最大戦力が、消えた……」
言葉は紡がれない、沈黙の会話。そのあと、テルオがもう一度、状況確認を、冷静を装ってに行う。
「ソウイチロウ・ロンダーが召喚獣の被害に遭った。場所はここからそう遠くない。俺がまだ動ける人達を、結界を張った場所に誘導して、ソウイチが行動を止めていたはずなんだが、避難しきった後、俺を殴ってきた」
そう言って、頬を見せる。ろうそくの灯りにともされて、ギリギリ痣を見ることができた。
「そしてそのまま、何かにとり憑かれたようによろよろと、あいつの本領を発揮しないまま、フラフラしながら走って消えていってしまった」
俺は、疑問解消のために質問をする。
「テルオはなんで、ソウイチが召喚獣に被害を受けたって……凶人達が、召喚獣に操られてるって、思ったんだ?」
「それはね、エルヒスタ。俺には何も見えなかったからだよ」
そう言って、ポケットから何か、宝石のようなものを取り出す。
「それって……!」
『おぉ……彼も持ってるのか。あれを』
それは、召喚獣を倒したときに手に入れることのできる副産物。魔をはね除ける力を持った宝石みたいな結晶。
「そうだよ、召獣結晶さ。これは、召喚獣から……いや、超特別な召喚獣から生み出される、とても美しい結晶。こいつは……」
「召喚獣の能力攻撃を、完全に無効化する能力を持っている」
☆
睡眠。その後、朝が来た。作戦開始の朝。だがしかし、最初からトラブルが発生した。ギルカが、ソウイチを探しに早朝から走り回っているらしい。
ボディーガード用の青色の服を着て、腰に剣を差す。準備万端だ。
「まず、三人での行動が基本だ。召喚獣は一人で倒せるほど弱くない」
「分かった。けどレプラコーン? なんでそんな私の髪の毛を見ているの?」
「いや……なんでさらさらなのかなーって。俺でさえ寝癖付いてんのに……」
こんな、緊張感の無いことを言って良いものなのか。まあ、怒られないから良いか!
「じゃあ、始めよう。まずは避難しきれていない人を見つけることを、助けることを最優先だ。そして……」
宣言。中学生には重すぎる言葉を、惜しみなく。まるで、狂って頭の中の整合性がとれない復讐鬼のように。
「召喚獣を見つけたら最優先で殺す。怪盗を見つけたら最優先で殺す。いいね?」
俺達は無言で頷く。
「じゃあ、繰り出そうか。召喚獣が跋扈できるくらいの、人と時間が止まった街に!」
復讐の始まりだ。召喚獣と怪盗を、血の海へと放り込め。




