17 やりたいときにはないもの
それは、人類の英知だ、と人は言う。
それは、人が作り上げた文化を形にしたもの、と他の人は言う。
それは、人類の進化、その過程において必要になったもの、とさらに別の人は言う。
それは--。
「見よ! これが我らが神、オサム神が靴を履いた、その瞬間である! 祝え諸君!」
「はい、スラリーダー。念話が漏れてるから抑えて」
足の裏とか、痛くなくて済むよね、と僕は思うのだ。
それが、靴ってものだろ?
性能はこの際どこかへぶん投げて、だ。
「履いた、だと! つまり……本当に靴だったのか……っ!」
「ちょ、村長。それどういうこと」
何か聞き捨てならぬお言葉を賜りました。
「いや、だって、誰も履けなかったら、『靴によく似た置物』かもなー、と」
それ誰得よ? その発想に至ったのは何でだ? というかそういうのを人に押し付けない!
ちょっと、『倫理』という科目について談義をしたいものだ。
試験云々は横に置いて、としてもだ。
「今更になるけどね? この靴、王都から来る商人に売ろうとしたんだけど、何故か『これを売るなんてとんでもない!』、とか言われてね。売れずに本当に困ったんだよ。捨てようとしても何か良心が妙に痛むし。さっきの商人の言葉を借りるなら、『それを捨てるなんてとんでもない』って感じで。ほら、『売れない履けないどうにもできない、でも諦めたくない!』ってそんな感じになっちゃうのさ。って、一気に言ってみたけど何かそんな歌ありそうだよね」
「いや、その一番最初の売れないって時点で、呪いとかとんでもないアイテムとかという選択肢はなかったのか、ってところを確認したい」
ツッコミは入れてないが、歌については心底どうでもいい。
だが、確実に分かったことがある。
売ろうとしても『それを売るなんてとんでもない』。
捨てようとしても『それを捨てるなんてとんでもない』。
これらのセリフは『ふりーわ』では既にお馴染み。
そのアイテムは、重要アイテムもしくは超がつくほどのレアアイテム。
伝説級レベル以上のはずだ。
まさかと思うが、しっかりこの『スニーカー』、確認してみようか。
フレーバーテキストばかりに目がいって、レア度をすっ飛ばしたからな。
どれどれ……。
『オサムのスニーカー』:伝説級(仮)。そういえば凄い奴と凄い奴がタッグを組んだら最強じゃない?
悟○とべジー○が組んだらってやつ。ピッコ○さんでもいいけど。
一番最初だと飲茶だな。うん、あの頃はよかった--と。
あーこれ、もうどうしようもできないや。
誰かにあげたくてもこのテキスト読ませたくない。
誰だよこのテキスト書いた奴。
鳥○先生は悪くない。悪くないが、このテキストには一切ゲーム要素が含まれてませんね。
説明文ですらない。むしろ書いた奴の過去への妄執が書かれてるだけじゃないか。
ほら、もうちょっとさ、そのスニーカーについて語って欲しいわけよ。
レア度も伝説級にかっこつけてしかも仮。
何? アイドルグループだって最後に句点つけたりしてるし、ゲームにだってつけてるのあるし、職業でもそのかっこなんとかってのはあるけどさ。
レア度につけちゃ駄目だろ。駄目、絶対。
まあ、このテキスト書いた奴の正体なんて分かっちゃいるけどさ。
というわけで、神。
3発だ。
この適当さ加減、修正してやんよ。
つまり、3回ぶん殴る。親父にもぶたれたことないとか言われても、殴る。
だが、安心しろ。
今のところ、『君が! 修正されるまで! 殴るのを! やめない!』とかにするつもりはない。
今のところは、だがな。
よし、とりあえず、心の整頓はすんだ。
「とりあえず、この靴は頂きます」
「ああ、そんなのでよければいくらでもどうぞどうぞ」
「いくらでもって。……まさか、もっと変なのがあるとか」
背中が湿る、そんな感じがした。
「……ないよ? あれだよ言葉の綾ってやつだよ。ハハハ! 気にしないでくれよオサム君」
いや、あるな。これは。
実際時間は3秒くらいだが、体感時間は数分だったような気がする。
その間、目は泳ぐし、表情は瞬時に何度も変化するし。
今も、目が笑ってない。
だが、この目。確実に訴えているものがある。
--引き取ってくれない?
察してしまったのだ。だからこそ、あえて言おう。
「そうですよねー! 例え後から出てきてもいらないですからねー!」
僕はNo! と言える日本の男子高校生なので。
絶対にいらないですからね! ひのきの棒だけでも勘弁して欲しいのに。
多分だけど、この人たち、絶対どこかで何かしらのお礼とかでねじ込んで来そうな気がする。
今回はよかったけど、次は呪いのアイテムとかだったら本当に困る。
僕、受験生だから。試験の前に呪いにかかるとかたまったもんじゃない。
インフルエンザや感染性胃腸炎とかよりもたちが悪い気がする。
間違っても受け入れる気はないからね!
そんなことを思ってたから、あー、勉強したい。
さすがに、この世界に教科書とか参考書とか問題集とかないよね。
……ないよねえぇぇぇぇぇぇええ!
泣きたい。




