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不穏

 ‥‥バルト海を望むフィンランドの港町、ヘルシンキ。

  穏やか気候に恵まれた土地は、7月でも比較的に過ごしやすい。

 この土地に、ある訳ありの男が1人。観光に適した場所なのに、彼は外には一歩も出歩かなかった。

 安いモーテルにしけこんで、一体どのくらい時が経ったのだろう?

 こうも長いこと引きこもっていると、体が鈍ってしまいそうだ。

 もっとも日蔭の身では何ら文句も言えないのだが。


 今も彼は、部屋にコールガールを部屋に招き入れ、熟睡してたところだ。

 時間は、午前2時頃。外の気温は13度である‥‥‥部屋にの中原は、男の服と女のワンピースが乱雑に脱ぎ捨てられ、絨毯にはウォッカの瓶が転がっている。

 そんな中、この部屋にある男が訪れた。

 

 「おい、起きろ!」


 野太い声に、ベッドで女とシーツに包まって寝ていた男は、眠けマナコで 声の方を見上げた。

 目の前には、野太い声に似合った熊のような姿の男が立っていた。熊は言う‥‥‥女を帰せ、と。


 「なんだよ。外に出るなって言うから、部屋に引き籠もってんのに。それにも文句言うのかよ?」


 前の亡命先は内戦中だから死にたくないって、言ったのは何処のどいつだ! 世話になった俺に泥を塗りやがって。


 ‥‥‥熊からそれを聞いたら、男は無言で女を叩き起こし、熊を隣の部屋へと促した。

 彼の名前は《門田隼人》あの新興宗教団体『灯曇の会』の建物を爆破させた男である。まぁ、今は《小田切英治》という偽名を語っているが‥‥‥


 で、何の用なんだよ。こんな時間に、夜くらいゆっくり寝かせろよ。

 

 熊の名前は《前川大志》‥‥‥広域指定暴力団の若頭である。

 前川は、肩を竦めながら1枚の写真を見せた。

 だが、それを見ても門田は何とも思わなかった。その写真には知らない人物が写っていたからだ。

 これがどうしたんだよ? ピラピラと面白くなさそうにしていると、前川が驚愕の答えを教えてくれた。


 「誰だと思う? コイツは《栗栖要》なんだぜ。あの〝噂〟だけでしか聞いたことのない男がだ」


 それを聞いた門田は、も一度よく写真を見つめた。そりゃ顔は違う筈である‥‥‥それは彼が〝如何様物〟と呼ばれるほど顔を変えているからで、でもそこの組織は壊滅したし、栗栖も殺した筈である。

 だが、ここで門田はある事に気が付く。本来なら、死に行く人間に興味は持たないが、この写真には彼の気になるものが写っていた。


 「オジサン、この男は本当に《栗栖要》? 嘘言ってんじゃないの」


 そんなん本人しか知らないだろ? 前川の言葉に門田は確信を持った。


 「じゃあ、この男は違う。俺は昔から人の顔を覚えないタチなんでね‥‥だって、そうだろ? 人間なんて顔はいくらでも変えられる」


 ‥‥‥じゃあ、人物を判断するにはどこだと思う?  


 さあ? と、首を傾げる前川の耳たぶを掴む。


 「ミミだよ、耳。こればっかりは変えてないようだからな、特に奴の耳は特徴的で覚えてたんだよ」


 ただ‥‥‥コイツは、一緒にぶっ飛ばした筈なのに生きてたんだ。

 死んだ奴の名前を語るなんて、何が目的なんだろうな?


 さあな。前川は、そう言うとテーブルの煙草を一本手に取り、火を点ける。

 前川にとって、目の前にいる男は利用価値のある男。泣く泣く愛人を廃棄してでも手に入れたのだから役に立って貰わなくては困る‥‥‥まず初めは、手頃な施設を見付けることが先決だろう。

 その後は、この男が大学教授を殺害してでも守り抜いた〝実験成果〟とやらをたっぷりと見せてもらおうか‥‥‥


 はっきり言って前川は、目の前にぶら下がれている御馳走以外は興味がないが、ただ《栗栖要》のバックには議員の《古賀浩一郎》が控えてる。どうしても彼はその後ろ楯が欲しかった。

 今は、舎弟の鷹村が一人で甘い汁を吸っているようだが、どこかで出し抜けないかと思うのだ。その為の突破口として栗栖の存在が不可欠だと思っている。

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