飛来劇場『新章に向けての登場人物とマトメ』
前回の『神様のコラージュ』とも繋がっております。
この話しにも入り込んでくる《栗栖要》は、本当は2代目を名乗る青年だった。本物は既に〝殺されていた〟という設定である。
ちなみに、たまに出てくる回想録は全て栗栖になりすました《合田理人》の〝話し〟である。
‥‥‥県警の取調べ室にて。
簡素な机と折り畳みのイスがあり、そこに座るは、とある事件現場から連行した青年。向かいに座るは《久保田》という刑事である。
近くには、記録係の警察官が壁と向かい合わせに座っている。
ドア付近には、久保田よりも年が上そうな刑事が壁を背にもたれていた。
確か、名前は《犬居》と言ったか‥‥‥
彼は言う。栗栖、お前の本当の名前と生年月日を言えと。
どうやら、久保田は彼を《門田》に顔を造り変えた本物の《栗栖要》と信じて疑ってないようだが、犬居はまだ疑心暗鬼である。
まぁ、もちろん《栗栖要》は偽名であり彼らも先刻承知であるが、問題は今ここに居るのが本物ではなく〝2代目〟だということ。
‥‥‥ならば、彼が亡くなった彼の為に出来ること、それは〝如何様者〟として生き、復讐すべき相手《門田隼人》を捜し出す。
その前に、まず前の男たちを《栗栖》と信じ込ませて、捜査を混乱させ利用してやる。
どうせ、彼らは本物なんか知らないから分かる筈なんかないさ。
組織内でも〝機密扱い〟だった栗栖の存在は、戸籍抹消された名無しのゴンベというオチが付いた。
「俺の名前は、《合田理人》‥‥‥平成7年4月21日生まれの19才」
それを聞いた犬居は、ポツリと呟いた。若過ぎるな‥‥‥と。
そりゃそうだ。普段の栗栖要は、誰かに世話して貰わないと生活出来ないくらいのダメ人間。だが、これで彼らの中で自分が《栗栖要》だと思い込ませれる筈だ。
それにしても、よくあんなんで猫飼おうか。なんて考えるくらいの生活能力ゼロの男なんだから!
でも、噂を聞くだけは彼は、知る人ぞ知るくらいの〝人畜有害〟の〝歩く時限爆弾〟なのだそうだ。
彼の殺した人間は、千人を越すんじゃないかと言われるくらいに、彼の足許には屍が転がっているらしい。
だから、警察としても血眼になって《栗栖要》という男を捜していた。もし、これが〝表〟に出れば大事になるからだ。
早く捕まえなくては『人畜非道を野放しに』や『警察のズサンさを物語る』などの文字が新聞の中で踊るだろうし、警察の威厳にも関わる。
ところが栗栖に関しては、彼の噂は聞くが実体が全く掴めず、しかも捕まえた男は選挙権も与えられないようなガキである。
誤認逮捕は明らかだが、当の本人が《栗栖要》だと言い張るのだから仕方がない。
‥‥‥それよりも、犬居の〝目下の悩み〟は後輩の久保田刑事のことだった。
奴には、昔から黒い噂が絶えなかった。それはもう〝20年前〟の《本田留美子》の件からである。
それに繋がるは代議士の先生であり下手に動けないのは当たり前だが、だからと言って野放しにも出来ない。
今この場を見る限りでは、どうやら久保田は《栗栖要》と名乗る男に興味がある様子。
‥‥‥‥ここは、一度ヤツを泳がせてみるか。
これで、犬居の腹は決まった。ここは一度、このガキをシャバに出す!
そうして犬居は、次の一手を打つことにした。
‥‥‥‥一方、その頃。
衆議院議員《古賀浩一郎》の側近である《鷹村》は、部下である久保田から電話があった。『使えそうな奴が、入って来たぞ』と‥‥‥
鷹村は普段、ホストクラブ『SIREN』を経営して人材には不足してないが、武力派は事欠いていた。古賀氏の護衛のだ‥‥‥一人でも人員を確保しときたいものだが、気になる事もある。
つい先日、兄貴分の《前川大志》から門田という研究者を亡命させたとの連絡が入った。
‥‥一体、奴は何を企んでいるのか? 《古賀》にコンタクトを取る為に、俺に近付こうとしている気がする。
とりあえずは、様子見といこうではないか。
ちょうど、その時。閑静な住宅街でひっそりと営むアンティークショップ『マーロン』のマスターの《百鬼》こと森本鉄郎は、あるピンチに見舞われていた。
‥‥‥‥それは、彼が隠し持っていたゲイ雑誌を、あろうことか従業員でもある3男(17才の義理の息子)の千夏司にバレてしまった!
あれだけっ、教育上に悪いからってチカにはアダルトビデオを見るな。や、テレビ番組でさえも規制してたのに!
まさか客の居ない合間に、こっそりと楽しもうとしてた『AHAん10月号』が見つかってしまうとは!!
今、彼は恋人の《戸塚圭吾》と長男《烈》と次男《海》にしっぽりと叱られていた。
なんで雑貨屋に、男の裸の雑誌が置いてんの! 客が見たらドン引きするし、アンタここではダンディなマスターで売ってんだろ?
客寄せパンダがこんな雑誌を店で読むな!
‥‥‥申し訳ございませんでした。
平謝りする百鬼‥‥‥だが、まだ彼らは知らなかった。
彼らを、巻き込む事件を‥‥‥
それから暫くして、彼らは《栗栖要》と名乗る青年を受け入れることとなる。
‥‥‥不穏な空気と共に。