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道化者‥‥‥⑤

 ‥‥‥百鬼こと森本鉄郎は、ある危機に直面していた。彼の従業員の1人である《栗栖要》の後を追い、衆議院議員の娘《古賀麗華》の誕生日パーティーに潜り込むことに成功した。

 だが、それも束の間。百鬼は、一緒に仕事したことのあるホストの《ライ》という男に捕まってしまう。



 一方その頃、栗栖要の方はと言うと‥‥‥



 「栗栖よ、約束を違えたな」


 酒焼けで潰れた声に、栗栖の耳はピクリと動いたが、栗栖は〝彼〟と目を合わせようとしなかった。

 その彼とは、衆議院議員の《古賀浩一郎》という老人。栗栖要の真の〝依頼主〟である。

 栗栖が通された場所は、パーティー会場となる場所とは離れた一階客室の方であった。


 「別に仕事は、ちゃんとやっただろ? 約束どおり《本田涼介》は始末付けただろ」


 彼のいう《本田涼介》とは、古賀氏の愛人であった《本田留美子》の忘れ形見である。

 彼は政界に進出する時に、邪魔な愛人を始末したのだが子供までは手が回らず、その時に巷で騒がした事件の首謀者に今回の案件を依頼したのだ。

 しかも、本田留美子と唯一繋がりのある《百鬼》のアジトに彼を乗り込ませた。

 彼の面倒味の良さは、仲間内では有名なので栗栖は難なく潜り込んだ。そこまでは想定内だが、まさか彼が情に絆されるとまでは思わなかった。


 それが証拠に、本田留美子の息子はナイフでエグられる等して瀕死の状態ではあったが、生命に別状はなく。

 それどころか、彼は自分の顔を変えた。


 ‥‥‥死んだ《本田留美子》そっくりの顔に。


 「聞きたい事は山ほどあるが、何故お前が孫の沙織と一緒にいるんだ? しかも誕生日パーティーにまで乗り込みやがって」


 栗栖と古賀氏は目を合わす事なく、話を続ける。 

 

 「しょうがないだろ? 沙織が俺と一緒じゃなきゃ、ママのパーティーに行かないって言うからさ。それにしても‥‥‥アンタも沙織も、この顔が余程好きとみえる」


 不気味なほどに、死んだ女に似せた目の前の青年に、古賀氏の顔からはみるみる血の気が引いていった。


 「俺は無益な争いは御免だぜ。千夏司のことだってそうだ! あんたの身辺を脅かしたアイツの親父は許せないかもしれないが、千夏司には何の関わりもないんだ。あんな寄ってたかって襲いに来やがって」


 彼が言っている事は、千夏司を連れて《相楽家》に向かっていた時の話しである。

 百鬼のオッサンから借りた黄色の4WD。最初は中々、悠々自適なドライブを楽しんでいたが、途中から段々と雲行きが怪しくなってきた。

 ‥‥‥いつの間にか、車の後ろに引っ付いてくるは黒いベンツ軍団。


 ‥‥‥狙いはすぐに分かった。

 森本家の3男の実父は、目も当てられないほどのクズだった。


 養護施設育ちで、同じく入っていた兄貴分の百鬼(森本鉄郎)とよくツルんでいた。

 だがその後、百鬼は急に施設を襲ってきたチンピラに施設を半壊にされ、憤った百鬼はヤクザの事務所を襲撃し、犬居に捕まったのだが、千夏司の親父である正司は百鬼の忌み嫌っていたヤクザとなる。

 だが、ヤクザと一言で言っても下っ端の方だったから、タカリ強請りをして金をせしめて生活をしてきた。

 そんな彼にヤキが回ってきたのは、議員の男とヤクザの密会写真だった。

 生命の危険を感じた正司は、兄貴分の百鬼に息子を預けた。それから暫くして正司の遺体が見つかった‥‥‥誰にも捜されずにボロボロの状態で。

 

 

 「絶望したよ、栗栖。あんな大掛かりの爆発事件を仕掛けたお前が、たった一匹のネズミも駆除できないなんて。ワシは皆の笑い者なんだぞ? せっかく子飼いのネコを寄越したというのに」

 

 ネコ。なんのことなんだ、それは?





 話しは、栗栖要から百鬼に戻る。彼が通された場所は二階、バルコニーがあるガラス戸近くの休憩スペース。

 場所としては、栗栖のいる一階客室のちょうど真上の位置にいる。

 ガラス戸は全開され、心地よい風がシルクのカーテンを揺らしている。

 そこに置かれたアイボリーのソファーセットには先客がいた。

 その顔ぶれの何人かは知っている。

 まずは、百鬼を連れてきた『SIREN』のNo.1ホストであるライ。ソファーの周りに、立っているのは、彼の取り巻きのホストたち。それから‥‥‥


 「すっごい俺のタイプだったのに、残念だな 鷹村さん?」


 そこに座っていたのはクラブの支配人、鷹村だった。百鬼を見た鷹村は、口元を歪めて喋り始める。


 「俺たちは元締めお抱えの飼い猫なのさ。元締めの資金調達とネズミ狩りが主な仕事だ」

  

 一体、いつからなんだよ? 百鬼の問いに、鷹村は薄ら笑いを浮かべながら答えた。


 「ウチの家系は代々、元締めの一族に仕えていたんだ。俺が〝ウチ〟のトップになった時には、元締めがちょうど代議士になる直前だった」


 その頃、元締めには愛人が何人かいたが大体は金で口を封じる事ができた。

 だが、その中で一人だけ拒絶した女がいて、確か名前が留美子って女だ。

 美形だが、性格が強すぎてテコでも動こうとしやがらない。

 まぁ、運び屋をするくらいな女なんだから、アレくらい気が強くなきゃ話しにはならないよな。

 

 「まさか、俺たちを追い掛け回したベンツ軍団はアンタらだっていうのか?」


 そう、そのまさかだ。お前の運転する車を追い掛け回したのは、俺たちだ。俺の仕事は、お前の車を追い詰めるだけ追い詰めて逃がすのが俺たちの仕事だったんだ。

 最後のトドメはあちらさんの仕事で、俺らは退散すれば仕事は終わり。

 つまりは、お前が本田留美子を助けたと思っていても、実際にはコッチが有利に動いてたわけだ。

 だが一番の誤算は、あの幻の覚せい剤だ。

 まさか、お前が留美子に託すとは思わなかったからな。おかげで、あの女が死んだあと後悔したんだよ。

 なんせ、商品が行方知らずのままだったから。しかも、頼みの綱のお前さえも知らないときてる。

 

 「なぁ、ここで手を打たないか?」


 いきなり、鷹村が百鬼に提案をしてきた。ここで俺たちと手を組まないか? と‥‥‥


 冗談じゃない! 俺たちの生命はオモチャじゃないんだ、俺は乗る気なんかさらさらないぜ!


 「そんなことをして、俺に得があるのか?」


 「ああ、勿論だ」そう言っている鷹村の目が、どうにも百鬼は信用出来なかった。

 彼は、徐々にガラス戸へと体を近付けさせる。

 

 「さあ、早く答えを出せよ。鉄郎さん」

 

 百鬼の答えは、すでに決まっている。ここから脱出することだ!

 




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