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チカとカナ‥‥‥前編

 やあやあ、よく来てくれたね。まぁ、座って寛いでくれたまえ。

 今さっき、ガトーショコラが焼き上がったところなんだ、俺の自慢のケーキだから是非食べてってくれよ。


 ‥‥‥久しぶりに訪れた『マーロン』にて、いきなり手厚いおもてなしに栗栖は気味悪がった。

 なんだよ、コイツ‥‥‥いきなり下手に出やがって、一体何を考えてやがる?


 「いや‥‥‥俺は、今度連れてくる沙織にプレゼントを選びを手伝うのを頼まれたんだ。 その商品を取り揃えて欲しくって」

 

 だが、店内の雰囲気が異様に感じるのは多分、彼の気のせいではないだろう。

 なぜなら、店一番のムードメーカーである千夏司の姿が、見当たらない。トゲトゲしいイメージ(主に百鬼のせい)の店だが、千夏司がいるだけで何故か和むのだ。

 なのに今は、いない。どういうことだ?

 こっちは、こっちで勝手にティーパーティーの準備を始めてるし‥‥‥

 ケーキに添え付けのクリームはたっぷりと乗せてくれ。

 すると、後ろの方から「ママ、僕も〜」と、マヌケな声が聞こえてくる。

 なんだ、いるんじゃないか。(ていうか、あのオッサン。千夏司にママって呼ばせてんのかよ?)と、振り返ってみれば、栗栖は思わず目を瞠ってしまった。


 「なんじゃ〜、その格好!!」


 キョトンとする3男。その格好とは‥‥‥まず、お気に入りの赤いハイビスカス柄のアロハシャツ、水中ゴーグルになぜか海に潜る用のシュノーケル。

 そして、足には水掻きっぽいヤツに、もちろん浮き輪も忘れずに。


 「浮き輪くらい相楽のジイさんに、向こうで買ってもらえ。それと、カイ! チカのバッグには当分の勉強道具を入れとけよ。俺の目が届かないからって、遊ぶばっかすなよ!」


 え〜、やだな勉強すんの‥‥‥と言う千夏司を見て、栗栖は百鬼にどこに行くんだ? と尋ねたら、なぜか歯切れの悪い答えが返ってきた。


 「う‥‥ん、それなんだけどな」


 すると、あっちの方では更にマヌケな長男の声が聞こえてきた。


 「あ〜あ、いいなぁ。チカだけ相楽のジイさんトコ行くなんてさぁ」


 羨ましそうに喋る烈に対し、海は兄らしく荷物の選別を始める。

 バッグの中身‥‥‥筆箱・エンピツ・ゲーム機本体とコントローラーにゲームにゲームにゲーム。

 教科書もノートもなし! ていうか、よくゲーム機をリュックに詰め込もう思うたな。


 「お前〜、バアちゃん家に行って、勉強する気が全くないだろ?」


 そんなこと全然ないもん! とブーたれてる千夏司を見て、栗栖は「え?」と疑問符を百鬼に投げ掛ける。


 「もしかしてアイツだけ、どこかに行くのか?」


 一瞬‥‥‥ボウルを持った百鬼と目が合った。すると、いきなり百鬼が膝を折り土下座をしてきた。


 「頼む、カナ。チカを連れて逃げてくれ! 俺たちの顔は割れてるから、新入りのお前にしか頼めないんだよ!」


 いきなりの事に、当然のことながら面食らった。

 

 アイツの身に、何が起こったんだ? その問いには、全然知らないとのフザケた答え。


 一体、俺に何をさせようってんだよ?


 すると彼は身を起こして、クリームの添え付けを続ける。


 「お前には、ただチカを知り合いの別荘に連れて行ってくれればいい。向こうには、もう連絡をつけたから」


 そんなことを言われても、解せない事が多々あるが、仕方あるまい。

 ‥‥‥とは言え、あの脳ミソに生クリームとキャラメルソースを、掛けまくった様な発想はどうにかならんのか?

 ゲーム機一個じゃ物足りないからって、別のカバンに違うの入れたりしてさ。海や川で遊ぶんじゃないのかい。

 わかりました〜、わかりましたよ! 千夏司坊っちゃんを、相楽っていう人の別荘にお連れします! それでいんでしょ?(と、自分に言い聞かせる)


 するとオッサン。いきなり目を輝かせて、こう叫んだ。

 

 テメェら、オヤツの時間だ。とっとと座って、食いやがれ!

 

 すると、どこから湧いてくるのか、ワラワラと男どもがケーキの周りに集まり始めた! しかも、知らないオッサンまでもがいる(世話になってる、隣の文具屋のオヤジらしい)

 ちなみに、栗栖の両隣に座ったのはカイとチカである。

 一皿にガトーショコラが2つ、そこに生クリームやチョコソースなどを掛けたものを「いただきます」とパクつく。


 こりゃ、ウマい! なんだよ、飲食店を開いても十二分に通用する味じゃないか。

 

 あまりの旨さに、夢中になって食べていると、自分の両側からフォークが伸びてるのに気が付いた。

 え? 驚いて見ると、それは栗栖の皿のケーキを狙う超ケーキ・イーターのカイとチカが‥‥‥


 「何やってんだよ! 自分の皿のを食べろよ」


 ‥‥‥しかし、彼らの皿はすでにクリームを舐めとった後のように、ピカピカになっていた。




 ‥‥‥それから、30分後。栗栖は、大荷物を抱えたアロハ千夏司と百鬼に連れられて、地下の車庫に来ていた。

 目的は百鬼の車を借りる為に来たのだが、色んなタイプの中で貸してくれるのがなぜか、型の古い外国産の黄色い4WD。

 それにしてもエラい年季の入った車だな。と話すと、昔の方が良いものが多いんだよ。と言う‥‥‥

 とりあえず左ハンドルなので、慣れるのに少し時間が掛かるかもしれないが、問題はないだろう。

 後付けしたであろう、最新のカーナビに百鬼が目的地を入れた。

 

 「とりあえず、これで別荘まで行けると思う。メンテナンスは、ちゃんとしたから大丈夫だ」


 もし、何かがあったら電話をしてくれよ。そう言って、百鬼は栗栖と千夏司を送り出した。




 彼らを送り出した後に次に百鬼がした事は、3男である千夏司の部屋に忍び込むことだ。


 ‥‥‥四畳・洋間の千夏司の部屋にて。

 それにしても、チカの部屋はゲームばかりだな。百鬼は呆れて見た‥‥別に咎める訳ではないが、森本家の教育方針では小・中学校までは義務教育なので、キチンとその土地に留まり、学校に行かせる。

 だから、警察のお世話になるような事をしないのは、こういった意味があるからだ。

 その後、義務教育が終わったら、店を転々と移動を始める。

 もう千夏司は17になるので、高校の勉強に関しては通信制の教育を受けさせている。

 これは、上の義兄弟である《烈》と《海》も同じである。


 これから、百鬼が3男の部屋ですることは、千夏司が狙われることとなった〝理由〟を探る為だ。

 それは、気が遠くなるような作業だ。まず、どこから手を付けるか‥‥‥それよりも何を探し出したらいい?

 そんな、思い悩んでいる彼の後方で長男と次男の怒号が飛んできた。


 「チカの部屋で何やってんだよ! この変態!」


 ‥‥‥その時、百鬼は思った。俺はショタコンじゃない!! 

 


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