バリキャリとかシゴデキとか、そんな言葉なかったよ
絡めた指先
二人を繋ぐ鎖
まとわりつく汚泥
君をひきよせた
輝く水底
もう離さない
「書いてもらって悪いんだけどさ、⋯⋯幾つか質問していいか?」
「おう」
「最初は、まあいい。汚泥の中にいるのに水底輝くんか? んで、何? 心中? 太宰?」
「⋯⋯あー、そうだね。じゃ、水面で」
◆◇◆
俺には文才がない。
うん、多分、ない。
セデューサーの歌詞を全部書いていたアキが脱退した。
ヴォーカルはミキオにやらせればいいが、曲を作っても歌詞ができない。
俺には無理そう。
ミキオに頼んでみたけど、なんだ? あれ。
俺の曲にあってんのか?
よって、先輩方に意見を求めることにした。
俺の交友関係で一番頼れる先輩に連絡をいれた。
居酒屋で話を聞いてくれると言う。
これは二重に嬉しい。
──食費が浮く。
待ち合わせた店に行くと、何故か彼の友人二人もいた。
ひとつ年上の先輩方。
共にメジャーで活躍中。
一人は多少の因縁がないでもないが。
まあ、いい。
相談できる人数は多い方がいいかもしんない。
「晴臣さんは、歌詞ってどうしてます?」
「思い浮かんだものを書いてるよ」
長いウェーブのかかった金髪。
優雅に酒を飲む。お猪口に日本酒だが。
彼の所属する『人工楽園』の曲を思い出す。
「終末とかアポカリプスとか、葬送とかそういう⋯⋯」
「うん。詩を読んでインスパイアされたり。ボードレールとかね」
「ボードレール⋯⋯。俺には難しくて」
「ああ、意味不明だよね」
いいんだ? それで。
「淳さんは?」
「ニュースとか、映画とか、小説。いいなあ、って思った世界観を捏ね回して」
黒髪を揺らし、何だか楽しげにつくねを頬張る。
何を食べても美味しそうにしてるが、傍らには胃薬の小瓶。
お守り代わりとか何とか。
「⋯⋯捏ね回す」
「だって、そのままじゃ、元ネタ丸わかりでしょ?」
「非日常系で物語性があるのはそういう事っすか⋯⋯?」
「うん。君を愛してる! とか、死んでも歌えねえし」
まあ、キャラじゃないよね。
なるほど、そういうのもありか。
「秀之さんは?」
「俺は曲作るだけ。良介とたまに京ちゃんが作ってた。今回はアキにも何曲か出してもらった。いいの書くんだよな、アキは」
「そうなんすよ。俺には無理で」
ちょっとスタイリッシュな髪型になってる。金髪は相変わらずだが。
それにしても、ビール。大ジョッキがモリモリなくなる。
好きすぎだろ。
「アキは、あれだよね。地がイギリスだからかな。ストレートじゃないんだよね。抽象的」
「確かに。ぱっと聴いてわかんない。よくよく考えて、ああ。って」
「そうなんすよ!」
晴臣さんに続いて、淳さんがアキの書く世界を理解してくれてる。
いやあ、嬉しいなあ。
へへ、自分じゃないのにちょっと気分いいな。
「路線変更もありだろ? フロントマンが変われば仕方なくね?」
「そうっすねえ」
秀之さんが引っこ抜いていったくせに。
くそう。
「ちなみにジェイはどんなの書けるの?」
いきなり俺に話を振らないで欲しい。
書けないから訊いてんのに。
「無理だったんで、ミキオに頼んでみたっすよ。そしたら⋯⋯」
「なになに?」
三人の先輩方が興味津々だ。
「爛れた恋愛が⋯⋯」
「え、彼、そっち方面なの?」
晴臣さんが目を丸くしてる。
「いや、実にほのぼのとしたヒモ生活なんすけど、何がそうなったのか⋯⋯」
「ヒモ生活にほのぼのって」
呆れた口調で秀之さんが言う。
「年上で仕事に生きる女性なんすよ」
「あ、あー。癒し要員か」
淳さんが納得してる。
そういうもんか?
「顔、可愛いよね。ミキオ。⋯⋯願望?」
いまいち釈然としていない様子の晴臣さん。
あ、と言って話を続ける。
「そういや、ジェイは彼女いないの?」
「なんすか、唐突に」
だからどうして、俺に話が振られるんだ?
「いや、だって、スタイルいいし、普通にイケメン」
「⋯⋯それは、どうですかね。そもそも、アキに全部持ってかれてたから」
「え、アキ意外と⋯⋯」
あ、晴臣さんが変な誤解を。
「じゃ、なくて。ライブ中の女の視線はほぼアキに集中。アキが抜けたら男の客だらけ。あー、あと、コンビニのシフト終わりとかで、アキが迎えに来るんすよ。何故かそれを待つ女が、どこからともなくワラワラと」
「ああー」
三人が揃って首を縦に振る。
「でも、アキはほら、自分の事でいっぱいいっぱいだから、眼中にない」
「くぅ。⋯⋯待て。迎えに来る?」
眉根にしわを寄せて秀之さんが問う。
「食料持ってうちに来るんすよ。⋯⋯掃除もしてくれる」
「なにそれ。通い妻?」
あ、言ってはいけないことを淳さんが⋯⋯。
「⋯⋯つ、妻では断じてないです」
ほらみろ、やな空気になったじゃないか。
アキは俺が飢えるのが我慢ならないらしい。
学生の頃から何かと食わされた。
おまけに片付け魔だ。
俺だって養われたいんじゃないぞ。
「そんな訳で、歌詞も作れるヴォーカリスト欲しいです」
仕切り直すぞ、こら。
先輩方よう。
「⋯⋯うん、要望は承ったよ」
晴臣さんは思い浮かべるように、ちょっと上を見ながら言った。
「いるといいねえ」
ニコニコ笑う淳さん。
あ、探す気ないな。
「お、俺も探してみるよ」
妙に気にしてるんかな? 秀之さん。
うん、まあ、気にしないでいいっすよ。
アキが自分の意志で行ったんだし。
要望は伝えたし、ま、何とかなるか。
とはいえ、しばらく曲を作っても歌詞がのらない事にはかわりがない。
ミキオの爛れた歌詞はやだしなあ。
もうちょっと俺も考えてみるかあ。
ははは、自信ねえ。




