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ワインの涙  ~他愛も無い日々~  作者: 麻生あきら


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7/7

バリキャリとかシゴデキとか、そんな言葉なかったよ

 絡めた指先

 二人を繋ぐ鎖

 まとわりつく汚泥

 君をひきよせた

 輝く水底(みなぞこ)

 もう離さない

 

「書いてもらって悪いんだけどさ、⋯⋯幾つか質問していいか?」

「おう」

「最初は、まあいい。汚泥の中にいるのに水底輝くんか? んで、何? 心中? 太宰?」

「⋯⋯あー、そうだね。じゃ、水面(みなも)で」

 

 

 ◆◇◆

 

 

 俺には文才がない。

 うん、多分、ない。


 セデューサーの歌詞を全部書いていたアキが脱退した。

 ヴォーカルはミキオにやらせればいいが、曲を作っても歌詞ができない。

 俺には無理そう。

 ミキオに頼んでみたけど、なんだ? あれ。

 俺の曲にあってんのか?


 よって、先輩方に意見を求めることにした。

 

 俺の交友関係で一番頼れる先輩に連絡をいれた。

 居酒屋で話を聞いてくれると言う。

 これは二重に嬉しい。

 ──食費が浮く。

 

 待ち合わせた店に行くと、何故か彼の友人二人もいた。

 ひとつ年上の先輩方。

 共にメジャーで活躍中。

 一人は多少の因縁がないでもないが。

 

 まあ、いい。

 相談できる人数は多い方がいいかもしんない。

 

 

 

「晴臣さんは、歌詞ってどうしてます?」

「思い浮かんだものを書いてるよ」

 

 長いウェーブのかかった金髪。

 優雅に酒を飲む。お猪口に日本酒だが。

 彼の所属する『人工楽園』の曲を思い出す。

 

「終末とかアポカリプスとか、葬送とかそういう⋯⋯」

「うん。詩を読んでインスパイアされたり。ボードレールとかね」

「ボードレール⋯⋯。俺には難しくて」

「ああ、意味不明だよね」

 

 いいんだ? それで。

 

 

 

「淳さんは?」

「ニュースとか、映画とか、小説。いいなあ、って思った世界観を捏ね回して」

 黒髪を揺らし、何だか楽しげにつくねを頬張る。

 何を食べても美味しそうにしてるが、傍らには胃薬の小瓶。

 お守り代わりとか何とか。

 

「⋯⋯捏ね回す」

「だって、そのままじゃ、元ネタ丸わかりでしょ?」

「非日常系で物語性があるのはそういう事っすか⋯⋯?」

「うん。君を愛してる! とか、死んでも歌えねえし」

 

 まあ、キャラじゃないよね。

 なるほど、そういうのもありか。

 

 

 

「秀之さんは?」

「俺は曲作るだけ。良介とたまに京ちゃんが作ってた。今回はアキにも何曲か出してもらった。いいの書くんだよな、アキは」

「そうなんすよ。俺には無理で」

 

 ちょっとスタイリッシュな髪型になってる。金髪は相変わらずだが。

 それにしても、ビール。大ジョッキがモリモリなくなる。

 好きすぎだろ。

 

 

 

「アキは、あれだよね。地がイギリスだからかな。ストレートじゃないんだよね。抽象的」

「確かに。ぱっと聴いてわかんない。よくよく考えて、ああ。って」

「そうなんすよ!」

 

 晴臣さんに続いて、淳さんがアキの書く世界を理解してくれてる。

 いやあ、嬉しいなあ。

 へへ、自分じゃないのにちょっと気分いいな。

 

「路線変更もありだろ? フロントマンが変われば仕方なくね?」

「そうっすねえ」

 秀之さんが引っこ抜いていったくせに。

 くそう。

 

 

 

「ちなみにジェイはどんなの書けるの?」

 いきなり俺に話を振らないで欲しい。

 書けないから訊いてんのに。

 

「無理だったんで、ミキオに頼んでみたっすよ。そしたら⋯⋯」

「なになに?」

 三人の先輩方が興味津々だ。

 

「爛(ただ)れた恋愛が⋯⋯」

「え、彼、そっち方面なの?」

 晴臣さんが目を丸くしてる。

「いや、実にほのぼのとしたヒモ生活なんすけど、何がそうなったのか⋯⋯」

 

「ヒモ生活にほのぼのって」

 呆れた口調で秀之さんが言う。

 

「年上で仕事に生きる女性なんすよ」

「あ、あー。癒し要員か」

 淳さんが納得してる。

 そういうもんか?

 

「顔、可愛いよね。ミキオ。⋯⋯願望?」

 いまいち釈然としていない様子の晴臣さん。

 あ、と言って話を続ける。

「そういや、ジェイは彼女いないの?」

 

 

「なんすか、唐突に」

 だからどうして、俺に話が振られるんだ?

 

「いや、だって、スタイルいいし、普通にイケメン」

「⋯⋯それは、どうですかね。そもそも、アキに全部持ってかれてたから」

「え、アキ意外と⋯⋯」

 あ、晴臣さんが変な誤解を。

 

「じゃ、なくて。ライブ中の女の視線はほぼアキに集中。アキが抜けたら男の客だらけ。あー、あと、コンビニのシフト終わりとかで、アキが迎えに来るんすよ。何故かそれを待つ女が、どこからともなくワラワラと」

 

「ああー」

 三人が揃って首を縦に振る。

 

「でも、アキはほら、自分の事でいっぱいいっぱいだから、眼中にない」

「くぅ。⋯⋯待て。迎えに来る?」

 眉根にしわを寄せて秀之さんが問う。

 

「食料持ってうちに来るんすよ。⋯⋯掃除もしてくれる」

「なにそれ。通い妻?」

 あ、言ってはいけないことを淳さんが⋯⋯。

 

「⋯⋯つ、妻では断じてないです」

 ほらみろ、やな空気になったじゃないか。

 

 アキは俺が飢えるのが我慢ならないらしい。

 学生の頃から何かと食わされた。

 おまけに片付け魔だ。

 俺だって養われたいんじゃないぞ。


 挿絵(By みてみん)

 

 

「そんな訳で、歌詞も作れるヴォーカリスト欲しいです」

 仕切り直すぞ、こら。

 先輩方よう。

 

「⋯⋯うん、要望は承ったよ」

 晴臣さんは思い浮かべるように、ちょっと上を見ながら言った。

 

「いるといいねえ」

 ニコニコ笑う淳さん。

 あ、探す気ないな。

 

「お、俺も探してみるよ」

 妙に気にしてるんかな? 秀之さん。

 うん、まあ、気にしないでいいっすよ。

 アキが自分の意志で行ったんだし。

 

 

 

 要望は伝えたし、ま、何とかなるか。

 とはいえ、しばらく曲を作っても歌詞がのらない事にはかわりがない。

 ミキオの爛れた歌詞はやだしなあ。

 もうちょっと俺も考えてみるかあ。

 

 ははは、自信ねえ。

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