セデューサーって誘惑者なんけど、わかってる?
「アキのルアード加入が決まった」
セデューサーのギタリスト、ジェイは厳かに言い放つ。
「あー、とうとう」
同ベーシスト、ミキオが頷く。
「仕方ないよな」
同ドラムス、ソウは溜め息をついた。
彼らはゴシック・パンクバンド、セデューサーのメンバー。
フロントマンのヴォーカリスト、アキが引き抜かれて脱退してしまった。
残された三人、バンドの存続が危うい。
「で、二人ともどうする?」
自分たちの身の振り方をジェイは問う。
「俺はジェイに誘われて嬉しかったから、ジェイについてく」
ミキオは力強く宣言した。
「俺はミキオのベースがやり易い」
縋るようにソウは言う。
「では、存続で」
「おう」
ジェイとミキオが頷き合う。
「ヴォーカルは?」
ソウは避けて通れぬ問題を口にした。
「……」
「晴臣さんに頼むか?」
インディーズ界の相談役の橘 晴臣にお願いするのが手っ取り早い。
そうでなくとも、アキは晴臣の仲介でルアードに引き抜かれていったのだ。
「ミキオで良くね?」
ソウは思い立つ。
「…………」
数瞬の沈黙。
「はい! 決まり。ミキオで」
ジェイはパン、と手を叩く。
「……何でだよ」
困惑するミキオ。
「この中で一番コーラス上手いだろ」
ソウの正直な意見。
ジェイはずっと頷き返していた。
「それより、やっぱさ。謝ったほうがいいんじゃね?」
前を見据え、ジェイが言う。
「だよな」
「頼りすぎたよな」
俯きながら答えるミキオの横で、ソウが両手で顔を覆う。
「コンビニ店員」
自分の胸に手を当てるジェイ。
「ヒモ」
「実家の手伝い」
ジェイはビシリ、とミキオとソウ、二人を次々と指さす。
「お前らもっと稼げ」
両手を握り、絞り出すようにジェイは言った。
「すまん。でもヒモって家事が仕事だよ」
いわゆる、主夫? とか言いながら胸を張るミキオ。
いや、主夫に謝れ。二人から叩かれる。
「申し訳ない。でも店番してるぞ」
ソウの実家はアーケード街の小さな商店。
その風貌で? めっちゃ怪しい。何、売ってんの?
と、ジェイとミキオが驚愕する。
◇◆◇
「ね、何なの?」
「いいから、こっち」
ぐいぐいとアキの背中を押すジェイ。
目指す場所は近所の居酒屋。
「アキ、連れて来た」
居酒屋の個室の襖を開け放つジェイ。
「え、何? 二人とも……、土下座?」
アキの目に入って来たのは異様な光景。
ミキオとソウが揃って、頭を畳につけてひれ伏している。
「申し訳ございませんでした!」
ミキオ、ソウの横にジェイが並び、声を合わせた。
「……どういう事? 謝るの俺の方じゃない?」
困惑、そして混乱。
アキが首をかしげる。
「いや、とりあえず、座ってください」
ジェイが上座を指さす。
ここ? と言いながら、そろそろと座るアキ。
「アキ。今まですまなかった。金、お前にばかり頼って」
ジェイが再び額づく。
「……はあ」
「反省した。嫌になってもしょうがないよな……」
ミキオも同様に。
「いや、そういう理由では……」
「戻ってとは言わない。とにかくすみませんでした」
さらにソウも。
「こ、こちらこそ、抜けてごめんなさい」
居た堪れなくなって、アキも謝罪する。
「応援するよ!」
「アキの声、好きなんだよ!」
「パフォーマンス凄く良かった!」
三人の声がこだまする。
「え、ええ? ありがとう」
戸惑いながらも、ちょっと照れて笑うアキ。
「俺ら、続けるんだ。当面ミキオが歌う」
「当面、な」
「晴臣さんにも頼んでるんだけどね」
三人の微妙な温度差。
「俺、ミキオの声、凄くいいと思ってた」
率直に答えるアキ。
「だろお?」
「いや、そんな」
「うんうん」
まんざらでもないミキオと、どや顔の二人。
「何だか、結束強くなったんじゃない?」
自分、いない方が良かったかな。と、少し寂しげなアキ。
「そういう訳だから、俺たちは大丈夫だ」
「あらためて今までありがとう」
「アキはむこうで頑張れ。こっちも頑張るよ」
一通り謝罪と感謝を伝え、ホッとする三人。
「やあ、呑んだなあ」
「腹いっぱい」
「動きたくない」
「すみません。お会計お願いします」
襖から顔を出し、店員を呼ぶアキ。
「「「ご馳走様です」」」
三人の声が重なる。
「ああ、大丈夫かなあ?」
◇◆◇
「と、まあ、そんな話があってね」
橘 晴臣の店に集合。
「探してんのね?」
店内のソノシートを手に、晴臣を見る斉川 淳。
「うーん、悪い事したかなぁ。でも、アキ欲しかったしなぁ」
壁のポスターを見ながら呟く能代秀之。
それは仕方ない。円満だったし。
そう言って晴臣は笑う。
「まあ、何とかなるんじゃない?」
他人事を決め込む淳。
晴臣と秀之は顔を見合わせ、肩をすくめた。




