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ワインの涙  ~他愛も無い日々~  作者: 麻生あきら


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2/5

眉月

「美味しそうだなあ、あれ」

 斉川 淳が指をさす。


 能代秀之が指先を辿ると、そこには細く輝く月。

「美味しそうって、おい」


「こう、口に含んでさ、溶けそうで溶けない感じ。舌で押したら割れそうな。でも、割らない」

 興奮して身を(よじ)らせながら淳が話す。


「訳わかんないな」

 秀之は首を捻る。


「あれは繊月(せんげつ)? いや、もっとはっきり見えるから三日月か? 朔月(さくげつ)はいつだった?」

 橘 晴臣は夕暮れに浮かぶ月を見やる。


 挿絵(By みてみん)


「何それ?」

 秀之と淳が揃って晴臣を見る。


「……月齢。東京で見えるなんて思わなかった。淳の家が西の果てで良かったな」

「西の果てとか酷くない?」 

「月齢とかよく知ってるな」


「……秀之は大学行ってなかったか?」

「大学関係ねえだろ。それに私立のエスカレーターだから」


「こいつ、幼稚園からなんだよ。小学校の時なんて近所の公園で暴れてたのに」


 気に入らなければ誰にでも喧嘩を吹っ掛ける秀之。

 そんな秀之と淳は、公園で知り合った。


「淳はそのお陰で、うちの親にピアノとギター教えてもらえただろうが」


 秀之の両親は揃って音楽家だ。母はピアノ講師もしている。


「それはー、感謝してるけどー。そもそもおまえが俺を吹っ飛ばしたせいだろ」


 喧嘩を止めに入った淳を、勢いで秀之は殴り飛ばした。



 謝罪に淳の家を訪れた秀之の母。


「なんて可愛い子なの! 秀之と大違い!」

 淳の屈託のなさに射抜かれ、気づけばピアノを教える確約を交わしていた。


「えー、ピアノ教えてもらえるのー?」

 淳は満面の笑みを浮かべた。




「まさかそんなバイオレンスな出会いだとは思わなかったよ……」


 まあ、今でもバイオレンスだけどね。

 晴臣はぼそりと付け加えた。


「ふふっ」


 秀之の薄い唇が三日月のように弧を描いた。

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