表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星屑の残骸  作者: 沼口ちるの


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

スクラップ・スターの空、あるいは次の火種

数ヶ月後。  かつて第7廃棄区画と呼ばれたスラムの片隅には、相変わらず鉄の残骸が死体のように積み上がっていた。  だが、その一角にある小さなガレージからは、かつての悲鳴のような放電音に代わり、カン、カン、という小気味よい「金槌の音」が響いている。


「……ダイア。お昼だよ。パン、焼けてる」  ガレージの扉を開け、ユラが入ってくる。  彼女の白い肌は健康的な血色を帯び、その胸元には「命令」ではなく「自分の意思」で打つ鼓動が、静かに、しかし力強く刻まれていた。  ダイアは作業台から顔を上げ、少し困ったように笑った。 「……ユラ。ごめん、今、いいところなんだ」  彼の手元にあるのは、軍の払い下げ品の古いラジオだ。ダイアには、あの日自分がどうやって「神の理」をハックしたのか、その記憶は一文字も残っていない。母親の顔も、スラムの夕焼けの美しさも、全てはあの夜の演算リソースとして焼き捨てられた。


 だが、指が動く。  理由ロジックを忘れても、ハードウェアがその「直し方」を覚えているのだ。    ガレージの外では、テツが相変わらず泥だらけのトラックを鳴らし、ゴミの山から「金になりそうなガラクタ」を運び込んでいた。  見上げた空は、円盤が去り、一時的な静寂に包まれている。  だが、その青空の向こう側――大気圏の外では、墜ちた『執行者』を巡り、連邦軍と異星の艦隊が、次の殺し合いの準備を始めていることを、スラムの住人はまだ知らない。


「……行こうか。今日は、テツの車も直さなきゃいけないしな」  ダイアは、あの日自分を再定義した少女の手を取った。  その温かさを、彼は「幸福」という名の未定義データとして、大切に、空っぽの脳に書き込んでいく。


 ガレージの扉が閉まる。  棚の奥、埃を被ったまま二度と開かれないはずの、ダイアのノートPC。  その、ひび割れた液晶画面が。    一瞬だけ、黄金色のノイズを走らせた。    表示されたのは、ダイアが書き込んだ覚えのない、未知のコマンド。    



【Update 01 : 宇宙の再設計を継続しますか? (Y/N) 】    

カーソルが、獲物を狙う心臓のように、闇の中で静かに点滅していた。    



(完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ