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アラクネと黒髪ボッチ(改作)  作者: 雷誅 萬刃
11月 終わりゆく生活
28/28

半生 前編

お待たせしました。


「あ、起きた?おはよう。昨日は頑張ってくれたね。今日も沢山精を付けてね」

「んぅ……あ〜ん!あ〜んされないと食べない!」

「寝ぼけてる?かわいいね♡はい、あ〜ん」

「ん」


 口の中に内蔵特有の風味と血の風味が広がる。やっぱり調味料が欲しい……。


 噛んでたら目が覚めてきた。……俺は16にもなってあ〜んの催促をしたのか?


 付き合い始めた彼女がやってもキツイ事を平然とやったといつのか?


「美味しい?」

「獣臭い……」

「正直だね。私を信頼してなきゃ出てこない言葉だから好きだよ。はい、あ~ん」

「ん……」


 白露は楽しそうに俺に餌付けをしている。今更恥ずかしがるなんてかえって格好悪い。


 ……うん。白露の事を考えよう。好きになったきっかけってなんだったんだろう。


 初めはただ美人だから気になってただけなだった。どうして惹かれたんだろう。


 楽しく話せるから?どタイプだから?俺と関わってくれるから?


 俺を大切にしてくれるから?


「こっち見て、今目の前に居る私の事以外考えないで。私達は今この瞬間しか生きられないのに……過去の私や未来の私に君の貴重な今を浪費するなんてやめて。ちゃんと五感の全てで目の前の私を感じて」

「うん」

「きっと私をどうして好きになったのかなんて無意味に悩んでたってところかな?大事なのは今私達が愛し合ってるっていう事実なんだよ。それ以外になにか必要かな?」


 何も間違ってない。そう、別に何も間違ってない。でも俺は白露に……


 いや、白露がこう言ってるってことはそれが正しい。白露がどう思ってるか。


 大事なのはそれだけだ。なら、今目の前にいる白露だけ見てればいい。


 未来も過去も全部壊して今を選んだんだから、今に向き合うべきなのだ。


 壊す以外の選択肢などなかったし壊さなければ、俺の望む未来なんて無かった。


 それでも……あの時、あの場所で軽率に壊すべきだったのだろうか。もっ──


「どうしたの?何も怖くないからね……」

「もっと、我慢出来たような気がする。もっと、適切な時期が……あったんじゃ」

「目の前にないものを考えるのは君の悪い癖だね。目の前の私をもっと、よく見て」

「うん」


 そう思って思考の渦から帰ってきた時、白露の唇が俺の言葉を遮ってきた。


 昨日のような欲望たっぷりのキスではなかった。


「君は優しいから、私だけに負担を押し付けるような道を選んでよかったのか悩んでるんだよね。でも、私は負担だなんて思ってないし、私と君が幸せに道はこれだけだったよ。

それでもまだわだかまりが残ってるなら、私と出会うまでのこと、私と出会ってからのこと全部話してみて。そしたらきっと心の整理もつくよ。私は君のことは全部知りたい」

「……。…………。………………分かった」

「私も全部話す。君と出会うまでのこと……君と出会ってからのこと、全部」

「……うん」


 もう、こんな不毛なことはやめよう。いい加減過去と決別しよう。


「俺は、西の方の病院で生まれた。恩恵を感じたことはそんなにないけど」

「実家は多少恵まれてたと思う。数年の移動の後、ここに落ち着くことになった」


 白露が真剣に俺の話を聞いて、反芻して、考えて、記憶に刻もうとしている。


「それからは、その、まぁ……初恋してみたり、友達を作ってみたり」

「平凡に過ごしてたんだ。昔は友達居たんだよ……11歳になるまで毎日のように遊んだ」

「……もっと聞きたい。教えて?」


 電気が点いたのかと思ったら、白露が俺の手を掴んで目を輝かせていた。


 こんなに前のめりに聞いてるのは珍しい。ここからの内容は聞き心地がよくない。


 キラキラされると騙してるみたいで申し訳ないな。


「……忘れもしない11歳の頃。遊びに行った友達、そのうちの一人……」

「今考えれば友達だったかも怪しいか。その一人に虐められるようになったんだ」

「それからは一人でいる時間が長くなってきた。一人で出来ることに熱中した」

「それからは周りと話すことも無くなっていってね」

「交流の場が増えたこともあったけど、結局その場限りだった」

「思えば11歳のあの時から、ずっと一人だったのかな」

「寂しかったよね、苦しかったよね……。もっと、もっと、もっと早くに」

「一番辛いときに側に居てあげられなくてごめん……ごめんねぇ……!!」

「今、白露が隣に居る、だから良かったんだよ。これで」


 白露が俺を抱き寄せて泣いている。こんなに泣いてる白露見たことない。


 愛……俺が白露に渡せてないもの。白露はずっと返し方を教えてくれてたのに。


 それに気付かなかった。今この瞬間を白露と向き合う。それだけのことに気付かった。


「うっ……うぅっ……」

「随分前に終わった話だから」

「こんな話を聞いて、泣かないなんてこと、あるわけない……」

「こんなこんな辛い事があったのに……生きてくれてありがとう。私と出会ってくれて、ありがとう」


 服を掴みながら絞り出すように出された感謝の言葉が、俺に悟らせた。


 俺の人生は白露と出会ったあの時から始まったんだと。


「ううっ……私も話すよ……ひっく……」

「無理しなくても……」

「約束は、守らなきゃ、いけないんだよ」


次は1週間後です

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