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黎明旅団 -踏破不可能ダンジョン備忘録-  作者: Ztarou
Act.1 The First Complex
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第73話 本懐③

 この時、ロアは過去に触れたセナの炎の記憶をたどり、炎を腕に宿した。それをどうやったのか、彼にもわからない。ただ、そうすべきと思ったときにはそうなっていた。そして、炎を使ったのにも意味があった。


 セナはあの炎の火力を上げる際に、一切、周囲の環境に影響を受けていない。極地環境が再現されたトレーニングルーム《Rye》に閉じ込められている状況や、サリンジャーの支配空間にいる間に炎を使えば酸欠になってもおかしくない。だがそうはなっていない。彼女のアーツの特性上、その炎に周囲の酸素は関係ないのだ。


 であるならば、可燃性ガスと共に己が酸素を生成しているはず──。


 ロアは一瞬でその思考に至ったわけではなかった。どころか、それが合理的である、もしくは最適解であるなどとも思っていなかった。今は、セナを苦しめた目の前の黒コートをぶちのめすことしか思いつかなかった。


 それでも実際、彼のスカーレットモードは、彼が最も生存に適した環境に周囲を作り変えて行った。それはその場所が極地であったからなのかもしれない。


『我は混沌を、調律する者──』


 魔眼ダークロードは眼に宿した魔眼を開く。魔眼はそれぞれが奇蹟を起こす。ダークロードが左目に放った輝きは雷撃を生成する。足の遥か下にある雲から雷撃が昇る。それらを身体にまとわせる。暗闇のコートは鈍い光を反射しない。


『インドラ』


 バチバチと電気が走り、雷鳴が轟音となって地を揺らす。そして魔眼ダークロードは右目を開く。右目に走った閃光は、黒く変色する。


『シヴァ』


 魔眼ダークロードが腕を出した。その腕は漆黒に覆われ、触れた空間が破れ、そしてまた再生してゆく。その音は不気味な不協和音を生んだ。


『貴様の左腕と我の右手、先に滅ぶのはどっちだろうか』


 無力化の左腕と、破壊の右手。どちらかの消滅は免れない。

 言葉を聞く前に駆けたのはロアだった。同時にダークロードは左手の力を使って瞬時にその場を退避した。だが、ロアの駆けた一歩はその速度を超えていた。


『速い──ッ』

「(……身体が四散しそうだ)」


 空気を瞬時に蒸発させるほどの高熱が、硬度が高められた恐ろしい威力の一撃に乗って放たれる。しかしその右腕に対してダークロードは避けず、破壊と再生の左手を差し出した。

 ロアは自分がスイレン戦にて行ったことを思い出し、ぎりぎりで左手を間に挟み、相殺する。ロアの左手には全てのノルニルを消すニュートラルが発動されている。ロア自身この使い分けが初めてであるため、破壊の左手を消しきれず、前腕の骨2本を粉砕される。


「ぐぁッ……」

『──だが手ぬるい』


 だが、肉を切らせて骨を断つ。否、骨を砕かせぶっ殺す。

 ロアの右腕に乗ったエネルギーをロアは一切減衰させず、むしろそこにだけ、その拳一点にだけ、強い感情を流し込む。その一撃は身体を回転させ、足を曲げたところで、相手の腹を正確に捉える。


 風切りが、魔眼の頬を切り裂くまでに高まる速度と威力。


『否……──』


 その流れるように次策を立てる工程は、サリンジャーとの訓練で身に着けたものだ。そして、それを一緒に編み出したのは、彼のパートナー。


 街を襲った、魔眼ダークロードの使役するアグニ。その業火に正面から立ち向かったセナ。蹂躙され、焼かれ、傷つけられた、相棒。それでも立ち続けた、セナ。


 復讐者は、もはや等級差による恐怖など、少しも感じていなかった。


 拳に宿るのは怒り。ただ純粋なる、真っ直ぐな、美しいほどの、憤怒。


 痛みを、力に変える。一撃で終わらせろ。身体など心の副産物だ。


「僕らは未だ旅の途上にいるんだ。邪魔をするなッ!」


 セナが怪我をして探検を諦めるなどとロアは思っていない。だが、妨げられて黙っているほど、彼は優しい人間ではないのだ。


『クソっ、来い、イージスッ!!』


 その紅蓮は、拳先に輝く、一閃──。


「──イグニッション」


 その爆熱は、音や空間を容易に融解させるほどにまで達し、魔眼ダークロードが一瞬にしてインドラを切り替え、腹部に展開したイージスの盾をも、もはや触れる前に砕き、その点だけを見れば最高出力の《虚心》100%で、敵対者のどてっぱらにぶち込まれる。


 ……RYYYYYYYYYYYN──。


 その衝撃は打ち込まれた一点にのみ作用した。威力は大断裂以前の人間が愚かにも戦争で使用した悪魔の兵器など、比較にもならない。


 集約された力は魔眼ダークロードという存在を吹き飛ばした。


『(こちら側が死ねば、あちら側は──)』


 音が聞こえない。ロアは、身体を守るために展開していた2%を忘れていなかった。今度は倒れたりなどしない。吹き飛びもしない。それでも、視界が暗転してゆく。


 最後に見たのは、何者かが、吹き飛ばしたはずの《魔眼》をその腕に抱え、空を歩いて空間を切り裂き、闇の中に潜ってゆくところだった。その冷たい目をした女性は、ロアのことを一瞥した。何を言うでもなく、ただ見つめた。どこか懐かしいその瞳は──。


 そしてブラックアウト。身体が揺れている。音が聞こえない。地面が崩れている。何も考えられない。感情が維持できない。身体から力が抜ける。


 極地は生きているという仮説がある。事実、内側から作用した膨大な力を解毒するように、極地は自ら崩壊を起こした。アポトーシスだ。


 そして、身体から血を流したロアは、血液と共に高度8000mからの落下を始めた。

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