第74話 代償①
──数十分前。
「ソワカ! ロックウェルに通信がつながらない、そっちに何があった!」
逆理遺物の大鎌「結薙」で、予兆なく暴走を始めたテッコツ生物を斬ってゆくサリンジャー。彼女は通信チョーカーによって、連絡がつかないロックウェル隊に何かが起きたのかと、第2中隊長のソワカに連絡を入れた。しかし、第1中隊長と同様に、ソワカにも連絡がつかない。
「サリンジャー、後ろだッ!」
ポンドが叫ぶと同時に大鎌を舞うように振り回したサリンジャー、テッコツワタリは両断される。しかし。極地生物の波が収まらない。
そこに、《破脚》で駆け、遠くまで状況把握に出ていた、デルタが戻ってくる。
「ロアどこにもいないよ! 連絡もつかない!」
デルタの後ろにいたテッコツユラシをファティマが撃ち抜く。
「ン、どこ行ったンだアイツ、また拉致られたとかじゃないだろな!」
サリンジャーはその可能性について最初に思い至っていた。中継基地での一晩を越して、朝になり、サリンジャーが皆を起こすためにたった一瞬目を離した瞬間、ロアはいなくなっていた。まるでそこだけ空間が切り取られたかのように忽然と。
こちらはあくまで陽動でしかない。その前提を基にした作戦で、サリンジャーも目を離さなかった。だが、たった一瞬生じた間隙を虎視眈々と狙われていた。
敵の狙いは初めからロアだった。もはやそう考える他ない。
「サリンジャー!」
ポンドは同期した極地生物を操り、同士討ちをさせかく乱する。
「テッコツどもはどんどん増えてる! 指示を頼む」
「ここに居ても埒が明かない。深層まで一気に潜る!」
「ロックウェル隊はどうするの?」
デルタはソラテッコツを空中回し蹴りで消し飛ばす。
「スノウに任せる。アイツの狂化暴走にかけるしかない」
サリンジャーは腕を出し、そこに万年筆で命令式を記述する。
「──定義構築、領域制圧、敵性者一斉爆砕式、ジェノサイドオーバーッ」
詠唱と一瞬のラグもなく一定範囲内のテッコツが爆破され、ミッドナイト小隊のメンバーは面食らう。サリンジャーはロナメーターで深度をチェックする。
「おいおい、そンなもンあるなら初めから使えよ」
「これ使うと契約で半年禁酒になんだよ……」
全員が「もう酒やめろよ」と内心で突っ込んだ。
そんな視線を無視して、サリンジャーは深層に向け走り出す。ついてゆくメンバー。ミッドナイト小隊は単騎、魔境ゴールデンゲートブリッジの上階、極地深層へと足を踏み入れる──。
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