第52話 選抜②
甲板、南部デッキ。第2運動場。ロアとラウラの訓練ほどではないが、観客は多かった。支部長直下指揮部隊の任務は秘匿されている。だが、昇進や経験を積むことにおいてこれ以上に重要なことはない。しかし、選抜戦の総数が少ないのには理由があった。
過去に部隊が編成された際、その作戦中に全員が死亡した。それは誰の過失でもない。極地という場所がただそういう現実を孕んでいるということだ。隊は経歴不問で集められる。つまり、乖離等級に10以上差がある極地に入る者もいるということだ。それは探検ではなく、危険を冒す、冒険だ。
旅団員は夢や希望に満ち溢れているが、愚かではない。自ら死にに行くようなことは、あまりしない。
そういった理由から、この選抜戦への参加者は多くなかった。
セナも当然そんなことは知っている。だが、シャンバラへの最短ルートがこれだと言うのならやろうと決めた。ロアとは口に出さずとも「安全が最優先」と通じ合った上で。
対するはソワカ。対戦のぎりぎりまで筋トレをし、身体を最高の状態に仕上げる。セナはそれをみて変わらないなと思った。ストレッチを終えて、審判役に目配せをする。
ホイッスルが鳴った。先に動いたのはソワカだった。歩いてくる。
「セナ。私はお前を認めないよ。どれだけ強くなったとしてもね。支部長に気に入られようが知らない。この勝負は私がもらう。私はお前が嫌いなんだ」
セナは目をピクリと動かす。動揺しないよう努め、呼吸に意識する。拳を握って、振り下ろす。彼女の両手は炎に包まれた。皮膚表面に熱伝導をしないよう極低温の炎をまとい、層状になるよう、最外殻には超高温の火炎を展開する。
「あなたが認めようが認めまいが、私には関係ありません」
「(クソが……)」
セナはそう言って、歩いてくるソワカを迎撃する姿勢に入った。ソワカは得物を構える。流れるような長物捌きに歓声が上がる。
「へぇ。ばかすか炎を乱射する病気、治ったんだ」
ソワカは真剣に悪意を込めた。
セナのアーツ戦闘における欠点は一射使い切りという所だった。サリンジャーにもそれが課題だと言われ、しばらく悩み考えていたが、前日のロアスイレン戦を見て、炎をまとわせることを思いついた。
基本的に炎をまとわせることには何の意味もない。熱でくらくらする上に火傷の危険が高まる。打撃の威力が上がるでもなければ、相手を燃やせるでもない。
だが、セナにおいては違った。彼女の熱操作というのは、本来、《紅蓮》の世界にある逆理遺物レーヴァテインによるものだ。
炎を司る魔剣──レーヴァテイン。
指を弾き一撃を飛ばすのは容易だが、それはレーヴァテインそのものを投げつけていることに等しく、すなわち使い切りとなる。もしもその魔剣の力を全身に宿らせることができるのなら、強力な逆理遺物をまとうことに等しい。
ロアの戦闘スタイルから着想を得たそれを《Rye》で試した。まだ試作段階でしかないが、弱火で展開することはできた。あとはこれを相手に合わせて──ガッ。
セナは左前腕を盾にして、何とかソワカの一撃を防いだ。余計な考え事は隙を生む。学生時代に最初に学んだことを忘れる程、実はセナは動揺していた。
「そうか。炎の層が延々と生産されるから、私の矛は届かないってことね。でもさそれって、ノルニル切れたら終わるんじゃないの?」
止まらぬ斬撃。ソワカのアーツ《冷戟》。氷の矛を生産し操る。炎と氷、セナが有利に思われる対決だが、氷ひとつで極地に潜る専門級の隊員が、熱への対策をしていないわけがない。この対決は、セナが経験でも力量でも負けている。彼女の攻撃は止まらない──。
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