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黎明旅団 -踏破不可能ダンジョン備忘録-  作者: Ztarou
Act.1 The First Complex
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第51話 選抜①

「おっえええええええええ……──」

「吐くのは良いんだけどよ~、朝メシ作ったオレと農家さんの気持ち考えろよな~」


 そんなことをいいつつ、ロアに水入りコップを渡して背をさすってやるポンド。


 甲板は離陸前よりも強く風が吹いており、とてもゆっくり歓談できるような場所ではなかったが、吐くなら外でやれとのシリウスからの全体通知によってロアとポンドはデッキに顔を出していた。


「あっはははは。船酔いはすんだね」


 寝ぐせを手櫛で梳かしながらふたりの元にやってきたサリンジャー。彼女は南部食堂の名物サンドイッチ「たまごスペシャル」を頬張っていた。


「ぅぷ……。この揺れでよくそんなものが食べられるな……」


 サリンジャーは強風で長く青いウェーブのかかった髪をなびかせ、肩をすくめる。


「ラウラのアーツって規模も出力もでかい分、操作が大味なんだ。これでもマシな方だしな。宙に浮かせて、艦内には重力を発生させて、吹き飛ばないよう押さえつけて、前方に推進……ってな感じでやってる操作も割と多い、だからアタシらができるのは我慢だ我慢」


 はははと笑いながら、彼女は軽くストレッチをして甲板のランニングを始めた。去っていくサリンジャーを見送る前にロアはまた吐く。


「酒を……飲んだらあんなに吐く癖に……」

「サリンジャーの三半規管って、たぶん超強いぜ。あの人が極地でダウンしてるとこ見たことねーもん」


 ──なら酒でも吐くな! 相関があるかは別としてロアは内心そう叫んだ。


「にしても、ほんと美人だよな。なんかいい香りがするし」

「恋とは盲目な……おぇ……ものだな……」


 無理して喋るなよ~と言うポンドはデッキの柵にもたれる。


「恋とかそういうのよくわかんねえけどよ、オレ、この作戦が終わったら、サリンジャーに結婚してくれって言うんだ」


 頭の後ろで指を組んでそんなことを言うポンド。


「……」


 そういうことを言った人間が死ぬのをロアは本で読んでいたので微妙な気分になった。フラグと言ったっけ。


 風にあたって、少しは感覚が戻ってきたロア。


「結婚か。君はてっきり遊び人なのかと思っていたよ」

「ん? や、オレはいつでもホンキで真面目だぜ」


 ロアは思った。バカなだけで、根は真摯なのだと。


「んなことよりよー、選抜戦、見に行かなくていいのか? 確かセナの奴、順調に勝ち上がってたら次はロックウェルさんとこのソワカとだぜ」


 アメリア共同体、ロサンゼルス経済特区にて行われる《魔鍵》奪取作戦──通称「天空作戦」──の支部長直下指揮部隊の選抜戦が、空の上では行われていた。

 本来はシリウスが厳正に審査をするところだが、ラウラがロアとセナをねじ込むために、経験年齢経歴身分を不問として、メンバー選抜戦を実施したのだ。


 ロアは前日に、既に初戦でスイレンと当たったが離陸前の一戦が功を奏し、傾向と対策を行ったロアが勝利を収めた。具体的には、相手の血中ノルニルを操作する状態、特に相手のアーツを無効化する状態──ニュートラル──と、内在エネルギーを利用して攻勢に転ずる状態──アサルトモード──の切り替え速度を速くした。それだけのことだったが、対人戦において、二軸での戦闘手段があることのアドバンテージは大きい。


 ロアはスイレンを尻に敷き返し、圧倒的に勝利を収めた。スイレンファンの観客からはブーイングが飛び、ロアへ社会的信用がやや下がった。


 そして学生級(ペイジ)が専門級(エキスパート)を下したことで、ロアのメンバー入りは決まった。ラウラと一緒に行けないことを泣いて悔しがったスイレンを慰める様に、ラウラの武勇伝を持ち帰ると彼女に約束をして、第一回戦は決着と相成った。


 翌日の第二回戦。ポンド対ロックウェル。両者がアーツを派手に打ち合う試合となったが、格下のポンドが辛くも勝利。ロックウェルは後のインタビューでこう語っている。


「途中で気が付いたんだ。自分の隊を率いることをすっかり忘れていたと……」


 ロックウェルは非常に真面目で堅物ともいわれるが、おっちょこちょいなのだ。


 そして迎えるは第三回戦、セナ対ソワカ。


 ロアは艦の外に吐いて、口元を拭いながら思う。ソワカって確か──。


 ロックウェル隊第2中隊長ソワカ・スワン。セナやデルタやファティマの同期。卓越した状況判断能力をロックウェルに買われ、第2中隊長を任されている。


 そして、セナを捨てた元パートナーだ。


「どした、ロア」

「いや、今日は部屋で休むよ。選抜メンバーが決まれば呼んでほしい」

「いいけどよー、セナは良いのか?」


 ロアは小さく頷いて艦内に戻った。彼はなんとなくそこにいるべきではない気がした。それに、セナは過去に拘泥する人じゃない。きっと、その先を見つけるだろう──。


 そう思っていると船が揺れて、ロアはまた吐いた。

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